第13話 命の選択

文字数 1,734文字


 眼の前でほぼ肩から上の再生を終えようとするテレーザ・マカイに(にら)まれアイリ・ライハラは顔を引き()らせ後退(あとず)さりながら思った。


 ず、ずるいぞてめぇ!!!


 そのマカイの姉に妹のテレーゼ・マカイが顔を(ほこ)ばせ飛びつかんばかりに大袈裟とも思えるほど喜んだ。

「姉様ぁ! 良かった! 良かったでぇす! 駄目だと思って────!」

 喜ぶ妹に返事もせずにテレーザは起き上がり(おのれ)(ソード)を拾い上げながら腹立ちを吐き捨てた。

「腹の立つ──どいつもこいつも────」

 マカイの片割れは(ソード)をぶら下げたままいきなり顔を上げ少女へ叫んだ。

 咄嗟(とっさ)にアイリは自分の正面に構えた大剣(クレイモア)(フラー)を顔に引き寄せ(かば)った。

 轟音が左右に飛び散り少女は両肩をざっくりと()り割かれ周囲の木々が粉砕し歯を食いしばった。

 こいつ妹の直撃と違い叫び声の(やいば)が拡散するんだったとアイリは思いだした。

 大きな両肩の傷口が激しく痛み少女は顔をしかめたが、両の傷口がずぶずぶと音を立て始め眉根しかめ見ると服を含めた傷口が急激に元へ戻り始めていた。



 あ、そういうこと!



 誰でも復活すんじゃん!



 でも────かなり痛ぇけど!

 アイリ・ライハラがニヤツくとマカイの姉の方が目を細め妹に命じた。

「そいつが動けないように押さえつけな。気が済むまで手足を()り落としてやる」

「よっしゃぁ! 任せな姉様ぁ!」

 そのやり取りを見聞きし、少女はふと思った。



 元凶は姉のテレーザの方で妹のテレーゼの方はやらされているだけではないのか?



 (ソード)を構え回り込んでくるテレーゼを警戒しながら、アイリは迷った。

 どうやって切り抜ける!? 下手してつかまれば本当に何十回、何百回と()り刻まれるんだぞ。

 マカイの姉の後ろにある投げ落とされた岩石からつき出た黒い鉄靴(サバトン)が身動きして岩がごろりと横に転がった。

 や、やべぇ! 3人相手だと身体がもたねぇ──!

 そう思ったアイリ・ライハラは(つぶや)いた。

「トゥエレルヴ・ステップ!」

 いきなり少女は大剣(クレイモア)を右手1つでからの上に大きく振り上げ地面を蹴り駆けるとマカイの妹に走り寄り(ソード)を構えた女の左手首をつかみ大剣(クレイモア)(いかずち)のようにその(かたわ)らに振り下ろした。

 噴き上がった土砂に双子の姉が(ソード)握った(こぶし)で顔を(かば)い、すぐに薄れた砂埃(すなぼこり)の先に突き立った大剣(クレイモア)があるだけで小娘とテレーゼがいなくなっていることに顔を強ばらせた。寸秒、上空で妹の声が聞こえ彼女は顔を振り上げた。



「馬鹿やろ──ぅ! 放しやがれ────ぇ!」



 テレーゼ・マカイの片腕をつかみ空中高く飛び上がったアイリ・ライハラは一気に苦悩の河(アケローン)を猛速で飛び越すと姉らがいる反対岸で土煙が広がった。

「て、テレーゼ! ぬぬぬぬぬぅ! あの小娘めぇ!」

 怒りに任せ姉が(ソード)を振り回すと背後で鈍い音が聞こえテレーザは引き()った顔をゆっくりと振り向けると上半身を起こした黒の騎士の首から上がなくなりバタリと横に倒れた。




 両腕を突っ張り砂に突っ込んだ上半身を引き抜いたアイリ・ライハラは砂を吐き捨て、近くに胸まで地面に突っ込んでいるマカイの妹の両脚にしがみつき引き抜いた。

 座り込んだ紫の甲冑(アーマー)を着た双子の片割れは少女へ顔を上げ怒鳴った。

「き、貴様ぁあああ! 卑怯(ひきょう)だぞ姉様と引き()がしやがって!」

「お前を連れて生き返るんだよ!」

 言われたことを理解できないとばかりテレーゼは唖然と少女を見つめるとまた言い渡された。

「お前を連れて行くことにしたんだよ!」



「連れて行く? 生き返らせる? 姉様をここにおいて────!?」



 少女が(うなづ)くとテレーゼはまた罵声(ばせい)を浴びせ始めた。

「冗談じゃねぇ! 俺は戻る! 生き返ったりしねぇ!」

 言い放ち立ち上がったマカイの妹が苦悩の河(アケローン)へ入って行こうとするのをアイリは腕をつかみ引き止めた。

「止めておけよ! 川底で溺れ死んだその場で生き返ってまた溺れ死ぬんだぞぉ! とっても苦しいそれを何千回何万回も繰り返すんだ」

 少女に言われ振り向いた双子の妹は下唇を噛みしめ目を(うる)ませ(うった)えかけた。

「そ、(ソード)をまた地面に叩きつけて俺を向こう岸に帰して──くれよ」

 アイリ・ライハラは左右に(かぶり)振った。



「無理だよお前の(ソード)細身だったじゃん。それに(ソード)苦悩の河(アケローン)に落としたじゃん」



 テレーゼ・マカイは上げた自分の右手を見つめ(あご)を落とした。





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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