第18話 限界点
文字数 1,748文字
魔女キルシは狂戦士 が与える混乱に乗じてドラゴンを差し向けていた。
この時代、大陸地域の殆 どの人は翼竜 が空に羽ばたくのを見ると動きを止め身をひそめ飛び去るのを待つ。見つかれば即 翼竜 は火焔を浴びせ焼きにかかってくる。地上にいることは稀 であり、空飛ぶ翼竜 には武器は届かず、投石機などの攻城兵器ですら易々 と飛び躱 す翼竜 はそれほど危険であり人々の恐れの対象であった。
中でも赤竜はもっとも獰猛と言われ、人の集まる村、町、城塞都市を見つけては襲ってくる。
その赤竜を──蛇化したサタンの魔気に引き寄せられてきた小柄のものをデアチ国の闘技場 でアイリ・ライハラは1撃のもとに倒していた。小柄とはいえ居館 ほどもある大きな魔物だった。
だが片側が壁、片側が崖 の狭い山道で狂戦士 と戦うアイリ率いる魔女討伐隊 の上空に突如 現れた赤竜は大きいどころの話ではなかった。
巨大、翼の広さは小さな城よりも幅があり、その翼はいたるところが破れ、赤竜が老齢の経験を積み重ねた狡知 持つ強敵であることを知らしめていた。
狂戦士 の足を押して崖へ落とそうと力込めていた騎士らは見上げた上空に羽ばたく巨大な翼竜 が口を大きく開き火焔を今にも吐きかけそうな様 を眼にし顔を引き攣 らせた。
アイリ・ライハラはまずいと思った。
狂戦士 や魔女討伐どころの話ではない。今すぐにこの隠れ場所のない山道を逃げなければ40ほどの騎士なぞ一瞬にして焼き払われる!
「皆 逃げろぉ! 山道のどっちでもかまわない。走って逃げるんだぁ!!!」
アイリが大声で退却を命じた寸秒、馬車 すら呑み込めそうな牙立ち並ぶ大口を開いた赤竜が凄まじい勢いで火焔を吐きだした。
粘着質の可燃性の体液が広がりオレンジ色の火焔が広く深く狂戦士 を中心に一瞬に騎士らを飲み込んだ。
ベテランの騎士らは即座に兜 のフェイスガードを下ろし腕で覗 き穴を塞ぎ顔を焼かれるのを防いだ。
顔を守ったものの騎士らは甲冑 に着いた粘着質の燃え上がる体液を叩 き落とそうと必死になった。大量の炎に怯えた馬らは暴れ出し押し合い次々に山道から崖下へと落ち始めた。
燃え盛る狂戦士 は足元の狼狽 える騎士らを石の腕で薙 ぎ払い、一瞬にして5人の騎士が焔 を靡 かせ崖へと落ちた。
1人──女剣士テレーゼ・マカイだけが甲冑 の炎を意に介せず上空の赤竜へ呪いの叫び を浴びせ追い払おうと躍起 になっていた。
アイリは燃え上がり崖から突き落とされる部下達を呆然 と見つめていた。
皆 殺 られる。全滅だ。生き残れない。
そう思った矢先いきなり殴り倒されアイリは炎消えてない腕を振り抜いた仁王立ちの相手を見上げた。
「アイリどのしっかりしなさい! あなたにできることがあるだろう!」
蛮族の女大将ヒルダ・ヌルメラに怒鳴られアイリ・ライハラは我に返った。
そうだ。俺にできることがある。
俺にできること────。
騎士団長は落ちている2振りの長剣 を両手につかみ立ち上がりながら呟 いた。
「サーティ・セヴン・ステップ」
アイリ・ライハラ握る両手の長剣 の刃 がいきなりぶれて残像を引き伸ばし周囲に甲高い音が唸 りだした。一瞬にして細身の長いリボンを曳 き回すようにアイリの周囲に幾すじもの水蒸気のヴェイパーが旋風 のように重なりだし、直後それが拡大すると山道に広がっていた騎士全員を呑み込んだ。
旋風 は竜巻 となり全員の炎をかき消すといきなり四散した。
だが炎や旋風 に動じない金剛石の狂戦士 はなおも暴れ続けていた。さらに6人が崖下へと殴り落とされ残されたアイリ含む30人は狂戦士 から山道の前後に距離をおいた。
その眼下の争いに羽ばたいて空に止まる巨大な赤竜は首を左右に振り長い火焔の濁流を山道に浴びせた。
その火焔をアイリが再び巻き起こした旋風 が受け強引に押し返し乱れ吹き返した炎に赤竜は包まれてしまった。
焔が四散すると羽ばたく巨大な赤竜は数回首を振って付着した己 の可燃性の体液を跳ね跳ばした。
11名を失い、赤竜と狂戦士 はまだ無傷に近かった。
青い瞳座ったアイリ・ライハラは決心した。
自分の掛け金をすべて外すのは恐ろしかったが、全員がここで死ぬわけにはゆかなかった。
「リミット・リリース────ステップ!!!」
剣 を握りだして初めてアイリ・ライハラは己 の限界点を覗 き込んだ。
この時代、大陸地域の
中でも赤竜はもっとも獰猛と言われ、人の集まる村、町、城塞都市を見つけては襲ってくる。
その赤竜を──蛇化したサタンの魔気に引き寄せられてきた小柄のものをデアチ国の
だが片側が壁、片側が
巨大、翼の広さは小さな城よりも幅があり、その翼はいたるところが破れ、赤竜が老齢の経験を積み重ねた
アイリ・ライハラはまずいと思った。
「
アイリが大声で退却を命じた寸秒、
粘着質の可燃性の体液が広がりオレンジ色の火焔が広く深く
ベテランの騎士らは即座に
顔を守ったものの騎士らは
燃え盛る
1人──女剣士テレーゼ・マカイだけが
アイリは燃え上がり崖から突き落とされる部下達を
そう思った矢先いきなり殴り倒されアイリは炎消えてない腕を振り抜いた仁王立ちの相手を見上げた。
「アイリどのしっかりしなさい! あなたにできることがあるだろう!」
蛮族の女大将ヒルダ・ヌルメラに怒鳴られアイリ・ライハラは我に返った。
そうだ。俺にできることがある。
俺にできること────。
騎士団長は落ちている2振りの
「サーティ・セヴン・ステップ」
アイリ・ライハラ握る両手の
だが炎や
その眼下の争いに羽ばたいて空に止まる巨大な赤竜は首を左右に振り長い火焔の濁流を山道に浴びせた。
その火焔をアイリが再び巻き起こした
焔が四散すると羽ばたく巨大な赤竜は数回首を振って付着した
11名を失い、赤竜と
青い瞳座ったアイリ・ライハラは決心した。
自分の掛け金をすべて外すのは恐ろしかったが、全員がここで死ぬわけにはゆかなかった。
「リミット・リリース────ステップ!!!」