第10話 美貌じゃないよ誹謗(ひぼう)だよ
文字数 2,132文字
いきなり扉が開かれアイリ・ライハラは飛び上がりかかり、デアチ国第7騎士ハンネ・スオメラも眼を丸くして肩を引き攣 らせた。
元騎士団長リクハルド・ラハナトスが鼻息も荒く鍵束 を握りしめ力説した。
「ひぃひぃ──ヘルカ・ホスティラ! 人聞きの悪い事を大声で言うな! ぜえぜえ──デアチ国に広がれば他の2列強国にも伝わるであろう! はあはあ────行商人から妻の耳に入れば、皿が飛んでくるぐらいでは済まぬのだぞ────げほごほ」
「どうしてそんなに慌てる? 貴公はもっと奥方に堂々としてないから家が落ち着かぬだぞ」
おおう! 元騎士団長に説教たれる! 女騎士がもっともな事を言うのを聞いていて少女は真実が見えてきた。
このおっさん、どっか疚 しい事がある!
「勘弁してくれヘルカ────へえへえ────心臓がきゅ──と縮むぞ────はあはあ」
走って来たとはいえ、リクハルドの合間の息づかいが、村の女の行水を覗 く時の親父とくりそつ だとアイリは鼻に皺 を刻んでスマした顔でリクハルドを押しのけ回り階段へ出るとすたすた下り始めた。
「どいつもこいつも────」
そう呟 き騎士らしくない連中だと少女は思った。デアチ国第7騎士ハンネ・スオメラにしても全然強そうに見えないのにどうやってこの軍事国で7番目までに上り詰めたのか、胡散臭さがぷんぷんだと思った。
殺気立っていたけれど、黒の騎士と双子の女騎士は騎士らしかった。
ああ、5位のおっさんは箸にも棒にもかからない様な影の薄い奴だったなぁと大して話しもしなかった騎士の事を思いだした。
それに比べヘルカ・ホスティラは人柄 は決して悪くないけれど、頭が固過ぎて頼 るに不安があった。
このデアチ国の騎士団に1人ぐらい任せ頼 れそうな奴がいても良さそうなものだけど────とアイリは塔内壁の回り階段下へ視線を向けていてデアチ国の近衛兵らが駆け足で入って来るのが見えた。
何だろう、と少女が眼を凝らすと近衛兵らの後に、しっかりとした紫紺の服装を身に纏 った金髪の上げ髪の女が入り込んできて、近衛兵の1人が螺旋階段の上を指さし女が顔を上げた。
その女と遠くから視線が絡み合った瞬間、女が右腕を振り上げアイリを指さし大声で命じた。
「捕らえよ!!」
その声が塔内に響き渡り、少女は自分じゃないよなと思いつつ顔を引き攣 らせ壁に後退 さった。
真下の螺旋階段は見えなくとも回り込んで向かい合うと上がってくる近衛兵らが何度も少女の方へ顔を振り向ける。
何やらかしたんだと、アイリはあれこれ思いだそうとしたが────まさか元老院長の命取った事の咎 めなのかと逃げるように上階へ横歩きに登り出すと、兵士の合間に上がってくる上げ髪の女が睨 みながら大声で告げた。
「私 は異端審問官 のヘッレヴィ・キュトラなる! お前! 魔女の嫌疑 で拘束する! じたばたするな! 裁判で不利になるぞ!」
ま、魔女だぁ!? 魔女裁判だぁ!?
どこをどう間違えば俺が魔女に見えるんだ!?
アイリは以前にイルミ・ランタサルが警告した事を思い出した。
──あなたが魔導のような剣術を使うのなら────あなたはいずれ聖職者に魔女の嫌疑をかけられてしまいます──。
闘技場 で暴れたのを見ての嫌疑だ!
どうしよう!? どうしたらいい!?
適当に言い繕 って煙に巻く。
無理だわ! あれはそんな手合いじゃない!
上がってくる異端審問官が、ヘルカ・ホスティラよりもガチガチのその道のベテランの雰囲気にとても口先だけで言い逃れが利く様な相手でないのがわかった。
イルミが王妃 の立場で救ってくれる。いいや、無理だわ。聖職者には王であっても逆らえない。
くそう! 階段駆け下りて連中を残らず蹴り落とすか!
少女は顔を振り上げて下りてくるリクハルド・ラハナトスやヘルカ・ホスティラを見やったが困惑げな面もちの視線を返された。
庇 ってくれないのか!?
アイリがおどおどしていると、先頭の近衛兵が少女の近くまでやってきた。
その数人後ろにいる上げ髪の異端審問官が巻物の様な訴状を両手で縦に伸ばし読み上げた。
「アイリ・ライハラ、お前は我がデアチ国──主闘技場 において人ならざる剣技を用い空高く飛び上がり高見座まで一瞬に舞い降りたのを多くの兵が目の当たりにし、悪魔と契約してカラサテ教社会の破壊を企む背教者と私 に訴えがあった。よって────」
やっぱりあれ か!
アイリは強張った顔でヘッレヴィ・キュトラの読み上げる口元を見つめていた。
「────厳格なる魔女詮議 がお前に下る」
せんぎ って何だとアイリは突っ込みそうになり言葉を呑み込んだ。
どうせ責め苦だ。
アイリ・ライハラが己 の腰に吊 す長剣 のハンドルに手をかけた寸秒背後から女騎士ヘルカ・ホスティラが止めに入った。
「止めておけアイリ! 立場が悪くなる。貴公の無実を証明するから止めておけ!」
鉄格子 外に揺れる松明 の灯りを見つめ石畳に正座していた。
あぁ、なんでこうなるんだよ────。
アイリ・ライハラは顔を歪 めこの国について来たことを呪っていた。
「もしもし──あなた、アイリなの?」
背後で声が聞こえ少女が高窓へ振り向くと2本の鉄格子 を鷲掴 みにしたイルミ・ランタサル王妃 が覗 き込んでいた。
元騎士団長リクハルド・ラハナトスが鼻息も荒く
「ひぃひぃ──ヘルカ・ホスティラ! 人聞きの悪い事を大声で言うな! ぜえぜえ──デアチ国に広がれば他の2列強国にも伝わるであろう! はあはあ────行商人から妻の耳に入れば、皿が飛んでくるぐらいでは済まぬのだぞ────げほごほ」
「どうしてそんなに慌てる? 貴公はもっと奥方に堂々としてないから家が落ち着かぬだぞ」
おおう! 元騎士団長に説教たれる! 女騎士がもっともな事を言うのを聞いていて少女は真実が見えてきた。
このおっさん、どっか
「勘弁してくれヘルカ────へえへえ────心臓がきゅ──と縮むぞ────はあはあ」
走って来たとはいえ、リクハルドの合間の息づかいが、村の女の行水を
「どいつもこいつも────」
そう
殺気立っていたけれど、黒の騎士と双子の女騎士は騎士らしかった。
ああ、5位のおっさんは箸にも棒にもかからない様な影の薄い奴だったなぁと大して話しもしなかった騎士の事を思いだした。
それに比べヘルカ・ホスティラは
このデアチ国の騎士団に1人ぐらい任せ
何だろう、と少女が眼を凝らすと近衛兵らの後に、しっかりとした紫紺の服装を身に
その女と遠くから視線が絡み合った瞬間、女が右腕を振り上げアイリを指さし大声で命じた。
「捕らえよ!!」
その声が塔内に響き渡り、少女は自分じゃないよなと思いつつ顔を引き
真下の螺旋階段は見えなくとも回り込んで向かい合うと上がってくる近衛兵らが何度も少女の方へ顔を振り向ける。
何やらかしたんだと、アイリはあれこれ思いだそうとしたが────まさか元老院長の命取った事の
「
ま、魔女だぁ!? 魔女裁判だぁ!?
どこをどう間違えば俺が魔女に見えるんだ!?
アイリは以前にイルミ・ランタサルが警告した事を思い出した。
──あなたが魔導のような剣術を使うのなら────あなたはいずれ聖職者に魔女の嫌疑をかけられてしまいます──。
どうしよう!? どうしたらいい!?
適当に言い
無理だわ! あれはそんな手合いじゃない!
上がってくる異端審問官が、ヘルカ・ホスティラよりもガチガチのその道のベテランの雰囲気にとても口先だけで言い逃れが利く様な相手でないのがわかった。
イルミが
くそう! 階段駆け下りて連中を残らず蹴り落とすか!
少女は顔を振り上げて下りてくるリクハルド・ラハナトスやヘルカ・ホスティラを見やったが困惑げな面もちの視線を返された。
アイリがおどおどしていると、先頭の近衛兵が少女の近くまでやってきた。
その数人後ろにいる上げ髪の異端審問官が巻物の様な訴状を両手で縦に伸ばし読み上げた。
「アイリ・ライハラ、お前は我がデアチ国──主
やっぱり
アイリは強張った顔でヘッレヴィ・キュトラの読み上げる口元を見つめていた。
「────厳格なる魔女
どうせ責め苦だ。
アイリ・ライハラが
「止めておけアイリ! 立場が悪くなる。貴公の無実を証明するから止めておけ!」
あぁ、なんでこうなるんだよ────。
アイリ・ライハラは顔を
「もしもし──あなた、アイリなの?」
背後で声が聞こえ少女が高窓へ振り向くと2本の