第1話 予兆
文字数 1,724文字
野に出て
裏表があり隠した腹積もりがあるとは到底思えない。
アイリ・ライハラは
「アイリ、貴君は剣竜騎士団のリーダーとなり、その先どうするつもりなのだ?」
ヘッレヴィの問いに少女は鼻歌を中断し小さく
「騎士団長から先?」
「ああ、そうだ。王家の一員になりたいとか上を目指しているのか?」
「投げだす。面倒くさいもん。お家に帰って親父の仕事を手伝うよ」
あぁなんと素朴な
財宝を手にするとか、
この無欲の
恐らくはそう多く命を奪ってはいないのだろう。
「アイリ、貴君はどれくらい倒したんだい?」
少女が眼を寄せ考え込んだ。それを見つめ元異端審問官は簡単に数えきれないほどなのかと不安が
「う──ん、1000は越してるけれど2000には届かないよ」
1000人!? 強豪の騎士でも他の兵を倒すのは数百と聞く。それを2000に届かない!? アイリ・ライハラの手は血に染まり抜いているのか? とてもそうは見えない。
普通、多くの命を奪うと物事に無関心になり
「どこの国の兵を多く倒したの?」
「デアチの兵と騎士、あと元老院なんとかの爺さんと黒爪の魔女」
ヘッレヴィ・キュトラは困惑した。自国の兵が1000も倒されたら騎士でなくとも自分の耳に入ってくる。だがその様な事は聞いた事がない。
それじゃあ、少女が兵によくいる手合いで、自分の腕や
「うちの兵をそんなにどこで?」
「うーん、このデアチのお城から半日馬で走った野原。叫び声で斬りつける双子の女騎士が連れてた騎兵30人ちょっとと、その前に盗賊を13人ぐらい」
ヘッレヴィ・キュトラは困惑した。40余り? まあ2000に届かないと少女は言ったがそれではまるで大風呂敷ではないか。
「残りの900人以上はどこで倒した?
いきなりアイリが上半身を起こしてヘッレヴィ・キュトラに眉根をしかめてみせ問い返した。
「はあ? 900人ってなんだよ? それじゃあまるで俺、連続人殺しみたいじゃん」
「えっ? 1000越してるって貴君が言ったんだぞ」
少女がため息をもらし両肩を落とし
「それって魔物倒した数だよ。多過ぎて覚えてないんだ」
なんだ魔物なの────えっ!? 魔物を1000匹!? 兵士倒すより大事じゃないの! 元異端審問官は眼を丸くした。
「あ、アイリ──貴君ん────ど、どれくらい大きな魔物と渡りあった事があるのぉ?」
「1番大きいのは親父が相手したダンジョン183階層の
聞くからに
「た、タラスコン────?」
「あぁ、ちょっとした小屋2軒分ぐらいの大トカゲ。人を見かけると食いたさから溶岩だって渡ってくる何でも喰らい」
溶岩を渡ってくる大トカゲ!? ヘッレヴィ・キュトラは身体抱きしめ身震いした。
元異端審問官は少女をじっと見つめ、もしかしたらこのものは、
きっと、それゆえに
だがこの先訪れるハヒゥランタの街の
あそこは熱狂的な信者が多い街なのだ。
ヘッレヴィ・キュトラは嵐の予感を抱いた。