第11話 喉元の刃(やいば)
文字数 1,774文字
聞き捨てならん!
────こうもひどい争いになるとは聞いてなかった──とイルミ・ランタサルは確かに言った。
アイリは馬を走らせ荷馬車に追いつかせるとイルミに問いただした。
「くるんくるん! 争いになると──誰に聞いたんだ────!?」
少女に向けている顔を青ざめさせイルミ・ランタサルが顔を背けた。
「だれに聞いた!?」
「どうしたんだアイリ!? 何を王妃 様に詰め寄っている!?」
操馬台 中央で手綱 握るヘルカ・ホスティラが声を抑えて横を走る馬に乗った騎士団長に問いかけた。
それを無視してアイリは王妃 へ詰問 した。
「イルミ・ランタサル! 答えろ! 俺たちを差し向けた理由を!」
俯 いたイルミは顔を両手のひらで被い忍び泣きを始めるとぼそりと語りだした。
「父を────ノーブル国にいる────ウルマス国王を殺すと」
「誰に脅されたんだ!? 銀眼の魔女か!? 銀眼の魔女なんだな」
顔隠し泣いているイルミ・ランタサルは頭 振った。
「見たこともないあまりにも年老いた白髪の醜婆 です。最果ての北東の地へあなたを連れて来なければ父を殺すと」
「銀眼は倒されたんだ。問題はなかろう」
荷台に乗る河守 の男が割って入りイルミ・ランタサルは答えた。
「そう思いたいのです。魔女の呪いは消え去ったと」
「最果てのここからデアチ国まで馬とばして4日。デアチからノーブル国まで最短5日かかる。悪いがくるんくるん、俺とノッチだけでウルマス国王の安否確かめに行くぞ!」
「お願いアイリ・ライハラ! 父を救って!!!」
イルミ・ランタサルが叫 で託したのは少女騎士が馬を襲歩 で駆けさせた後ろ姿にだった。
「もっと早くに話すべきでした。でも王妃 様、大丈夫ですよ。王妃 様のお立場をアイリ・ライハラはよく理解しているでしょうから」
そう操馬台 の右端に座るテレーゼが王妃 を慰めた。
最果ての地から飛ばしにとばして3日でアイリとノッチはデアチ国ファントマ城に辿 り着いた。酷使した馬の脚は使い物にならず、戦支度 済ませたアイリとノッチは馬を換え半時 足らずで南のノーブル国へと旅立った。
「ノッチ、銀眼の魔女は生き残っているだろうか」
「それを聞いてどうする? 安心し王を訪ねるか?」
ああ、そうだともアイリは思った。
「くそうミエリッキ・キルシめ。鼻から俺が狙いなら俺に襲いかかれば勝機はあっただろうに」
「そう思わなかったのだから北の地に誘き出したのだ」
こんなことなら殺してしまう前に詰問 すべきだった。
前屈みで手綱 振るアイリはふと自分の胸元に視線を下ろし胸当 の下に白いローブの腕が回されていることに驚いて半身振り向いた。
顔を合わせたのはイラ・ヤルヴァだった。
「イラ!? 何してるんだ!?」
「こんちわ御師匠様ぁ、ノッチ────なにしてるって魔女討伐 に加わるんだよ」
「魔女討伐!? ミエリッキは生きてるのか!?」
「いや、死んだ──だけど生きている」
わからんとアイリ・ライハラは眉根寄せるとノッチが問うた。
「完全なる分身なの だなイラ・ヤルヴァ」
完全なる分身? バイロケーション?? そもそも分身じたいを理解してないとアイリは気づいた。己 が高速移動で残像を残すのは分身じゃないのだろう。
「それって双子や三つ子になることか?」
「おいアイリ、お前も見たじゃないか」
ああ、確かに多数のよく似た銀眼の魔女が同時に襲いかかってきた。
だがそれらを倒し無勢になるとあれは残りが重なり1体になった。
蜥蜴 のしっぽ切りではない。同格に別れまた1体になる。
「倒した銀眼の魔女がそれ以前に分裂しノーブル国にいるとなると厄介 だ。あいつ強いからイラ・ヤルヴァを入れても3身 で倒せるか怪しいぞ」
それにまた結界に閉じ込められたらとアイリは鼻筋に皺 を刻んだ。
だが────なぜ────!?
俺にご執心ならデアチ国へ襲いにきてイルミ・ランタサルを人質にすれば有利に運べるだろう。
「────だから銀眼の魔女は何重にも罠を──」
「ええ、何だって!? その前だ。聞いてなかった」
そうアイリ・ライハラが聞き返すとノッチがもう一度説明した。
「あいつにとっては天使よりも意識持つ天上人 の剣 たるアイリ・ライハラがもっとも怖いのだ」
だからあれもこれも仕込んで誘きだしたのか!?
違う! まるで喉元に刃 当てられいるようだ。何かが変だとアイリ・ライハラは気づいた。
────こうもひどい争いになるとは聞いてなかった──とイルミ・ランタサルは確かに言った。
アイリは馬を走らせ荷馬車に追いつかせるとイルミに問いただした。
「くるんくるん! 争いになると──誰に聞いたんだ────!?」
少女に向けている顔を青ざめさせイルミ・ランタサルが顔を背けた。
「だれに聞いた!?」
「どうしたんだアイリ!? 何を
それを無視してアイリは
「イルミ・ランタサル! 答えろ! 俺たちを差し向けた理由を!」
「父を────ノーブル国にいる────ウルマス国王を殺すと」
「誰に脅されたんだ!? 銀眼の魔女か!? 銀眼の魔女なんだな」
顔隠し泣いているイルミ・ランタサルは
「見たこともないあまりにも年老いた白髪の
「銀眼は倒されたんだ。問題はなかろう」
荷台に乗る
「そう思いたいのです。魔女の呪いは消え去ったと」
「最果てのここからデアチ国まで馬とばして4日。デアチからノーブル国まで最短5日かかる。悪いがくるんくるん、俺とノッチだけでウルマス国王の安否確かめに行くぞ!」
「お願いアイリ・ライハラ! 父を救って!!!」
イルミ・ランタサルが
「もっと早くに話すべきでした。でも
そう
最果ての地から飛ばしにとばして3日でアイリとノッチはデアチ国ファントマ城に
「ノッチ、銀眼の魔女は生き残っているだろうか」
「それを聞いてどうする? 安心し王を訪ねるか?」
ああ、そうだともアイリは思った。
「くそうミエリッキ・キルシめ。鼻から俺が狙いなら俺に襲いかかれば勝機はあっただろうに」
「そう思わなかったのだから北の地に誘き出したのだ」
こんなことなら殺してしまう前に
前屈みで
顔を合わせたのはイラ・ヤルヴァだった。
「イラ!? 何してるんだ!?」
「こんちわ御師匠様ぁ、ノッチ────なにしてるって魔女
「魔女討伐!? ミエリッキは生きてるのか!?」
「いや、死んだ──だけど生きている」
わからんとアイリ・ライハラは眉根寄せるとノッチが問うた。
「完全
完全なる分身? バイロケーション?? そもそも分身じたいを理解してないとアイリは気づいた。
「それって双子や三つ子になることか?」
「おいアイリ、お前も見たじゃないか」
ああ、確かに多数のよく似た銀眼の魔女が同時に襲いかかってきた。
だがそれらを倒し無勢になるとあれは残りが重なり1体になった。
「倒した銀眼の魔女がそれ以前に分裂しノーブル国にいるとなると
それにまた結界に閉じ込められたらとアイリは鼻筋に
だが────なぜ────!?
俺にご執心ならデアチ国へ襲いにきてイルミ・ランタサルを人質にすれば有利に運べるだろう。
「────だから銀眼の魔女は何重にも罠を──」
「ええ、何だって!? その前だ。聞いてなかった」
そうアイリ・ライハラが聞き返すとノッチがもう一度説明した。
「あいつにとっては天使よりも意識持つ
だからあれもこれも仕込んで誘きだしたのか!?
違う! まるで喉元に