第5話 後ろ盾

文字数 1,609文字

 必要以上の大きめの間合いで小娘の妖魔ロミルダは戦斧(ハルバード)柄尻(えじり)を地面について両膝(りょうひざ)落とし深く(うつむ)いたた女騎士を冷ややかに見つめた。

「終わったな────」

 魔物と人の激しい(やいば)の応酬だった。

「さあ、その首、()ねてやる」

 そう告げロミルダは戦斧(ハルバード)(やいば)を引き()って敗北した女騎士へと踏みだした。


 長剣(ロングソード)切っ先(ポイント)を地面についた女騎士がよろめき立ち上がり妖魔の小娘は目を見張った。


「まだ決着ついていないさ、お嬢ちゃん────」


 そうヘルカ・ホスティラが吐き捨てると戦斧(ハルバード)を引き()っていたロミルダは目を細め(やいば)跳ね上げその得物(えもの)を一瞬で黒光りする(やり)へと変貌(へんぼう)させると女騎士へと駆けだそれを投げつけた。

 その(やいば)長剣(ロングソード)の一振りで打ち逸らすと(やり)はヘルカ・ホスティラの真横の地面に突き立った。その(やり)を横目で見た女騎士は悪態をこぼした。

「ブリトーマの(やり)じゃねぇ──か。英傑(えいけつ)の死者から奪いやがったな────」

 その刺さった黒光りの(やり)が一瞬で消え妖魔の娘の手にダガー・ナイフとなるとそれをロミルダは女騎士の顔へと投げつけた。

 それをヘルカ・ホスティラは長剣(ロングソード)(ブレード)で甲高い音を立て()らした。その外れた小剣が空中で消え同時に駆けながら両手構えたロミルダの元に返り戦斧(ハルバード)に豹変しロミルダは送り出す両脚のステップを交差させ回転し跳び上がり大きな(やいば)を振り回した。

 その振り回される戦斧(ハルバード)へ女騎士は長剣(ロングソード)(ブレード)ぶつけ轟音が響くと押し切られヘルカ・ホスティラは後ろに足を滑らせ思った。

 この妖魔、特異手は自在に武具を変化させることだ。


「だが────攻めが軽いんだよ!」


 得物(えもの)を弾き上げられた妖魔の小娘へヘルカ・ホスティラは腕の筋肉を膨らませ女が振り回すには重すぎる長剣(ロングソード)を楽々と振り抜き(ブレード)(かす)らせた。

 その鋭い打ちものが妖魔のドレスを(かす)り跳ね上がったスカートの裾を裂くとドロシアは跳び下がった。

「我を鍛え抜いてくれた強者の名を教えてやる」

 押し切られた戦斧(ハルバード)の重量を受け両足を砂地に滑らせた妖魔ロミルダへ女騎士が言い切った。



「アイリ・ライハラだ」





 燃えるものもない砂地を覆い(ほのお)が目前に迫りイルベ連合の兵士らは驚きの声上げ後退(あとず)さったが青髪の少女は一歩も退()かなかった。

「ほう、()えるか────よかろう。だが我の劫火(ごうか)はこんなものではないさ」

 そう(つぶや)き、虫けらどもの新たな勇者は多少なりとも根性があるということかと六災厄が一人──火刑人のヴェラは思った。

 だが所詮(しょせん)虫けらは虫けら。焼き(すみ)にしてくれるわ!

 (まゆ)ひとつ動かさず妖魔の軍団長はさらに(ほのお)波打たせ範囲を広げだした。その(およ)ぶ広さはすでに千人の兵士ら前面右左翼を取り囲み後方すら覆い始めた。

 さあ、どうでる?

 (ほのお)に激しく揺れる空気に青い髪を舞い上がらせ踊らせた長剣(ロングソード)手にするアイリ・ライハラが脚を踏みだし言い張った。

「焼き殺せよ────青二才」

 その挑発に初めてヴェラは利き腕を少女へ振り上げた。


「十数年の小便臭い小娘が焼かれることを勘違いしてるな。(ほのお)の魔法に特化して千三百年焼き尽くし、それだけかけて妖魔の高見にのし上がった────フェガバイティ・ゴンガ・フレム!」


 渦巻く火焔(かえん)は爆発するように重なり津波のようになりアイリの方へ押し寄せた。

 その火焔(かえん)を突き抜け稲光が走り抜けた。その雷を目にして終焉(しゅうえん)の六災厄が一人──火刑人のヴェラは顔を(こわ)ばらせた。

「お前の凄まじい(ほのお)所詮(しょせん)個の魔力!」



「わたしを護る後ろ盾は数千万年君臨する神の眷族(けんぞく)だ」



 バリバリと数えきれなく落ちる万雷は急激に積乱雲を呼び起こしポツポツと落ち始めた水滴に妖魔軍団の大将は顔を引き()らせた。

「大量の水に魔力が通ると思うな」

 そうアイリ・ライハラが言い捨てた寸秒砂漠を滝のような土砂降りの雨が覆った。

 急激に弱まってゆく(ほのお)の名残りの先で細い(あご)を引いた青髪の少女が三白眼で終焉(しゅうえん)の六災厄が一人──火刑人のヴェラを睨みつけ長剣(ロングソード)を両手で右肩に振り上げる陰の構えで威圧した。



「さあ────(ソード)の勝負だ」





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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