第22話 御業(みわざ)のごとき
文字数 1,803文字
お前は──何を思い何を探す?
闘技場 に駆け込む騎士や兵らへ顔を巡らせ王女は己 に問い視線を小柄な少女の背姿へ戻した。
圧倒的な多数の敵が僅 か9人の他国のものに牙を剥 く。
こうなる事は端 からわかっていた。
ドレスにしがみつく侍女 ヘリヤが訴 えた。
「王女様──わ、わたし、怖いです」
しがみつく忠実な娘のつかむ手に王女は自分の手を重ね励 ました。
「心配せずともよい。あの娘が────青髪の騎士が必ず活路を開くから」
そう。それは高望みでなく必定。闘技場 内壁に沿って群衆の如 き兵が広がってゆくのをその少女が得物 どころか鞘 1つを持ち睨 み据えている。
王女の後ろでは元 騎士団長リクハルド・ラハナトスへ女騎士ヘルカ・ホスティラが上擦 った声で策を授かろうとしているのが聞こえていた。
「き、騎士団ち──ラハナトス殿、き、騎士団つおう が王を殺 れと言ったが、どれかの出入り口にすらこれでは行きつけません! どうしますか、き、騎士団ち──ラハナトス殿!?」
長剣 を抜き手薄な陣営を探し見回している元 騎士団長が気軽に応えた。
「お前を楯 に斬り込んでみるか!? ヘルカ・ホスティラ!?」
リクハルドは先頭になり斬り込めと言ったのか!?
剣 を両手で構えたヘルカは思わず横を振り向き頼 りのおっさんが本気かとまじまじと見つめた。
「その必要はありません! 青髪の騎士が道を造ります!」
イルミ・ランタサル王女の言葉にヘルカ・ホスティラは困惑した。
どうやって!? き、騎士団つおう の剣 は闘技場 内壁に突き立ちもうこの国の兵士らに隠れ見えないというのに!?
王女の言葉に女騎士は顔を振り戻し唇をあんぐりと開き眼を丸くした。
彼女のかなり先に立つ少女がまるで癇癪 をおこしたようにいきなり握っている鞘 を振り上げ勢いよく下ろし湾曲した鞘 の先端を砂敷にざっくりと突き立てた。
一瞬でそれが縦に2つに割れ裏と表が入れ替わり重なり1枚の湾曲した刃 になると遅れて少女の握る僅 か先にクロスガードが跳ね起きた。
「なっ、なんだぁ、ありゃ!?」
思わず声にしたヘルカの見ているのはたった今まで剣 を入れる鞘 だったものが見事な光沢を放つ剣 に変貌 した怪事。
女騎士の驚きの問いに応えず、少女は片手に握るその湾曲剣 を身体の左右に振り回し始めた。
ほんの数振り。
僅 か一瞬で刃 が霞 み不確かな残像しか見えぬようになると、少女の周りで霧 が尾を曳 き舞い踊るケープに見え始め女騎士はその有り様に眼が釘付けになった。
ディルシアクト城に石像の化け物が押し入った時に、それと対峙した少女が馬車 十台以上も離れている中央池の噴水塔を空振り1つで粉砕したと眼にした侍女 数人が後で女騎士に話し聞かせた。
それだけではない。
その斬撃 は鋼 のような化け物を打ち砕き、操っていた黒爪の小娘の逃げる先の渡り通路を投げる槍 も決して届かぬ距離から一撃で落とした──そう身振り手振りで話す侍女 らをヘルカ・ホスティラは大袈裟だと笑い飛ばした。
矢でさえ届くかの距離で空を斬 り裂き煉瓦 押し固めた城の一部を一瞬で破壊する。
いいや、そんな剣技があるわけがない。
だがそれを王女様も見ていたと耳にし女騎士ヘルカ・ホスティラはずっと王女様に尋ねようと心に思っていた。
今や少女の振り回す霧 のケープは唸 り蜂の大群のような音を放ち、その中央で少女が左右に脚を開き腰を落とした刹那 青髪の少女がケープを引っ張り斜め前に振り下ろした。
輝 く布が1口 の刃 と重なり合った一閃 耳劈 く雷轟が響き渡り少女の周囲の砂が波打ち外へ弾け砂の瀑布となった。
押し寄せた砂塵に剣 を握る両手拳 で眼を守ったヘルカ・ホスティラは立てた剣の刃 の際 からその瞬間を見逃すまいと瞬 きもせずに細めた青い瞳で見つめていた。
正面、高見座の下の闘技場 内壁前に押し寄せていた兵──100人以上が左右に押し倒されその寸秒爆轟を上げ内壁に馬車 が楽に通りそうな大穴が開いた。
本物だったんだ!!!
空を斬 り、城を粉砕する御業 の剣技に女騎士ヘルカ・ホスティラの心臓がゆっくりと追いつき始め息するのも忘れ己 が唖然と見つめている事にいきなり気づいた。
「ほらどうした!? 近道造ってやったぞぁ!」
背姿のアイリ・ライハラがそう怒鳴り長剣 の刃口 を新しい出入り口に振り上げるとそこを死守すべき兵らが逆に広がって離れ始め、ヘルカ・ホスティラを先頭に5人の騎士達が市井 の服を剥 ぎ捨てながら駆けだした。
圧倒的な多数の敵が
こうなる事は
ドレスにしがみつく
「王女様──わ、わたし、怖いです」
しがみつく忠実な娘のつかむ手に王女は自分の手を重ね
「心配せずともよい。あの娘が────青髪の騎士が必ず活路を開くから」
そう。それは高望みでなく必定。
王女の後ろでは
「き、騎士団ち──ラハナトス殿、き、騎士団
「お前を
リクハルドは先頭になり斬り込めと言ったのか!?
「その必要はありません! 青髪の騎士が道を造ります!」
イルミ・ランタサル王女の言葉にヘルカ・ホスティラは困惑した。
どうやって!? き、騎士団
王女の言葉に女騎士は顔を振り戻し唇をあんぐりと開き眼を丸くした。
彼女のかなり先に立つ少女がまるで
一瞬でそれが縦に2つに割れ裏と表が入れ替わり重なり1枚の湾曲した
「なっ、なんだぁ、ありゃ!?」
思わず声にしたヘルカの見ているのはたった今まで
女騎士の驚きの問いに応えず、少女は片手に握るその湾曲
ほんの数振り。
ディルシアクト城に石像の化け物が押し入った時に、それと対峙した少女が
それだけではない。
その
矢でさえ届くかの距離で空を
いいや、そんな剣技があるわけがない。
だがそれを王女様も見ていたと耳にし女騎士ヘルカ・ホスティラはずっと王女様に尋ねようと心に思っていた。
今や少女の振り回す
押し寄せた砂塵に
正面、高見座の下の
本物だったんだ!!!
空を
「ほらどうした!? 近道造ってやったぞぁ!」
背姿のアイリ・ライハラがそう怒鳴り