第24話 天誅(てんちゅう)

文字数 1,594文字


 イラ・ヤルヴァの軽口に(そそのか)された法王が告げた人数────26万の兵士。

 両手片足振り上げて驚いたアイリ・ライハラはおもむろに腕を下ろし両手を顔の前に持ってくると指を順番に折り始めた。


 ぱっこ────ん!


 頭を(たた)かれ血の気の引いた少女が振り向くと(かたわ)らで元異端審問官が(かぶり)振った。

「あなたは──どうして手の指で数えられると思う────の?」

「数えられないの?」

 ヘッレヴィ・キュトラがまた手を振り上げたのでアイリは顔を引き()らせ後退(あとず)さった。

 少女はあまりにものことで現実味がなく、面倒なら逃げ出すしかないと思い始めた。デアチ国剣竜騎士団や兵士ですら面倒なのにその数百──いいや数千倍規模の兵なんて操れるわけがない。

 周り見回すと、取り囲んでいる兵士が(スピア)尻を地面に突き立てて(ソード)(スキャバード)に戻し姿勢を正して待っている。

 待たれてても指示を出したが最後、既成事実(きせいじじつ)でこの先ずっと面倒を見なくてはいけなくなる。

「貴君、なぜ天使に知り合いがいるのだ? 天使になぜあんな酷い扱いをできるんだ? 怖くはないのか?」

 役人落ちに問われ少女は振り向いた。

「あぁ、あいつかぁ。ありゃ天使じゃ────」

 アイリはイラ・ヤルヴァがシーデ姉妹に殺された時のことを思い出して悪くは言えなくなった。曲がりなりにも彼女は自分を護ろうとしてくれたのだ。



教皇(きょうこう)────ノーブルの乙女アイリ・ライハラを無下にするでは──!」



 (ひざまづ)いているヨハネ・オリンピア・ムゼッティにプカプカと浮きながら説教していたイラ・ヤルヴァは後ろから飛んできた石をひょいと(かわ)し振り向いた。

「ハズレ! 御師匠様ぁ!」


 て、天使に石を投げた!?


 (あご)を落とし唖然となったヘッレヴィ・キュトラはその暴挙に天使が怒りもしないことに感動を感じた。

「やいイラ! 教皇(きょうこう)にしたさっきの話取り消せぇ!」

 元暗殺者(アサシン)教皇(きょうこう)に振り向くと取り消した。

「あの娘、アイリ・ライハラを邪険にしてよい」

 聞いているヨハネ・オリンピア・ムゼッティは困惑した。十字軍をまかせる総大将が天使様に投石をする。これを信者が見たらどうするだろうか。それに総大将を邪険にもできないだろう。

 天使様にあからさまに異を唱えることもできない。

 どうしたらとオリンピアが考えているといきなりノーブルの乙女が(きびす)を返し教皇(きょうこう)の逆方向へと走りだした。

「あぁ! 逃げだした!」

 天使に言われ教皇(きょうこう)は言葉()まり大声で命じた。

「そ、その、た、大将アイリ・ライハラを出してはならぬ!」

 大将を出してはいけないと命じられた兵士らは自分らの方へ駆けてくる少女に困惑顔でパニックになった。その足の間に姿勢を下げ跳び込んだアイリは兵士の足元をしゃがんで必死に掻き分けた。

 その襟首を1人の兵士がつかんで少女は顔色が青ざめると次々に兵らに服をつかまれ引っ張られ身動きがとれなくなり6人の男らに担ぎ上げられ教皇(きょうこう)の方へ連れ戻された。

 丁寧に地面に下ろされた座り込んだアイリはオリンピアが何か告げようと口を開いた瞬間また逃げだそうと立ち上がった。だが走りだそうとして服が引っ張られ顔を向けると(すそ)教皇(きょうこう)が握りしめていた。

「十字軍をお願いいたします」

「いやだぁ! ぜってい引き受けねぇ!」

「天使様のお告げです」


「それがぁ間違いだとわかんねぇのかぁ!?」


 言い返しながら少女は見回しイラ・ヤルヴァの姿を探し求めた。本人に訂正させるのが1番だ。だがどこを見回しても天使になった元暗殺者(アサシン)はおらず少女は吐き捨てた。



「あのやろう! ばっくれやがったぁ!!」



 言い放った直後、ヘッレヴィ・キュトラがアイリの顔を覗き込んで額を見つめ笑いだした。

「なっ、なんだよ気持ちわりぃ」



「だってあなたのおでこに『天誅(てんちゅう)』って────」



 えっ、天誅(てちゅう)? おでこ? ああぁ! あのスカポンタン!

 アイリ・ライハラはイラ・ヤルヴァの言葉を思いだして怒り始めた。



 天使を邪険にすると天罰が下りますよ。





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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