第13話 言の葉の裏
文字数 1,803文字
飛ばしにとばす。
馬の脚が駄目になるなぞ意中になかった。
ラモ族の長 にルースクース・パイトニサム──銀盤の魔女の古い住処 のおおよその場所や目印を教わり、後は他に生き残りを探し出し話繋げて銀盤の魔女から生き残る術 を見いだすだけだった。
「王妃 様ぁああ! お願いです──馬を労 って下さい! こんな町からも遠い地で馬を失えば命の危険にもなります!」
ヘルカ・ホスティラが大声で警告するのは2度目だった。
もう四時 もイルミ・ランタサルは馬の腹を踵 で蹴り尻を鞭 で打ち手綱 を叩 き鬣 に顔がつきそうなほどの前傾をとり襲歩 で駆けさせていた。
「乗り馬が駄目になれば負担少ない荷役 馬に乗り換えます!」
王妃 は顔も向けずにリディリィ・リオガ王立騎士団第3位騎士に言い返し、同時にイルミ・ランタサルはこの距離を銀盤の魔女はどうやって移動したのだと困惑していた。
拉致 したものを連れ箒 に跨 がり空を飛んだとは思えない。
馬の鬣 に吸い込まれ消えたように何かしらの移動手段を魔女は有 している。
距離は時。時は立場の優劣を決め──速く住処 に戻った魔女は十分に待ち構える時間を得たわけだ。
それが3度目の襲撃をし掛けて来ない理由だとイルミは思った。
狙 いが私 ならアイリなぞどうでもよく、単直に襲ってくるはずだがその兆候は今のところない。
あくまでも狙 いが私 ではないと思わせる欺瞞 でもありうるわけだが、そんな回りくどい方法をとる意味があるのかとイルミは考え続けた。
そもそも捕らえられるものも含め魔女とされる奴らは何が目的で人に仇 なす!?
民 への怨恨 や、何かの欲に駆られるのなら盗賊と変わらず、サバトによる悪魔に唆 されるのならただの悪だ。
悪意の権化 なら裏の魔女ミルヤミ・キルシと五十歩百歩。だがルースクース・パイトニサム──銀盤の魔女にどうしてこれほども不安を抱くのかイルミは理解できなかった。
あれには悪を超える何かがある────。
あまりに考察に耽 り、馬の上下するタイミングに合わせ損ねたイルミ・ランタサルは鞍 で尻を強 かに打ち急に手綱 引いて馬の脚を落とし皆 に告げた。
「休憩にしましょう」
頬 や額を刺す冷気に気が付くとアイリ・ライハラは暗い洞 に両腕を頭の上左右に開き手首縛 られ吊り下げられていた。
ここはどこだと少女は辺りを見回し、天井も床も仄 かに光りを含んでいることに気づいた。
洞 は洞 でも氷の洞穴だった。
誰かいないのかと、耳を澄 ませた。
時折 聞こえるのは水滴の落ちた水跳ねの音だけだった。
ふとアイリは眼の前で開いた氷の花を思いだした。
そうだ。そいつに喰われたんだ。
その前に────────。
ヘルカ・ホスティラとテレーゼ・マカイは何に向かって剣 を振り回してたんだ?
それにくるんくるんの乗った馬の首を何が切ったんだ!?
アイリは唐突に空気の流れを感じて眼を游 がせた。
おかしい!? 周りはみな氷の壁なのに微 かな気流がある。
どこかに風穴でもあるのかともう一度少女は周りを見回した。
そんなものがどこにも見当たらずアイリは思い当たったことに鳥肌立った。
襲ってきた奴は2度とも見えなかったのだ。
いきなり、左の耳の下から頬 に1本の指を走らせられそれが離れ、アイリ・ライハラは横へ眼を流した。
寸秒、吊り下げられた自分のすぐ傍 らに池の氷が広がるようにアイリへと伸ばした指から白いブラウスの袖 が見え繋がり肩から首や黒い細いリボンとブラウスの胸が広がり急激に足元までと顔と真っ白な長髪が見えた。
リボンと紫の唇以外、何からなにまで真っ白な女で肌の色まで白粉 を重ねたような異様な白さをしている。
その女が引いた顎 を上げるとうねった前髪の間から銀色の片目が少女の横顔を見つめた。
「お前が────青だね────────」
冷たい息を吐きかけられ、そう告げられた少女は自分の髪色のことだと思った。
「お前が銀盤の魔女か!?」
「銀盤────ルースクース・パイトニサム──銀眼の魔女と呼んでいいよ」
とうに殺されてもいい状況に、まだ生きているということは、イルミ・ランタサルをおびき寄せ殺すつもりなのかとアイリは思った。
「こんなことして何がしたいんだ!?」
「お前が怯 え──絶望し────懇願 する様 を見られるだけでいいのさ」
呟 くようにゆっくりと告げた魔女が紫の唇を閉じると両の端をす────っと吊り上げてみせ、本意ではないとアイリ・ライハラに思わせた。
馬の脚が駄目になるなぞ意中になかった。
ラモ族の
「
ヘルカ・ホスティラが大声で警告するのは2度目だった。
もう
「乗り馬が駄目になれば負担少ない
馬の
距離は時。時は立場の優劣を決め──速く
それが3度目の襲撃をし掛けて来ない理由だとイルミは思った。
あくまでも
そもそも捕らえられるものも含め魔女とされる奴らは何が目的で人に
悪意の
あれには悪を超える何かがある────。
あまりに考察に
「休憩にしましょう」
ここはどこだと少女は辺りを見回し、天井も床も
誰かいないのかと、耳を
ふとアイリは眼の前で開いた氷の花を思いだした。
そうだ。そいつに喰われたんだ。
その前に────────。
ヘルカ・ホスティラとテレーゼ・マカイは何に向かって
それにくるんくるんの乗った馬の首を何が切ったんだ!?
アイリは唐突に空気の流れを感じて眼を
おかしい!? 周りはみな氷の壁なのに
どこかに風穴でもあるのかともう一度少女は周りを見回した。
そんなものがどこにも見当たらずアイリは思い当たったことに鳥肌立った。
襲ってきた奴は2度とも見えなかったのだ。
いきなり、左の耳の下から
寸秒、吊り下げられた自分のすぐ
リボンと紫の唇以外、何からなにまで真っ白な女で肌の色まで
その女が引いた
「お前が────青だね────────」
冷たい息を吐きかけられ、そう告げられた少女は自分の髪色のことだと思った。
「お前が銀盤の魔女か!?」
「銀盤────ルースクース・パイトニサム──銀眼の魔女と呼んでいいよ」
とうに殺されてもいい状況に、まだ生きているということは、イルミ・ランタサルをおびき寄せ殺すつもりなのかとアイリは思った。
「こんなことして何がしたいんだ!?」
「お前が