第23話 名乗り

文字数 1,795文字

 振り下ろされる氷の(つるぎ)(ソード)で受けなかった。

 アイリ・ライハラは爆速で銀眼の魔女へと踏み込み(つるぎ)振り下ろしてくる手首を左手で受け止め足払いをかけた。

 アイリに右手首つかまれたままスリップ・ダウンした銀眼の魔女へヘルカ・ホスティラとノッチが()り込んだ。

 いかに素速かろうと倒されしかも片腕をつかまれていては身動きが出来なかった。一瞬で胸と腹を刺し(つらぬ)かれた魔女はぐったりと動かなくなった。

 アイリは銀眼の腕を放し倒れているミエリッキ・キルシの首を()ねた。

 すると一瞬で遺体が(しも)に変わり(くず)れさった。

「倒せたのでしょうか?」

 テレーゼが嫌なことを聞くのでアイリは鼻を鳴らした。

「意外ともろかったな。アグネス、よく見切ったな」

 テレーゼに答えたアイリは王女を()めた。

「離れているからよく見えました」

 それでも良い眼をしてるとアイリは思った。


 エントランスから続く螺旋階段を(ソード)抜いたまま用心しアイリらは登り始めた。

「用心しろアイリ──上級騎士は内城に居を構える」

 ノッチにそう警告されアイリはため息をついた。少々()り合いが辛くなってきた。

 その気持ちをその場の最下位騎士マイラ・リュリュが和らげた。

「騎士団長、勝って(みんな)で帰りましょう」

 歳で二つしか違わない早熟の騎士が言っている。


 逃げ道はどこにもない。


「投げ出しはなしだ────」

 そう決意を口にした16歳の少女は二階廊下にでるなり二人の騎士に()りかかられた。

 二人とも十分に素速く手堅い太刀筋(たちすじ)だったがアイリ・ライハラの連続(わざ)に打ち返えされた。

()りかかって名乗るのもおこがましいが、イモルキ第一騎士団グレン・サンダーズ」

「同じく第一騎士団サイラス・キャンベル」

 名乗った二人はともに父クラウスよりも若くヘルカ・ホスティラよりも十分に歳がいっているベテランの騎士だったが身を守る装備は鎖帷子(くさりかたびら)すら身につけておらず並装だった。

「ノーブル国リディリィ・リオガ王立騎士団並びにデアチ国剣竜騎士団──団長、アイリ・ライハラ」

 背負うものを耳にして二人とも驚き顔になった。

「アイリとやら、デアチ国剣竜騎士団々長というのは冗談か、それとも我らを(はばか)っているのか!? 貴君が黒騎士ヴォルフ・ツヴァイクやマカイのシーデ姉妹を束ねるだと!? アイリ・ライハラ────名に覚えがあるぞ革命の日に宮廷魔導師クラウス・ライハラに連れ去られた王女のまたの名! アグネス・ヨークだな!」

 どうやら俺がアグネスと勘違いされているとアイリ・ライハラは思ったが、その方がアグネス自身に危害が(およ)ぶこともないと否定せずにおいた。

「黒騎士もマカイ姉妹、(みな)()り倒した」

 イモルキの第一騎士団騎士は一瞬顔を見合わせ問いただそうと顔を振り戻すと騎士団長を名乗った小娘が(あご)を引き上目遣(うわめづか)いでイモルキの手練れらを(にら)みつけ片唇を吊り上げた。

「剣を持っていたので口上通したが、小娘────嘘を取り消し謝罪するならその首()ねずに済ませようぞ」

 そうグレン・サンダーズと名乗った騎士が形ばかりの譲歩をみせると階段を登りきりテレーゼ・マカイが名乗りを上げた。

「この友であるアイリ・ライハラは、(われ)テレーゼ・マカイを姉もろとも()りすてた裂腕の剣技(けんぎ)を誇る猛者(もさ)ぞ!」

「きさまら(そろ)いも(そろ)って(われ)ら騎士を愚弄(ぐろう)────」

 堪忍袋(かんにんぶくろ)を切らしたテレーゼ・マカイはグレン・サンダーズを名乗る騎士に呪いの叫びを浴びせ、グレンは血まみれになり両膝(りょうひざ)を床に落とした。

「そ、その御業(みわざ)、バンシーの叫聲(おらびごえ)! ほ、本当にマカイのシーデ姉妹の一人かぁ!?」

 サイラス・キャンベルを名乗った騎士が声を裏返らせそれに応えるのも面倒とばかりにテレーゼは叫び残った一人を血まみれにするとアイリが唇尖らせ非難した。

「やりすぎだテレーゼ、(ソード)で倒せよ」

「あなたの剣技(けんぎ)すらもはや剣技(けんぎ)にあら────ぃてぃ!」

 アイリ・ライハラに尻(たた)かれテレーゼ・マカイは驚いて振り向いた。

 鉄靴(サバトン)の音を響かせ着込み(:鎖帷子(くさりかたびら))を身につけた騎士ら十数名が廊下奥から走り込んで来ると倒された身内の騎士らを目にして口上もたれずいきなり()り込んでくるとヘルカ・ホスティラが階段を駆け上り無双状態となりアイリとテレーゼは(あわ)てて階段に避難した。


(われ)こそはリディリィ・リオガ王立騎士団第三位騎士ヘルカ・ホスティラなり! 血祭にされたい奴はかかって来い!」


 こいつの騎士道──変だぞとアイリ・ライハラは気づき始めた。





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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