第7話 叱咤激励(しったげきれい)
文字数 1,752文字
転がった蝿 の王の頭を剣 で突き刺し布袋に入れるとアイリ・ライハラは剣 を引き抜き振って不浄の血を飛ばすと鞘 に仕舞い袋の口を革紐で閉じた。
「そんなもの持っていくのか?」
女剣士ウルスラ・ヴァルティアを名乗るテレーゼ・マカイが不快そうな面もちで問いただした。
「うん! これで裏 の魔女のキルシを脅すんだよ。悪辣 な魔女も引いてしまうじゃん」
そうか。悪魔の骸 もそんな使い道があるのかとウルスラは驚いた。どのような能力を持つのかも知れぬ魔女を倒しに行くのだ。得物 となるものは多いに越したことはないとウルスラは思った。
「だが、我は持っていかぬぞ」
汚いものを見下ろすその眼でウルスラはアイリのつかむ布袋から視線を逸らした。
「悪魔の首領になぜ首を狙われた──か?」
馬上の腹の出た騎士マティアス・サンカラに言われアイリとウルスラが振り向いた。
「ここらは荒れ地じゃん。魔物もでるだろう」
アイリの意見にウルスラがそれを否定して口添えした。
「いや、アイリ──そやつ君の名を知っておったぞ」
アイリは片手に握る布袋を持ち上げて見つめ呟 いた。
「キルシ────あの魔女め」
キルシが俺が来てることを見抜いているなら遠征群も知っている。キルシが受けて立つつもりだとアイリは理解した。
「だが、我々にちょっかいを出している間、魔女は王妃 に手出しできない」
眠たそうな顔できついことを言うとアイリは腹の出た騎士マティアス・サンカラを見上げた。
あの日、魔女アーウェルサ・パイトニサムはゴーレムを使いイルミ・ランタサルの命を奪おうとした。1度は記憶をなくしてもその怨念 は跡を引いていた。鉾先 をくるんくるんに向けさせるわけにはゆかない。
覚悟を決めアイリが自分の馬の鐙 に足をかけた時になって部下の騎士の1人が尋 ねた。
「騎士団長、首落としても息の根を止めなかったような魔物がこれからも出て来るのですか?」
鞍 にまたがったアイリは、小首傾 げた。
「ゴーレムやらスケルトンやら?」
尋 ねた部下の騎士が生唾を呑み込んだ。
「それならまだ易 しいよ。裏 の魔女のキルシを侮 るなよ。もっと手強い使役 魔を放ってくるさ」
会話しているその配下の騎士だけでなく傍 の騎士数人も明らかに動揺していた。
アイリは人さし指を立てて騎士らに振り向いた。
「あ、気にするな。ウルスラやマティアスもいるし俺もいるから」
「騎士団長、我々はあなたがたみたく魔物を倒した経験はないんです。敵国の騎士なら幾らでも相手にしましたが──」
アイリは視線を落とした。人を倒した人数よりも圧倒的に魔物の数の方が多かった。だけど誰にでも最初はある。勇気づけるのと一線を越させるのは違うとアイリは父から仕込まれて知っていた。
「いいか、魔物といえども急所はある。多くの刃 を受けると弱りもする。ただ粘り強いから無敵に思えて人の戦意が負ける」
配下の騎士らが黙って聞いていた。その真剣な眼差しが上昇思考だとアイリは思った。恐れを克服したい男特有の本能。
「魔物を畳み掛けるときは一気にやるのは人間の戦意が魔物のそれに劣るからだ。連中は人を殺し喰らうために生まれたんだ。人の殺意は劣って当然だよ」
騎士らは怖いとは言わない。騎士のプライド。男の矜持 。アイリはもう一押しすることにした。
「初めて戦場 で人を倒したときはがむしゃらだっただろう。葛藤 もあったはずだ。だけど2人目は余裕があったはずだ。ときめいたか?」
見つめる騎士らの多くが頷 いた。
「魔物を倒すときは悪意に苛 まされないぞ」
言い切るアイリ・ライハラの青い三白眼に男らは視線をとらわれていた。剣竜騎士団の黒騎士を倒しマカイのシーデ姉妹を倒した騎士団長は巨大な赤竜すら1刀で倒した。さらにはサタンと云われる黒い蛇を捕らえている。
敗戦しノーブル国の属国として新たに再編されたデアチ国剣竜騎士団を束ねるアイリ・ライハラは掛け値なしに強い。遠征群の騎士ら誰1人としてそれを疑うものはいなかった。
その強靭な女騎士が言い切る。
魔物を倒すのに罪悪感はないと。
殺 るか殺 られるかの修羅場で生き残る術を授けようとする女騎士団長に心底の忠誠心を抱き始める騎士らの前に立ちはだかるはアーウェルサ・パイトニサム────極悪の魔女キルシ。
地獄よりも悲惨な運命が口を開いていた。
「そんなもの持っていくのか?」
女剣士ウルスラ・ヴァルティアを名乗るテレーゼ・マカイが不快そうな面もちで問いただした。
「うん! これで
そうか。悪魔の
「だが、我は持っていかぬぞ」
汚いものを見下ろすその眼でウルスラはアイリのつかむ布袋から視線を逸らした。
「悪魔の首領になぜ首を狙われた──か?」
馬上の腹の出た騎士マティアス・サンカラに言われアイリとウルスラが振り向いた。
「ここらは荒れ地じゃん。魔物もでるだろう」
アイリの意見にウルスラがそれを否定して口添えした。
「いや、アイリ──そやつ君の名を知っておったぞ」
アイリは片手に握る布袋を持ち上げて見つめ
「キルシ────あの魔女め」
キルシが俺が来てることを見抜いているなら遠征群も知っている。キルシが受けて立つつもりだとアイリは理解した。
「だが、我々にちょっかいを出している間、魔女は
眠たそうな顔できついことを言うとアイリは腹の出た騎士マティアス・サンカラを見上げた。
あの日、魔女アーウェルサ・パイトニサムはゴーレムを使いイルミ・ランタサルの命を奪おうとした。1度は記憶をなくしてもその
覚悟を決めアイリが自分の馬の
「騎士団長、首落としても息の根を止めなかったような魔物がこれからも出て来るのですか?」
「ゴーレムやらスケルトンやら?」
「それならまだ
会話しているその配下の騎士だけでなく
アイリは人さし指を立てて騎士らに振り向いた。
「あ、気にするな。ウルスラやマティアスもいるし俺もいるから」
「騎士団長、我々はあなたがたみたく魔物を倒した経験はないんです。敵国の騎士なら幾らでも相手にしましたが──」
アイリは視線を落とした。人を倒した人数よりも圧倒的に魔物の数の方が多かった。だけど誰にでも最初はある。勇気づけるのと一線を越させるのは違うとアイリは父から仕込まれて知っていた。
「いいか、魔物といえども急所はある。多くの
配下の騎士らが黙って聞いていた。その真剣な眼差しが上昇思考だとアイリは思った。恐れを克服したい男特有の本能。
「魔物を畳み掛けるときは一気にやるのは人間の戦意が魔物のそれに劣るからだ。連中は人を殺し喰らうために生まれたんだ。人の殺意は劣って当然だよ」
騎士らは怖いとは言わない。騎士のプライド。男の
「初めて
見つめる騎士らの多くが
「魔物を倒すときは悪意に
言い切るアイリ・ライハラの青い三白眼に男らは視線をとらわれていた。剣竜騎士団の黒騎士を倒しマカイのシーデ姉妹を倒した騎士団長は巨大な赤竜すら1刀で倒した。さらにはサタンと云われる黒い蛇を捕らえている。
敗戦しノーブル国の属国として新たに再編されたデアチ国剣竜騎士団を束ねるアイリ・ライハラは掛け値なしに強い。遠征群の騎士ら誰1人としてそれを疑うものはいなかった。
その強靭な女騎士が言い切る。
魔物を倒すのに罪悪感はないと。
地獄よりも悲惨な運命が口を開いていた。