第26話 大陸1
文字数 1,750文字
むかしむかし、奥方に先立たれたおっさんが赤ん坊の1人娘の扱 いに悩み決断しました。
大陸1の剣士に育て上げよう。
かくしておっさんは赤ん坊の頃から英才教育を始めます。
子守歌の代わりに剣術の話を毎日聞かせ、娘が少し大きくなり手を引かれて歩けるようになるとピクニックへ行くようにダンジョンへ連れて行きました。
おっさんは娘の前で数え切れないほどの魔物を退治します。
それを見て育った娘は立派な剣士になりましたとさ。
「殴ってやろうかしら!」
握り拳 を突き上げてイルミ・ランタサルがアイリ・ライハラに詰め寄った。
「なっ、何でだよ!?」
殴られてなるかと少女は思わず身を引いて問い返した。
「アイリ、ぜんぜん説明になってないでしょ! あなたがなぜあんなに大きな爬虫類みたいな魔物を知っていたと」
「なってんじゃんかよ! 小さい時から散々、洞窟 巡りに連れられてだな────」
全員から疑いの眼差しで見つめられアイリは焦 った。
「アイリ、そちのお父上は幼子のお前を連れて71階層まで下りたと!?」
女騎士ヘルカ・ホスティラが疑い深く念押しした。
「71? ダンジョンはもっと深いぞ。覚えているだけで183階層あたりまでは数えたけれど」
「ひゃく、はちじゅう、さぁぁん!?」
皆 がハモって少女に問い返した。
「御師匠、そこにどんな魔物が──?」
女暗殺者 、イラ・ヤルヴァが興味深げに尋ねた。
「真っ赤に焼けた熔岩を口からボタボタ垂らす3つ頭の竜がいたな。熱すぎておやじの奴、近づけねぇからと天井落として生き埋めにしやがった」
思い出し話しながらアイリが苦笑いを浮かべた。
「アイリ、あなたのお父上って鍛冶職人ではないの? 魔物倒したり、天井を落とした!?」
イルミ王女はウルマス・ランタサル王とアイリのやり取りを思いだしていた。
──以前に魔法と剣術に優れ2振りのソードを巧みに操るものが隣国におったと聞いた。その名がクラウスというのは偶然の同姓同名なのか──。
アイリの実家に使いの者を遣 った時の経緯 を紐解 くようにイルミ王女は考えた。並みの剣豪でもダンジョンのそんな階層に幼い娘を連れて下りれば生還できないだろう。
だがアイリ・ライハラは父親が洞窟 の天井を落としたなど当たり前のように話す。
もしかしたらこの少女は強さという感覚が市井 (:一般の人)と大きく隔 たりがあるのかもしれないし、本人は知らずして魔法の手引きを受けていたと考えるなら、アイリ・ライハラの異様な強さも納得できるとイルミ・ランタサルは結論に至 った。
「ああ、鍛冶職人だって前に言ったじゃんか。飲んべえの鍛冶職人だけど鍛え上げた剣 を試し振りでぶんぶんさせるのはうめぇけどな。ところで────」
話しを区切りアイリはイルミ王女を指さした。
「お前──くるんくるんイルミ、その大きな魔石をどうするつもりなんだ」
倒されたタラスコンの残した人の頭ほどもある大きな魔石をどさくさに紛 れ拾い上げ抱きしめているイルミ王女が動きを止め固まった。
「持って帰るのよ」
ぼそりと答えた王女に少女は怖い話を告げた。
「知らないんだな。そのサイズの魔石って数千匹の魔物が集まってくるぞ」
イルミ王女の顳顬 から頬 に冷や汗が一滴流れ落ちる。
「す、数千──匹!?」
どもり問い返した王女に騎士らが青ざめて後ずさり離れて行く。
その時、洞窟 奥から重苦しいずるずると引き摺 る音が聞こえ始めた。
「し~らねぇ」
アイリ・ライハラは王女にそう言い切り背を向けると上層へ向け走り出した。それを追うべきか、王女を護るべきかで騎士らは顔を見合わせ目配せで結論し、一斉に少女を追いかけ走り始めた。それを女暗殺者 イラ・ヤルヴァが凄まじい勢いで追い抜いてゆく。
「まっ、待ちなさいお前たち!」
おろおろしていた王女付きの侍女 ヘリヤまでが王女にぺこりと頭を下げ背を向けるとスカートをつまみ上げ猛ダッシュで駆け出して暗闇に駆け込んでゆく。召使いにまで背を向けられ唖然となったイルミ王女はそれを見つめるしかなかった。
いきなり背後の洞窟 奥に焔 が吹き荒れ、魔物の咆哮 が響き渡ると、真っ青になったイルミ・ランタサルは魔石を抱きしめたまま皆 を追いかけ走りだした。
その王女を追いかけ2匹目のタラスコンが暗闇からどかどかと走り込んできた。
大陸1の剣士に育て上げよう。
かくしておっさんは赤ん坊の頃から英才教育を始めます。
子守歌の代わりに剣術の話を毎日聞かせ、娘が少し大きくなり手を引かれて歩けるようになるとピクニックへ行くようにダンジョンへ連れて行きました。
おっさんは娘の前で数え切れないほどの魔物を退治します。
それを見て育った娘は立派な剣士になりましたとさ。
「殴ってやろうかしら!」
握り
「なっ、何でだよ!?」
殴られてなるかと少女は思わず身を引いて問い返した。
「アイリ、ぜんぜん説明になってないでしょ! あなたがなぜあんなに大きな爬虫類みたいな魔物を知っていたと」
「なってんじゃんかよ! 小さい時から散々、
全員から疑いの眼差しで見つめられアイリは
「アイリ、そちのお父上は幼子のお前を連れて71階層まで下りたと!?」
女騎士ヘルカ・ホスティラが疑い深く念押しした。
「71? ダンジョンはもっと深いぞ。覚えているだけで183階層あたりまでは数えたけれど」
「ひゃく、はちじゅう、さぁぁん!?」
「御師匠、そこにどんな魔物が──?」
女
「真っ赤に焼けた熔岩を口からボタボタ垂らす3つ頭の竜がいたな。熱すぎておやじの奴、近づけねぇからと天井落として生き埋めにしやがった」
思い出し話しながらアイリが苦笑いを浮かべた。
「アイリ、あなたのお父上って鍛冶職人ではないの? 魔物倒したり、天井を落とした!?」
イルミ王女はウルマス・ランタサル王とアイリのやり取りを思いだしていた。
──以前に魔法と剣術に優れ2振りのソードを巧みに操るものが隣国におったと聞いた。その名がクラウスというのは偶然の同姓同名なのか──。
アイリの実家に使いの者を
だがアイリ・ライハラは父親が
もしかしたらこの少女は強さという感覚が
「ああ、鍛冶職人だって前に言ったじゃんか。飲んべえの鍛冶職人だけど鍛え上げた
話しを区切りアイリはイルミ王女を指さした。
「お前──くるんくるんイルミ、その大きな魔石をどうするつもりなんだ」
倒されたタラスコンの残した人の頭ほどもある大きな魔石をどさくさに
「持って帰るのよ」
ぼそりと答えた王女に少女は怖い話を告げた。
「知らないんだな。そのサイズの魔石って数千匹の魔物が集まってくるぞ」
イルミ王女の
「す、数千──匹!?」
どもり問い返した王女に騎士らが青ざめて後ずさり離れて行く。
その時、
「し~らねぇ」
アイリ・ライハラは王女にそう言い切り背を向けると上層へ向け走り出した。それを追うべきか、王女を護るべきかで騎士らは顔を見合わせ目配せで結論し、一斉に少女を追いかけ走り始めた。それを女
「まっ、待ちなさいお前たち!」
おろおろしていた王女付きの
いきなり背後の
その王女を追いかけ2匹目のタラスコンが暗闇からどかどかと走り込んできた。