第26話 根源
文字数 1,702文字
額叩き割られ血をぴゅーぴゅー飛ばす爺さんの髪つかみうなだれた顔を上げさせる。
こんなもうろく爺に父クラウスは追い立てられていたというのか!?
アイリ・ライハラは苦労して探しだした家臣長のザカライア・オーモンドの額を剣の握り手端のポメルで叩き割り、のらりくらり話躱す爺さんに白状させようと苦労していた。
「十九のときからイモルキ王室に仕え──薄給に堪え忍んで────」
「わかったから、爺さんの昔話は止めて聞いていることに答えて。クラウス・ライハラを追うように指示したのはザカライア・オーモンド、お前なんだな」
アイリがつかむ髪を揺すって家臣長をしゃんとさせようとするが、ザカライアはほのぼのと笑顔みせ途端に真剣な表情になった。
「わしが家臣長のザカライア・オーモンドだぁ────です! クラウス────むかぁしそんな名の魔女────いや魔導師がぁ──いたぁ」
アイリの肩に手をかけヘルカ・ホスティラが諭した。
「もういいではないか。貴君の意趣返しもほとんどが成し得たのだから」
アイリは爺の髪をつかんだまま引きつった顔で振り向いた。
「こいつが自白したらお仕舞いにする」
つまりこの老いぼれを手打ちにするまでは気が休まらぬというのだとヘルカ・ホスティラは困惑げな面もちで見つめた。
その横でテレーゼ・マカイが剣引き抜いて家臣長の首を刎ねてやろうとアイリの方へ進み出た。それをアイリ・ライハラは片手を上げ制した。
「やめろよテレーゼ。こいつは俺のものだ」
突如部屋の窓辺下のスリットから部屋の中に腰まで漬かっていた水が勢いよく吸い込まれアイリや騎士らは驚き顔で部屋中を見回した。
「な、なんだこの水は!? 今までなかったのにどこから!?」
「流されないように周りのものへ手助けしろ」
身長の低いアグネスが流されかかりヘルカ・ホスティラが腕をつかみ救い上げた。
「アイリ、これは、魔女の幻術でしょうか──!?」
第4騎士ミカエル・プリンシラが水流に抗いアイリに尋ねた矢先に軽い年寄りの家臣長ザカライア・オーモンドが流されようとしてアイリは肩をつかんで引き寄せ答えた。
「銀眼の魔女の仕業かも」
「これに何の意味があるのですか!?」
そう大声でアイリに問うテレーゼが流されて呑み込まれてゆく調度品のテーブルを躱しそれが流されるだけでなく部屋の隅までゆくと排水口となっているスリットに呑み込まれ状況が尋常じゃないと皆が慌て始めた。
アイリはこの水流の元となっている湧き水がどこから出ているのかと見回すと出入り口のドアの下から噴き出しているのだと気づいた。
「ミカエル、イェッセドアを引き開け! 一気に流れるぞ流されぬようかばい合え!」
そうアイリが命じた直後、二人の騎士がドア・ノブに手をかけた直後、押し切られるように一気に扉が開き一気に波が押し寄せてきて家臣長をつかんでいるアイリは波に呑み込まれ流されそうになった。
アイリは水流に抗い流されぬソファの背につかまりザカライア・オーモンドを必死で引き上げふと気づいた。
何ものかが証拠隠滅をはかっている!?
水流の上に家臣長の顔を引き上げアイリは老獪に尋ねた。
「お前の上に家臣はいるのか!?」
「わしの上? 上は一人いる。家老のクリフトン・フロスト」
そいつが魔術師をつかい部屋のものを溺れさせようとしたのだとアイリは思った。
三階の部屋だった。そういつまでも水流が続くわけがなかった。
徐々に水嵩は腰の高さを切り膝たけになった。
アイリは家臣長から手を放すと流されたものがいないか振り向いて確かめた。アグネスを入れ九人全員がそこにいた。
結局、ザカライアの命をとらなかったのだとヘルカ・ホスティラはアイリの行いに眼尻を下げた。
アイリはアグネスを呼び寄せると家臣長の前に立たせ大声で説明した。
「いいか、ザカライア! この子が新しい王妃アグネス・ヨークだ。お前は今日からこのアグネスに仕えるんだ! できるな!?」
ザカライア・オーモンドが大きく頷いたのでアイリはアグネスの手を引っ張り出入り口へ向かって皆に命じた。
「家老のクリフトン・フロストを探す! そしたら現王制打倒して終わりだ!」
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