第25話 不適応者
文字数 1,742文字
「フゴォ──フゴォ────フゴォ──」
作業場の表への出入り口に立つ魔物 が鞴 のように呻 いていた。
それは人のように手足はあるが皮膚の表面にびっしりと大小の異様な色合いの茸 が並びその傘から膿 のようなぬらぬらした液を滴 らせている。
池の精霊に一泡吹かせようと勇んでいたアイリ・ライハラはその怪物の汚らしさに絶句し後退 さりすると後ろに隠れた記憶喪失の魔女も奥へ下がった。
あまり強そうに見えない化け物だがぬらぬらに近づき難いものがあるとアイリは引き攣 った顔で苦笑いを浮かべた。だが服を着た怪物など少女は眼にしたこともなくよく見ると覚えのある豪勢なものでふと思いだした。
「うぅ!? こいつなんでヘッレヴィの服を──まさかあのお堅い女を襲い殺して服を奪った!?」
それにしては司祭衣装に血はついてなく染み広がるのはぬらぬらだけで殺され奪い盗られたのではなく身包 み剥 がされたような気がして、それならヘッレヴィはすっぽんぽんで森から出られないのかもしれないとアイリは思った。
「アイリ、そいつの粘液に触れるな! 触ったところからマタンゴが広がるぞ」
父親に言われ、少女は問い返した。
「マタンゴってなに!?」
「茸 の特異性変異株だ」
特異性変異株!? アイリは余計にわけがわからんと思ったがつきるところ茸 の化け物じゃん、と思うことにした。
その寸秒化け物が両手を上げ向けて足を踏みだしてきて、父に触るなと言われた少女は剣先 を向けたまま部屋を回りながら後退 さり服の後ろをつかむイルミに警告した。
「いいか、イルミ。あいつに触るなよ。触ったらエンガチョするからな」
それを聞いて記憶喪失の魔女は身震いし激しく頷 いた。
眼の前の魔物はあまり強そうになく少女は一気に斬 り倒そうと思っても斬 った拍子に飛び散る粘液がかかりそうで気が引けた。
「フゴォ──フゴォォォ──」
濁った呼吸音を繰り返す怪物の動きに合わせ回り込むアイリはクラウスが逆側へ回り込んで茸 化け物の後ろに行くのが見えていた。
父が壁に立てかけてある盾 と長剣 を手に取るのが見えてどうやって斬 り倒すつもりなのかと少女は眼を細めた。
父はただの鍛冶職人ではない。
剣 を使えばオリハルコン級の勇者並み、魔法を使えば大国魔法団を相手にできるスキルがある。
だけれどアイリはあんなぬらぬらを都合よく回避できる剣術も魔術もないような気がした。
ふとアイリは服を奪われたヘッレヴィ・キュトラもぬらぬらに触れてマタンゴになってるような気がした。
いいや、もしかして────!? まずい! まずいじゃん!
「クソ親父ぃ! こいつ一緒に連れて来たヘッレヴィ・キュトラだぁ!斬 るなぁ!」
てっきりヘッレヴィが魔物に襲われて服を奪われたと思い込んでいた。あいつがその茸 に触れて茸 怪物になったんだぁ。
寸秒クラウス・ライハラが高速 詠唱 を唱え始めた。
「穿 て穿 て天空の刃 、大地めがけ牙を剥 きし猛威、咆哮を纏 い雷帝の舞いで振り下ろすは──光輝百雷 !」
アイリ・ライハラは顔を引き攣 らせ記憶喪失の小娘の腕をつかみ箱鞴 の陰に飛び込んだ。一閃 作業場に雷光が溢 れ爆轟にものが踊り上がった。
あ、あのアホウ! よりによってドラゴン級の特級大型魔獣を麻痺させる魔法使いやがってとアイリ・ライハラは剣 を手放し記憶喪失の小娘を抱きしめ片腕で頭を片腕で庇 った。
「げげぇ!」
父親の上擦った声が聞こえアイリが頭上げると父親が廊下の方へと逃げようとしていた。
その理由を少女は目の当たりにした。
マタンゴに群生するすべての茸 がぶくぶくと泡立ち次々に新たなものが競い合うように立ち上り膨らみ始めていた。
「や、やべぇ!」
身体起こしたアイリはイルミと名付けられた子の腕をひっつかみ表への出入り口へ駆けだした。背後で肥大する魔物から洞窟 を流れてくるような呻き声が追いかけてきた。
「フゴォ──フゴォ─フゴォオオ」
アイリとイルミが転がるように表に出ると作業場の外壁を押し倒しながら魔物が怒りのように膨れ上がった。
振り向いた少女は破局の理由を知ってしまった。
雷撃によって菌糸が傷つくとそこから子が成長し、高電圧が空気中の窒素を固定化させさらに成長を促 し続けていた。
アイリ・ライハラは己 の剣術が雷撃系だと思いだした。
作業場の表への出入り口に立つ
それは人のように手足はあるが皮膚の表面にびっしりと大小の異様な色合いの
池の精霊に一泡吹かせようと勇んでいたアイリ・ライハラはその怪物の汚らしさに絶句し
あまり強そうに見えない化け物だがぬらぬらに近づき難いものがあるとアイリは引き
「うぅ!? こいつなんでヘッレヴィの服を──まさかあのお堅い女を襲い殺して服を奪った!?」
それにしては司祭衣装に血はついてなく染み広がるのはぬらぬらだけで殺され奪い盗られたのではなく
「アイリ、そいつの粘液に触れるな! 触ったところからマタンゴが広がるぞ」
父親に言われ、少女は問い返した。
「マタンゴってなに!?」
「
特異性変異株!? アイリは余計にわけがわからんと思ったがつきるところ
その寸秒化け物が両手を上げ向けて足を踏みだしてきて、父に触るなと言われた少女は
「いいか、イルミ。あいつに触るなよ。触ったらエンガチョするからな」
それを聞いて記憶喪失の魔女は身震いし激しく
眼の前の魔物はあまり強そうになく少女は一気に
「フゴォ──フゴォォォ──」
濁った呼吸音を繰り返す怪物の動きに合わせ回り込むアイリはクラウスが逆側へ回り込んで
父が壁に立てかけてある
父はただの鍛冶職人ではない。
だけれどアイリはあんなぬらぬらを都合よく回避できる剣術も魔術もないような気がした。
ふとアイリは服を奪われたヘッレヴィ・キュトラもぬらぬらに触れてマタンゴになってるような気がした。
いいや、もしかして────!? まずい! まずいじゃん!
「クソ親父ぃ! こいつ一緒に連れて来たヘッレヴィ・キュトラだぁ!
てっきりヘッレヴィが魔物に襲われて服を奪われたと思い込んでいた。あいつがその
寸秒クラウス・ライハラが
「
アイリ・ライハラは顔を引き
あ、あのアホウ! よりによってドラゴン級の特級大型魔獣を麻痺させる魔法使いやがってとアイリ・ライハラは
「げげぇ!」
父親の上擦った声が聞こえアイリが頭上げると父親が廊下の方へと逃げようとしていた。
その理由を少女は目の当たりにした。
マタンゴに群生するすべての
「や、やべぇ!」
身体起こしたアイリはイルミと名付けられた子の腕をひっつかみ表への出入り口へ駆けだした。背後で肥大する魔物から
「フゴォ──フゴォ─フゴォオオ」
アイリとイルミが転がるように表に出ると作業場の外壁を押し倒しながら魔物が怒りのように膨れ上がった。
振り向いた少女は破局の理由を知ってしまった。
雷撃によって菌糸が傷つくとそこから子が成長し、高電圧が空気中の窒素を固定化させさらに成長を
アイリ・ライハラは