第14話 豹変

文字数 1,707文字

 アイリ・ライハラとヘルカ・ホスティラは長剣(ロングソード)を布でくるみ昼に庁舎へくりだした。

「簡単ですね、アイリ」

「なんか拍子抜けするな」

 連合の庁舎が近づいてくるのに近衛兵などに止められることもなく覚えた道を歩いていると民家の家屋と造りの違う大きな建物が見えてきた。

「あれだ」

 そう言い放ちそれでも歩調を変えずあるく少女に女騎士は合わせて歩いた。

 正面入り口はと迷うこともなかった。広い間口には出入りする人の多さからアイリはそれが正面玄関だと思い十数段の石段を登った。

 屋内は松明(たいまつ)もないのに明るかった。

 アイリは外来ではなさそうな女性に声をかけ庁舎のチラシを見せた。

「統制官の部屋はどこですか?」

「統制官?──ああ統括官(とうかつかん)の部屋ですね。3階のここですよ」

 アイリは眼が点になった。不用心にもほどがある。女が行くとヘルカ・ホスティラはアイリに腕を広げ見せて「ウエルカム」とおどけてみせた。

「ヘルカ、罠じゃないのかな」

「我々が来るのを知っていて? それじゃあ宿屋を急襲されていますよ」

 確かにそうだが何かが胸につっかえた。

 アイリは人の行き交う1階の通路の壁に背をつけて考え込んだ。

 この潜入を知られるとしたらどの段階だ? 砂漠越えから見張られていたのだろうか。知られていて野放しにされる理由はなんだ。ヘルカの言うように襲われる機会はいくらでもあった。イモルキを出ることは最小限の知らせしか残していない。それをイルベ連合に知られるには早すぎる。

「ヘルカ、胸騒ぎがしてならない。俺が1人で乗り込むから包囲されるようなら退路を切り開いてくれるか」

「アイリ、貴君はいつからそんなに心配性になったんですか────いいでしょう。貴君が包囲されるようなら殴り込んであげましょう」

統括官(とうかつかん)の部屋に待ち伏せされているとは思わない。廊下で見張っていて武装した連中が統括官(とうかつかん)室に押し寄せるなら連中の後方から押し込んでくれるか」

 そうアイリが提案すると女騎士は(うなづ)いた。

 2人は何事もなく3階に上がり統括官(とうかつかん)室の扉から8馬身ほど離れた場所にヘルカ・ホスティラは陣取った。そうしてアイリは1人で統括官(とうかつかん)室の扉へ行きノックすると入るように言われ扉を開いた。

 小ぢんまりした両(そで)机に座る女性が顔を上げた。

 無表情なその女性が一瞬、アイリの髪の毛を見て顔に視線を戻した。青髪を珍しげに見られることはそれほど特別なことじゃなかった。

「何でしょうか?」

「あなたが統括官(とうかつかん)?」

「いえ、秘書のイーリス・サカラです。統括官(とうかつかん)にご予約でしょうか?」

「いや、予約はしてない。統括官(とうかつかん)の部屋に入んな」

 そう命じアイリは長剣(ロングソード)に巻いていた布を床に落とし(スキャバード)から(ソード)を引き抜いた。

 そのイーリスという秘書とやらが(おどろ)いたり悲鳴を上げるものと思っていたアイリは女の予想外の態度に驚いた。


「エイラ・メリラハティ統括官(とうかつかん)がお待ちです」


 やはり罠なのかとアイリは眉間に(しわ)を刻んだ。

 秘書を名乗ったその女は横の壁にある扉へゆきノックした。するとまた別な声で入るように言われイーリスは扉を開き中にいる誰かに告げた。

「青髪の少女がお訪ねです」

 アイリが開いた扉の(きわ)にいる秘書を(かわ)し部屋へ入ると白銀の髪をした歳嵩(としかさ)の女性が大きな机の反対側でデスクトップに両手をついて立ち上がった。

「本当に青髪の少女が来るとは思わなかったよ」

「その言いぐさだと知っていたんだな」

「ああ、知らせは受けていた。イモルキから来たんだな。その物騒なものを仕舞いたまえ」

 アイリは一瞬、迷って(スキャバード)(ブレード)を戻した。

「何をしに来たのかわかっているようだな」

(おど)し、交渉、武力行使──色々考えられるが、何を選ぶのかね?」

 人質にとる行動を取ることだってできるのに丸腰のこの女は悠長(ゆうちょう)だとアイリは思った。

 まるで絶対的な優位を確信してるみたいに。

 アイリは単刀直入に切り込んだ。

「イモルキへ攻め込むな」

 統括官(とうかつかん)は驚きの表情を浮かべた。

「それは我が主権を迫害する行為だぞ」

 主権まではわかったが迫害する行為って何だとアイリは鼻筋に(しわ)を寄せた。

(ソード)で脅しに来たのか!?」


 その言葉に(おどろ)いたのではなかった。


 エイラ・メリラハティ統括官(とうかつかん)の双眼が獣のそれに豹変したからだった。





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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