第13話 難詰(なんきつ)のアイリ

文字数 1,762文字

 法廷なんて経験がない。

 まあ、村で親父が若い女に手を出した出さないで吊し上げを食った時に一緒に村人の前に立たされた事はある。

 あれも法廷かな?

「──よって被告人は闘技場(アリーナ)において人ならざる異様な動きを見せ──」

 異様なのは俺だけじゃねぇだろ。

 あの恐ろしい声だすバンシーみたいな双子姉妹。人があんな声だせる方が異様だろ!

 それに剣竜騎士団2位のなんとかいう黒騎士。俺の動きについてこれる方が人として異様だろ!

「──多くの兵士を怯えさせ──」

 ばっ、馬鹿やろうと言いかけ被告席のアイリは(あわ)てて口を(つぐ)んだ。9人しかいない俺らを軍団で取り囲んで得物(えもの)を構えやがったお前らこそ俺らを怯えさせたんだぞ!


 くるんくるんが怯えてたかは疑わしいけれど。


 指さしながら声鋭く並べ立てるヘッレヴィ・キュトラ異端審問官をじっと少女が見つめているとツン(・・)と顔を()らされた。

 (うら)まれる様なことは何にもしてない。

「──あまつさえ、被告は、剣竜騎士団の長の座を(かす)め盗り居座ったのであります────アイリ・ライハラ!」

 ひいっ、と息を吸い込んで少女は視線を振り戻した。

「あなたは、どうやって闘技場(アリーナ)砂敷きから高見座まで飛び上がれたのですか!? それは魔の力──魔力による魔女ゆえの方法ではなかったのですか!?」

「アイリ・ライハラ君」

 裁判長から名前を呼ばれアイリは被告席から立ち上がり返事をし説明し始めた。

「は、はい。こうやりました。勝ち取った大きな(ソード)を後ろに振りかぶり一気に前に叩きつけ剣先(ポイント)が地面にぶつかりその反動で跳び上がりました」

 言いながら少女が素手を後ろに振り上げ前に振り下ろしぴょんと跳び上がってみせた。途端にヘッレヴィ・キュトラが裁判長へ体を向け声を上げた。

「裁判長! 3人目の証人証言をお願い致します!」

「許可する」

 くるっと異端審問官は振り向き離れた場所から立ち見してる傍聴人らの方へ片手を上げ差し招いた。

「近衛兵イラリ・ラークソネンこちらへ」

 直ぐに群集から軽装の近衛兵が1人進み出てきた。

「イラリ・ラークソネン、少女が言った事を実行し出きるか出来ないか述べて下さい!」

 その近衛兵が腰に(つる)した(スキャバード)から(ソード)を引き抜いた。それを見ていたアイリは顔を引き()らせ唇をねじ曲げた。

 抜かれたのはスクラマサクス(:一般的な西洋剣よりやや短めの剣)。

 振り下ろしても地面どころか爪先にも届かない。

 近衛兵は両手にスクラマサクスを握り締め頭の後ろに振り上げ前へ振り下ろした。


 両手がソードベルトにぶつかり刃口(ポイント)が空に止まった。


「無理です。少しも飛び上がれません」


 それを聞いて異端審問官はくるっと裁判長へ振り向き大声で宣言した。

「以上であります!」

「では──被告人弁護士──反対尋問を」

 アイリ・ライハラの隣に座っていたイルミ・ランタサル王妃(おうひ)が返事をし立ち上がった。

「裁判長。これは罪状の捏造(ねつぞう)であり、検察側の策略です」

 おお! (たの)もしいとアイリは顔を横へ向けくるんくるんを見上げた。

「近衛兵、イラリ・ラークソネン。スクラマサクスでなく大剣(クレイモア)で試してみて下さい」

 傍聴人らへ戻りかかった兵が足を止めイルミへ振り向いて困惑げな表情を見せた。イルミは弁護人席の傍らに立てかけていた大剣(クレイモア)を指さしている。

 すたすたとイラリ・ラークソネンが歩いて来て大剣(クレイモア)のハンドルを握り締め両手で(スキャバード)から引き抜こうとして、長すぎて抜けず後退(あとず)さってやっと引き抜いたが、それを見ていたアイリ・ライハラは顔を引き()らせ(あご)を落とし(つぶや)いた。

「こ、こいつには────ムリだぁ」


「さあ、お試しになれ」


 イルミ・ランタサル王妃(おうひ)(うなが)され男は両手で振り上げようとするが、重すぎて刃口(ポイント)が地面から持ち上がらない。


「む、む、無理です」


「以上です。裁判長殿」

 そう宣言し得意げな表情でイルミ・ランタサルが弁護人席に腰を下ろした。

 おいおいくるんくるん、それじゃあ反証になってないだろ、と少女が唖然と王妃(おうひ)の横顔を見つめていると彼女が(ささや)いた。

「心配いらぬわ、アイリ。手は打ってあります」


 いきなり傍聴人らの中から声が上がった。

「裁判長! 被告人への反対尋問をお願い致します!」

 ぎくりとアイリ・ライハラが振り向くと女騎士ヘルカ・ホスティラが進み出てアイリ・ライハラは青ざめた。



 女騎士は甲冑(アーマー)の上に包帯をぐるぐる巻きにしていた。





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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