第20話 剣戟(けんげき)

文字数 1,754文字


 年老いた漁師の(おび)えようにアイリとテレーゼは顔を見合わせた。

 肥溜(こえだ)めの話からイルミ・ランタサルがそれ以上突っ込んだ質問をしないことに少女は便壺(べんつぼ)の話に王妃(おうひ)幻滅(げんめつ)したのだと思った。

 あんなものに2日間も浸っていたのがアイリには信じられなかった。

 銀眼の魔女もあまりもの(きたな)さに手出ししなかったとアイリは思った。

 漁師トンミに礼を述べイルミ・ランタサルが立ち上がると男をのぞいて(みな)が立ち上がった。

 座敷から下りて靴履いた王妃(おうひ)が出入り口へ向かい他のもの達も(うつむ)いている漁師に背を向け次々に靴を履いた。



 寸秒、囲炉裏(いろり)の境から真っ白なものが立ち上がりトンミが引き()った顔を上げ息吸い込みながら悲鳴もらした。



 うんざり顔をヘルカ・ホスティラは振り向け眼にしたものに全員へ叫んだ。

抜刀(ばっとう)!!! 銀眼だぁ!!!」

 その刹那(せつな)、漁師は喉笛を氷の(ソード)で大きく()られ男は銀眼の魔女に頭髪をつかまれ引っぱられ囲炉裏(いろり)の中に倒れ込んだ。

「テレーゼ、王妃(おうひ)様の護衛!」

 そう叫びヘルカ・ホスティラは引き抜いた(ソード)を横様に振りかぶり靴履いたまま囲炉裏(いろり)ある一段高い座敷へ駆け上がり銀眼の魔女の背姿に迫って(ソード)を肩越しに振り抜いた。

 その女騎士が囲炉裏(いろり)跳び越えようとした刹那(せつな)、左から恐ろしい速さでアイリ・ライハラが刃口(きっさき)を斜め後ろに構え回り込んで魔女の首(ねら)(ソード)振り上げて来るのが女騎士にはぶれて見えていた。


 その2人の速さよりも数段素速く銀眼の魔女は(からだ)を振り回し一瞬で両腕を延長するような氷の長剣(ロングソード)を伸ばし爆轟が広がり2(ふたふり)(ブレード)を弾き返した。


 ヘルカは魔女の異様な動きの速さに眼を見張り弾き返された(おのれ)(ソード)を腕ごと1度引ききり回し込んで今度は腰の高さから白い長髪(ながかみ)振り回す魔女の首を(ねら)って(ブレード)を斜めに振り上げた。

 (からだ)ふりまわすのを踏みとどまった銀眼の魔女は、あろうことかアイリの方を向いたまま肩の後ろに回した氷の(ソード)で女騎士の2撃目を受け止めた。

 こいつ見もせずに!? とヘルカは怒り覚えながら足を踏み換え魔女の氷の(やいば)から滑り落とさせた自分の(ソード)を今、1度振り戻し回し上げ後ろ見せる魔女の右肘(みぎひじ)へ爆速で振り下ろした。

 見もせずに(かわ)したり(ソード)で受け止めることのできない角度だった。

 肩の上に(ひじ)曲げて振り上げていた魔女の右腕が一瞬で下りて(ひじ)曲げたまま手首返しまた見もせずにヘルカの振り下ろした(ブレード)を氷の(ソード)の付け根で受け止めた。その(あい)に銀眼の魔女は正面でアイリ・ライハラと左手握る氷の(ソード)で激しく剣戟(けんげき)を繰り広げていた。




 こいつ(からだ)の前後で対応して左右の腕をまったく違うように動かしきっている!

 そうアイリ・ライハラが理解した次の瞬間、(からだ)ふりまわし白い長髪を渦巻かせスピンさせた銀眼の魔女のいた場所をアイリとヘルカの振り抜いた(ソード)が空を()りぶつかり合い振り戻され2人ともバランスを(くず)しかかり足を踏みだして倒れるのを防いだ。


 その片足踏みだし座敷の板を踏む直前にアイリは部屋の出入り口いるイルミ・ランタサルの(かたわ)らに突如(とつじょ)現れた白い人影を視野のすみにとらえていた。


 少女が警告しようと口開きかかったのとテレーゼ・マカイが打ち出した(ソード)でイルミ・ランタサル(ねら)った太刀筋(たちすじ)違う魔女の氷の(やいば)2口(ふたふり)を受け止めたのが同時だった。

 銀眼の魔女は(からだ)ふりまわし姿消し同時にイルミ・ランタサルの反対側に現れ振り戻しもしなかった2口(ふたふり)(やいば)を飛び上がるように振り抜いて王妃(おうひ)の首と胸を(ねら)った。


 テレーゼの(ソード)が間に合わない!!


 そうアイリ・ライハラが顔を引き()らせたのとテレーゼがイルミ・ランタサルの服の襟首つかみ恐ろしい速さで家の外へ引き倒したのが同時だった。


 振り抜かれた襲撃者の(やいば)2枚を受け止めたのは倒されたイルミ・ランタサルを(また)いだノッチだった。

 アイリ・ライハラの守護聖霊は両手別々に握りしめた石で銀眼の魔女の氷の(ソード)を受け止めていた。

 直後、また(からだ)振り回し止められた(ソード)を浮かし回転に追いつかせ、一瞬踊る髪の間に見えた銀眼の魔女の表情にアイリ・ライハラは鳥肌立った。



 紫の唇の薄ら笑いを引き伸ばし銀眼の魔女が出入り口袖壁の前に開いた暗い裂け目に一瞬で溶け込んだ。



 他の場所にあのイカれ頭が姿現し続けるとは少女は思わなかった。

 紙一重でくるんくるんの命持っていかれるところだったとアイリ・ライハラは眉間に深く(しわ)刻んで(ソード)を仕舞った。





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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