第9話 怨念(おんねん)

文字数 1,476文字

 刺し(つら)いた妖魔のスピアに肉を切らせヘルカ・ホスティラは長剣(ロングソード)振り上げ強引に前へ歩み出てくる。

 その執念に火刑人のヴェラの手下ローデリヒは蒼白の顔を引き()らせ(おのれ)の攻め手にそれ以上の身動きを封じられていた。

 魔族はプライド高く残忍で執拗(しつよう)に人の命を零落を望む。

 だがローデリヒは目前に迫った女騎士に同じ匂いを感じていた。だが人間どもの尖兵は妖魔の命を執念そのもので狙っている。

 動揺もつかの間、見る()長剣(ロングソード)の間合いに入られヴェラの手下ローデリヒは苦し紛れにその女を脅した。


(われ)と同じようにヴェラ様を倒せるなどと思うな!」


「それはアイリ・ライハラがねじ伏せる!」


 女騎士は言い返し長剣(ロングソード)を振り下ろした。





 砂に顔をうずめ妖魔の少女は額から流れ続ける(おのれ)の命に限りあると9百年ぶりに感じた。

 だがまだ負けてはいなかった。

 両腕を砂地に突っ伏して割れた額から血をボトボトと流しながら上半身を起こした火刑人ヴェラは燃え上がる瞳で人の兵団を(にら)みつけた。

 その割れた人垣(ひとがき)の中央に背を向けた青髪の小娘と狼族(ライカン)がいた。

 なぜ妖魔の一族である人狼がそこにいるのだとヴェラは怒りを覚えた。

 数人の兵士がこちらへ腕振り上げ指さすのが見えていた。

 青髪の小娘が振り返りその(あお)一際(ひときわ)燃え上がった。

 片(つの)()り落とされプライドの(ほとん)どを持っていかれた。

 砕け散った骸骨兵(スケルトン)(つるぎ)つかみその切っ先(ポイント)を砂に突いて杖とし、怒りが立ち上がる両脚に力を(みなぎ)らせる。

 こんな脆弱(ぜいじゃく)な生物にいいようにされた屈辱が炉にエネルギーを注ぎ込む。

 離れていた青髪の小娘が長剣(ロングソード)切っ先(ポイント)引き()りながら向かって歩いて来る。


 終焉(しゅうえん)の六災厄が一人──火刑人のヴェラは(こうべ)垂れ上げた(つるぎ)(ブレード)を残った片(つの)に乗せ力任せに振り切った。


 妖魔兵団の一翼を(にな)う歴史に幕を引き、戦闘に特化した魔族本来の姿に戻る。

 青髪の小娘に逃げ場を与えぬように2人の周囲に視線一つで城壁のような(ほのお)の壁を生み出した。

 その(ほのお)に眼もくれず青髪の小娘は足を踏みだしてくる。

 小鼻(きわ)を流れ落ちるどす黒い血が唇を伝いヴェラは出した舌先でそれを舐めた。

 鉄の味がすると妖魔の少女は思った。

 それは死の味わいだ。



 それを貴様も味わうのだ。





 兵士数人がアイリ・ライハラの背後へ腕振り上げるのが見えていた。

 その腕が指さす。

 後には魔族の(しかばね)がある。それはまもなく黒い灰となり霧散するのだとアイリは思った。

「アイリちゃん──ヴェラが復活してます」

「あぁ! 復活だぁ!?」

 騎士団長は振り向くと倒した妖魔が(つるぎ)を砂地に突き立て立ち上がろうとしていた。

 その死にぞこないが(つるぎ)振り上げ(おのれ)の片(つの)(やいば)乗せ引き()った。

 そうか────それがお前の決心なのだな。

 長剣(ロングソード)を引き()りながら下衆野郎のもとへ歩き始めると周囲を火焔(かえん)の壁が取り囲んだ。

 雌雄決したいのか────だけど雌雄はない。

 互いに女じゃないかとアイリは足繰り出しながら唇をねじ曲げた。

 (ねじ)れた両角(りょうかく)をなくし、魔力に(たよ)らない腕の勝負を選んだかとアイリは内心その妖魔の少女を認めた。

 寸秒、ヴェラ握る(つるぎ)(やいば)が盛大に(ほのお)上げ始めるのを眼にアイリは顔を強ばらせ舌打ちした。

 やっぱり魔物だ。

 あくまでも妖力に(たよ)る。

 それならと────アイリは意識を(ブレード)に振った。


 寸秒、上空に暗雲が広がり諸刃(もろは)(つるぎ)が放電を放ち始め周囲の砂が浮き上がりだした。


 雷雨で(ほのお)を掻き消すなんて芸当はもうしない。

 徹頭徹尾──(いかずち)で叩きつけてやる。



 雷撃が砂塵撒き散らし終焉(しゅうえん)の六災厄が一人──火刑人のヴェラへ襲いかかるのと妖魔が繰り出した火焔(かえん)の波がアイリ・ライハラへ伸びるのが同時だった。





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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