第12話 花と散る

文字数 1,146文字

 仕留めた。

 叫びの呪いが稲妻と化していた小娘を捕らえ(かせ)となった。

 草叢(くさむら)に打ちつけられ転がった小娘が動かずテレーザ・マカイは長剣(ロングソード)(とど)めを刺そうと(くら)の先を左手でつかんだ。


 須臾(しゅゆ)、鳥肌立ちマカイのシーデが振り向き目にしたのは刃物のような眼光。

 妹の叫びの呪いと異なり、威力劣るとも全方位へ力を送りだせすべて生きとし生けるものを動けぬほどに切り刻んだはずだった。

 着衣の胴を、腕を、脚を、腕を、首を、指を、顔を切り刻まれ血を染み込ませ、噴き出させ、飛び上がって(ソード)を振りかぶる女が暗殺者(アサシン)の血族だとテレーザは思った。

 気づいたのが(わず)か遅すぎた。

 マカイのシーデは(おの)長剣(ロングソード)を振り上げる余裕もなく暗殺者(アサシン)の双眼を(にら)み据え手の届きそうな間近で喉を絞り切った。


 あろう事か、女暗殺者(アサシン)は拡散する前の呪いを細身の(やいば)で受け寸秒刀身が砕け金属の破片を引き伸ばしテレーザ・マカイと馬の首の間で(くら)を蹴り越え反対側へ飛び下りた。


 しまった! (はな)からそれが狙いだったのだとテレーザが振り向くと女暗殺者(アサシン)は転がり動かなかった小娘を抱きかかえ駆けだした。

 逃がすか!

 (はかりごと)に落ちた怒りからマカイのシーデは左手1つで右の手綱(たづな)を引き馬の腹を蹴り込み丘の傾斜を駆け上り逃走をはかる女暗殺者(アサシン)へ騎馬を振り向けながら女の背に絹を裂く叫聲(おらびごえ)を浴びせた。

 右の外耳(がいじ)を切り落とされなお振り向かずに一心で駆ける女暗殺者(アサシン)へテレーザはもう一度()え呪いを浴びせ馬の躍動に身構えた。





 人の(たましい)の色がどんなものか思いを馳せた事があった。

 胸の谷間に息づく群青の宝玉(ほうぎょく)が私の心の色彩だと物心ついた時には受け入れていた。

 命を与え存在を救った代価。


「──アイリ! ────アイリ・ライハラ!」


 違う。ちがう。代価にしたんじゃない。


「眼を覚まして! アイリ・ライハラ!」


 ああ、思いだした。身体が溶け落ちそうなほど熱いと感じながら馬上の騎士を落とそうとしていたんだっけ。

 (まぶた)を開くと知った顔が見下ろしていた。


「イラ! ──お前────なんで血だらけなんだ!?」

 少女が途切れとぎれに問いかけた刹那(せつな)、イラ・ヤルヴァは顔を上げ(かす)れ声で叫んだ。


脳筋(・・)! アイリを受け取って!」


「だぁ、誰がぁ、脳筋だぁ!?」

 直後、残った1騎の騎馬兵と(ソード)をぶつけ合いながらに(わめ)き左腕を開いた女騎士ホスティラは、女暗殺者(アサシン)が放り投げたアイリ・ライハラを片腕でがっちりと受け止めた。

 (たくま)しい腕の中で顔を振り向けた少女は、坂を騎馬で駆け上る紫紺の騎士へイラ・ヤルヴァが腰の後ろからソードブレイカーを引き抜き構えるのを眼にし、女騎士の腕から飛び出そうと(もが)き叫んだ。


「止めろイラ! お前の手に負えるやつじゃない!」


 人の(たましい)の色がどんなものか思いを馳せた事があった。




 イラ・ヤルヴァの(つらぬ)く意志が見えたと少女は思った。





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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