第10話 口先八丁言いたい放題

文字数 2,105文字

 前後から打ち込まれる(やいば)を後ろ手に回した長剣(ロングソード)と叫びで紙一重に弾き返し、テレーゼ・マカイは両断した荷馬車へと駆けた。

 青髪の小娘は人の動きと思えない稲妻並みの速さで動きまくる。

 障壁のない場所では完全に不利だった。

 だが左右と前方だけなら────負けぬ!

 左から襲いかかられマカイのシーデは(ソード)で弾き返した寸秒振り戻し逆側へ振り出すとそれが空を切らず(やいば)が火花を散らした。

 馬鹿の1つ覚えの様に逆から襲いかかる。

 魔剣士とはいえ所詮(しょせん)は小娘! 戦い方を知らぬ。勝機は我にあるぞ!

 怖気(おぞけ)にテレーゼが長剣(ロングソード)を振り向けると小娘の母親がソードブレーカーを構え駆け込んで来た。

 その目つきに女がただの母親ではないと見抜いたシーデは(ソード)()らし叫聲(おらびごえ)を浴びせた。



 一閃(いっせん)、死の宣告を立ち止まった稲妻が湾曲の長剣(ロングソード)で受け止め左右の地面が爆轟と共に(えぐ)れ飛んだ。



 倒れた荷馬車の残骸を背に振り向いたテレーゼ・マカイは(ひず)んだ笑顔を浮かべ長剣(ロングソード)を両手で構えた。

 小娘の魔剣士──お前の最大弱点を見つけたぞ!

「お前をここで(ひざまづ)かせ首を落としてやる!」



 (みずか)らの身で仲間の女を(かば)った魔剣士が(ソード)を構えたまま額から血を(したた)らせその色にテレーゼ・マカイは愕然(がくぜん)となった。





 女暗殺者(アサシン)イラ・ヤルヴァは(おのれ)の命を投げ打って厄介なマカイのシーデを倒せずとも手負いにし足枷(あしかせ)とする意気込みで挑んだ。

 アイリ・ライハラは斬首(ざんしゅ)刑を待つこの身を(ろう)から解放してくれた。

 我は命に代えお前を助けると誓った。


 それなのに、マカイのシーデの死の咆哮(ほうこう)を小柄な身体で受け止めお前は──お前は────。


 少女が足元に血を、命の欠片をぼたぼたと。



 青く光放つ血溜(ちだ)まりを見た瞬間、イラ・ヤルヴァは鳥肌立ってしまい何をしようとしてるのか分からなくなった。

「出てくんなよ──この玩具────俺んなんだからさぁ」

 おもちゃ(・・・・)

 背で語られ女暗殺者(アサシン)は我に返ると少女に以前告げられた同じ言葉を思いだした。

 蛇頭の狂戦士とやり合っていたときのアイリ・ライハラの余裕。


 アイリ・ライハラはまだ奥の手を持ってる!


 イラ・ヤルヴァは胸が高鳴り少女の片耳に顔を寄せ(ささや)いた。


「がつんとやって下さい」



 マカイのシーデが2人に向け紫の唇を開いた刹那(せつな)肩越しに左手の中指を立ててみせたアイリ・ライハラの背姿が敵に向け幾重にも()き伸びるとバンシーの叫びが裂け散り荷馬車の残骸に血飛沫(ちしぶき)が広がった。





 何だ。あいつらの戦いは剣士のものでない!

 丘の(いただき)に伏せマカイのシーデに挑むアイリ・ライハラを見ていた女騎士ヘルカ・ホスティラは手のひらに広がった汗を握り(つぶ)した。

 (ソード)を使いながら双方とも決め手は剣技ではなかった。

「まるで魔物の争いだ────」

 (つぶや)いたヘルカは少女が圧倒してない事がシーデの強さのせいだと感じなかった。

 あいつ、遊んでやがる。

 ()り合う気迫(きはく)がアイリから感じ取れなかった。それなのに地面に何名もの騎馬兵が倒れ身動きしない。

 ことごとく急所を外しやがったな!

 壊された荷馬車へ駆けだした紫紺の甲冑(アーマー)を着た騎士が左右に(やいば)振り向けその先々で火花が飛び散り飛び回る稲妻が決め手に欠いてる様に見えた。

 その追い込みきらぬ近衛兵副長の手助けに駆け込むイラ・ヤルヴァがシーデに狙われた寸秒、アイリ・ライハラが間に割って入り食い止めた。

 3人が動きを止めたその時、ヘルカ・ホスティラには何が起きてるのか遠すぎてわからなかった。


 アイリ・ライハラのさらなる動きが速すぎ姿消えた刹那(せつな)、壊れた荷馬車の側にいたシーデの紫紺の甲冑(アーマー)が砕けたように見え血が飛び散った。


 終わったのだと女騎士ヘルカが腕を立てようとしたその時、(ひづめ)の音に彼女が顔を振り向けると丘下の西から20騎あまりの騎兵が猛速で駆けつけるのが見えた。

 その中に紫紺の甲冑(アーマー)を身につけた騎士がいるのを気づきヘルカはマカイのシーデの片割れだと顔を強ばらせ少女がどう挑むのかと顔を振り戻した。


 アイリ・ライハラが地面に長剣(ロングソード)を突いてよろめきイラが慌てて支えに走るのを眼にして女騎士ヘルカ・ホスティラは鼻息も荒く一気に立ち上がり長剣(ロングソード)を引き抜き一瞬瞳を寄せ(つぶや)いた。



「イルミ王女すまぬ──偵察は────口先だ」





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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