第17話 難詰(なんきつ)

文字数 1,700文字


 ホンラッド公爵邸の近くまで行くとアイリ・ライハラは馬を速歩(トロット)に落とした。どのみち全力で走らせるには暗くなりすぎていたし周囲は森に覆われた敷地だった。

「我のために遅くなりましたことをお詫びします」

 ユハナ・マルカマキが声をひそめて騎士団長にわびた。

「いいさ。公爵は夜逃げするわけでもない。ユハナ目眩(めまい)は治まった?」

「はい、もう大丈夫です。公爵邸に声をかけますか? 急襲しますか?」

「裏をかため、礼節を通そう」

 ユハナが忍び笑いをもらしアイリは理由を(たず)ねた。

「どうした?」

「いえ、近衛兵副長からあっさりと騎士団長になられた理由をかいま見た気がしました」

「リクハルドやヘルカなら声もかけずに襲います」

「あいつらそんなにキツいのか?」

「いえ、決して厳しいわけでは────早く終わらせて帰ろうとするものですから」

 森の先から(やかた)の灯りが見えてきて、アイリは無言で人さし指と中指を伸ばした腕を振って騎士を配置につかせた。

 開かれたままの正門を抜け玄関手前で馬を下り2人連れ玄関のノッカーを鳴らした。

 ドア開き顔を(のぞ)かせたのは傭兵(ようへい)でも執事でもない老婆の小間使いだった。

「こんな遅がけに何の用ですか?」

「我々はリディリィ・リオガ王立騎士団のもの。公爵にお目通り願う」

 アイリは舌を噛みそうになり言うと小間使いの老婆が引っ込んで静まり返った。

 20呼吸しても音さたなくアイリは辛抱強く待ったが、それから10呼吸で(しび)れをきらした。

「こじ開けろ」

 そう言ってアイリが扉前から退くと、騎士団でもっとも大柄の騎士がドアに体当たりした。

 一発で観音の(かんぬき)が壊れ扉が奥へ開いた。

「行けぇ!」

 そうアイリが命じるとユハナ・マルカマキ他3人が押し入った。

「ホンラッド公爵! 魔女に加担した嫌疑(けんぎ)で────」

 続いて聞こえてきたのは(ソード)(やいば)ぶつかる音だった。

 自分の番だとアイリ・ライハラは鼻息荒く(やかた)に入ると4人の騎士躱(かわ)傭兵(ようへい)らの脇に躍り出た。

 またたく()に5人斬り倒すと奥からさらに4人の傭兵(ようへい)らが(ソード)抜いて立ち向かってきた。

 アイリは容赦なくその4人の腕を()り落とした。

 逃げ損ない座り込んでなくなった手首押さえ(うめ)傭兵(ようへい)の喉元に刃口(きっさき)向けてアイリは問うた。

「公爵はどこだ!?」

「いつまでもぐずぐずしてるものかぁ!」

 裏は騒がしくなく、アイリは即座に抜け道があると思った。

「ユハナ! 3人連れ隠し扉から抜け道を追え! 人の足だ。まだ遠くへは行ってない!」

御意(ぎょい)!」

 すぐにアイリは1人で一部屋ずつ見て回った。

 1階奥の台所に使用人がかたまり怯えているのを見つけ問いただした。

(やかた)にディルシアクト城の侍女(じじょ)長がいただろう。公爵と逃げたか!?」

 使用人らが顔を見合わせ応えずにいるとアイリはそのものどもを掻き分け奥に床に座り込んだレニタ侍女(じじょ)長を見つけだした。

「逃れられると思ったか────?」

 見上げ唇を(ひず)ませた侍女(じじょ)長が口を開いた。

「貴様の仕える国も王家も滅んでしまうのだ。この騎士気取りの小娘がぁ!」

 アイリ・ライハラは唇を一文字にして(ソード)を振るい下ろして侍女(じじょ)長のスカートを床に刺し止めると公爵家の使用人が左右に逃げ(まど)った。

「悪いが────そうはさせないぜ」

 アイリは身を乗りだして侍女(じじょ)長の目前で言い捨てた。

「お前などをイルミ・ランタサルが拾ってくるからこんなことになるのだぁ」

「人を犬ころみたく言ってくれるなぁ(ばばあ)!」

 そう言い捨てアイリ・ライハラはミセリコルデ(:トドメをさす短剣)を引き抜いて突き出された(あご)(かわ)し喉元に剣先(ポイント)を押しつけた。


「お前がやったことは魔女の仕業でも同罪だ。魔女査問と同じ責め苦で絡繰(からくり)を吐かせてやる」


「口を割りはしないぞ小娘」

「どうかな? 場数をそれなりに踏んできてるんだ。お前の知ってる小娘はもういないんだ」

 アイリは(そば)で怯える公爵の使用人へ命じた。

(なわ)持ってこい! こいつを縛りあげろ!」

 すぐに使用人が(なわ)を用意しレニタを縛りあげるとユハナ達が公爵と息子を引き連れて戻ってきたのでその2人も縛りあげ台所の床に放りだした。



「今から魔女嫌疑の()い改め。魔女裁判を行う!」



 台所の椅子にどかっと腰を下ろしたアイリ・ライハラが宣言した。





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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