第9話 思いだせません
文字数 2,139文字
かぁ──かぁ──、とうるさい。
首の皮膚を
あぁ────なんてことするんだぁ!
手を振り上げ目を開けると驚いて飛び逃げる十数羽の黒い翼が羽ばたくのを見てなんでこんなに
ため息をもらし、横たわったまま顔を横に向けると肉を残した
あぁ、ここは────そうだ──遺体捨て場だわ。
遺体捨て場。
なんでこんな生臭い死臭の満ち溢れた場所で寝てるのだと
あぁ、そうだわ。頭半分を砕かれ絶命したのだ。
徐々に記憶が下りてくると、頭を突き刺された
包帯巻きという怪しい容姿ながら宮廷魔術師として元老院に
野良犬のうろつく野っぱらに縛ったまま放置した長身の大きな女騎士の言葉がリフレインのように蘇り真似て口ずさんだ。
「楽しみな────」
楽しんださ。野良犬十数匹に噛みつかれ皮膚が裂け肉を噛み千切られ幸いに食い切られた
それから農家に忍び込み熊のように家人を襲い喰らい、汚れた包帯を手に入れ、デアチ国城都に行くために
宮廷魔術師に
かぁ──かぁ──、とええいうるさい!
腕を立て上半身を起こし
頭半分を失いこうやって動きだせるのも、悪魔との
魔女なんて五十歩百歩。サバトに集まる連中の
上級悪魔となら、こうして死んでもあっさりと蘇ることができる。まあ半端ない数の魂を
なんだかむかつく。
蘇りの副作用は決して気持ちよいものではないこと。だがそんな
理由はあの長身の女騎士かと思いかけ違うのだと直感が
この
そうだわ。
あの天空の
あの小娘が高見座まで跳び上がりサロモン・ラリ・サルコマー元老院長もろとも
怒り込み上げてくると力が
いくら
お前自身が魔女として人々に疑いかけられる。
むかつきが幾ばくか治まり、ミルヤミ・キルシが立ち上がるとぼとぼとと脳が落ち少女
なんでむかついてるんだっけ?
宿屋からペット同伴はお断りだと追い出された。
アイリ・ライハラは黒猫の首筋を摘まみぶら下げ暗い通りに立ち途方に暮れていた。
まいったなぁ。
こんな野良のせいで街中で猫使いの魔女と追い立てられてるのに、宿屋から閉めだされた。
しばらくそうして立ってると小太りの町人のおっさんが通りを歩いてきた。うかつにも少女は暗がりに隠れるのが遅れ何食わぬ顔で立ってやり過ごそうとするとそのおっさんがアイリの顔を見ながら通り過ぎニヤニヤし戻ってきて尋ねた。
「お嬢ちゃん、商売してるの? 幾らだい?」
アイリ・ライハラはむかついてぶら下げていた猫を振り上げた。
「投げつけんぞ、おっさん!」
急にそのおっさんは思いだしたように吐き捨てた。
「ひぃいいい! 猫使いの魔女だぁ!」
ぶら下げている時点で気づかんかい、あほぅ!
そうしてくるんと着地した黒猫をアイリは腰に手を当て見ているとその猫がすたすたと歩きより少女の足元にまとわりついた。
「勘弁してくれよ。お前を枕に路地裏で寝るなんてごめんだからさぁ」
「なぁ────ごぉ」
野良が一鳴きすると通り向かいの家の暗がりで小さな一対の瞳が光りだしそれにアイリは気がついて見つめ続けた。
「うっ────冗談だろぉ」
少女が
それに引かれるように野良猫がぞろぞろと出てきた。