第10話 格上

文字数 1,502文字

 不条理に燃え上がる。

 六災厄が一人──火刑人のヴェラの放った迫る火焔(かえん)が津波のように押し寄せた。

 青髪の小娘は放電を()き連れる長剣(ロングソード)を恐ろしい速さで振り回し爆轟を放ちその圧で(ほのお)を裂いた。

 身体一転させ群青髪の少女が振り抜いた(ブレード)切っ先(ポイント)から木の幹ほどの太さの(いかずち)(ほとばし)り横へ跳び退いた(きわ)を走り抜けヴェラは顔を強ばらせ気づいた。

 生死を分かつのは1つ。

 先に打ち込むか、後に放つか。

 妖力を繰り出せば、一瞬次手に間合いが生まれる。先手を(かわ)されやり込められると反撃ができなかった。

 青髪の小娘は先にも火焔(かえん)の壁を雷雨で消し、今爆炎を引き裂いた。

 油断させ燃やすしかないと妖魔の(おさ)(ほのお)壁を右へと回り込み始めた。

 だがあの人の小娘、どうやって居場所を探っている?

 (ほのお)と煙りで寸分も見えてないはずだ。

 回り込んで十数歩、いきなり火焔(かえん)の壁を引き裂いて青髪の小娘が飛び出してくるなりヴェラに向かい(つるぎ)を爆速で振り下ろした。

 その(やいば)長剣(ロングソード)で打ち()らしヴェラが跳び退くといた場所に落雷が命中した。

 火焔(かえん)に溶け込みヴェラは舌を巻いた。

 逃げる先を読んで手を打ってくる。

 魔族にも先読みに特化したものがいる。

 だがそれは人の匂いを嗅ぎ取ったり、音を聞いて向かってくるのを察知する。

 この(われ)が音を立てたり匂いを振りまいていると!?

 潜伏スキルを持つ(われ)がそれは有り得なかった。

 だが小娘の気配が火焔(かえん)の壁を回り込み近づいて来るのがわかった。

 本当に神の眷属が守護していれば勝ち目は半分もない。


 弱みを突け!


 ヴェラは(ほのお)から出るなり、人の兵団の先頭にいる狼族(ライカン)の小娘へ駆け出した。





 妖魔が真っ当に闘うなど信じなかった。

 じゃあ、あのヴェラという奴はどうして残った片(つの)(みずか)()り落とした。

 決意の表明だったのではないのか。

 アイリ・ライハラは魔石を感じる方へ向きを変え続け脚を繰りだしていた。

 どんな魔物も(からだ)に宿す力の源泉。

 父に連れられ幼い頃からの迷宮(だんじょん)巡りで魔石のありかが手に取るようにわかった。

 (ほのお)の壁を回り込んで追い詰めてゆく。

 ここで倒しておかなければ、いつかどこかで多くの人に(わざわい)となるのが見えていた。

 自分の身長にも等しい長剣(ロングソード)切っ先(ポイント)を砂地に引き()り敵を追い立ててゆく。

 (ほのお)の壁を避けきり見えてきた光景。

 眼にしたものに怒りが膨れ上がった。



 狼娘リーナの髪をつかみその喉元に(やいば)押しつけているヴェラが勝ち誇った笑みを浮かべていた。



「青髪の娘よ! (つるぎ)を捨てよ!」

 ああ、これだから徒党を組んで何かするのは嫌いなのだとアイリ・ライハラは思いだした。

 手にした得物(えもの)を横へ放りだし、次は何だとアイリは火刑人ヴェラを(にら)み据えた。

「さあ、青髪──こっちへ来てその首を差し出せ!」

 仕方なく人質取る魔族の元へ歩んでゆく。

 お前はやっぱり魔物だ。

 狡猾(こうかつ)な────外道だ。

 リーナの怯えた瞳がはっきりとわかる(そば)まで歩きアイリは砂地に両膝(りょうひざ)を落とし(こうべ)垂れ細い(うなじ)(さら)した。

 首を()ねる一瞬。

 (やいば)持ち上げ振るう一瞬。



 卑怯(ひきょう)なのは魔族の得意技ではない。



 片膝(かたひざ)立て振り上げた雷光放つのソード2条がヴェラの両腕を肩から()り飛ばし、振り回した対の稲妻の(やいば)でその肩に乗る首を()ねた。

 信じられないという驚きの紅い(まなこ)が堕ちる顔に張りついているのをアイリ・ライハラはしかと見た。

 手にした得物(えもの)がただ1つと思わせるために虚仮威(こけおど)しの長剣(ロングソード)を持っていたわけではない。ただ貴様がこれを見切れなかっただけだ。


「人は妖魔よりも狡猾(こうかつ)なんだよ」


 転がった頭に言い捨てた寸秒、(ひざ)落としヴェラの(からだ)(そば)に倒れ端から黒い灰となり(くず)れ始めた。



 ライトニング・ソードを消した瞬間、リーナが飛びついてしがみついた。





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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