第23話 氷結

文字数 1,800文字


 倒れた銀眼の魔女を見おろして誰も何も口にしなかった。

 遺体が消え去るどころか身動き一つしない。

「他の────魔女が出てきたりしないですわね」

 そうイルミ・ランタサルが強ばった顔で銀眼の魔女を見おろしながら、誰にとなく問いかけた。

 いきなり、がばっと起き上がったら(みんな)びびって逃げ腰になるのかとアイリは自分が()り倒しておいて勝手に思った。

「テレーゼ、(さや)でつついてみろよ」

 そうアイリが振るとテレーゼが2歩も後退(あとず)さり応えた。

「嫌です! アイリ──貴殿がおやんなさい」

「いやぁだよ。俺が()ったんだぜ。なんで俺がつつくんだよ!?」

 そ────────っと、稲妻の(つるぎ)剣先(ポイント)を銀眼の魔女の(ほお)に乗せた。途端に放電が始まり銀眼の魔女が跳び上がった。

 その様に(みな)は驚き円陣(えんじん)を広げた。

「生きてんじゃんかよぅ! 死んだふりしやがって!!」

 アイリが長剣(ロングソード)構え指摘した。

「なんで(われ)此方(こなた)(ソード)ぐらいで死ぬものか」

「ちょっと、そこのミエリッキ・キルシ──言いまわしが変ですよ」

 そうイルミ・ランタサルが指摘したもののアイリ・ライハラとヘルカ・ホスティラは何が変なのだと王妃(おうひ)へ顔を向けた。


「つきるところ、お前たちは好き勝手し放題で鬱陶(うっとう)しいのだ」


 王妃(おうひ)が腕振り向け指摘した。

「普通にしゃべれるじゃない!」

 そう王妃(おうひ)が指摘するまでもなくこれまでの銀眼の魔女が演技だったのだと(みな)は思った矢先にそれは起き始めた。


 銀眼の魔女を中心に氷床(ひょうしょう)が白銀で染まり部屋が広がり壁が遠ざかると奇妙な木立の林に周囲が変わった。乱立する木々はまるで氷が針葉樹の葉だというようにぎらぎらしたものになり視覚を惑わせた。


 氷の世界かとアイリ達数人は困惑すると、とたんに(みな)は激しい頭痛に(さいな)まれ頭抱え込み動けなくなった。

 なんだこれは!?

 針葉樹の氷の葉が揺れるつどに頭が割れそうになる。

 1人銀眼の魔女だけが微笑みながら立っており(みな)へ言い捨てた。


「頭、われておしまいなさいな────」


 差し込みの原因がわかったとて、それがやわらぐものでなかった。

 アイリ・ライハラは歯を食いしばり長剣(ロングソード)を振り回し、周囲の木々が数本()り倒されるとずきんずきんした頭が幾分軽くなった。

「ぎらぎらの木が原因だぁ!」

 そう教えたとて、他のものらが(ソード)で木を切り倒せるものでなく何とかアイリは距離おいてさらに超絶斬撃(ざんげき)を繰り出し木々を10本あまり倒すと他のものらは会話できるほどに回復した。

(みんな)! 魔女を倒しなさい!!」

 この頭痛の元は魔女だとばかりにイルミ・ランタサルは銀眼の魔女を()ち取るように命じた。

 一斉に銀眼の魔女へ切りかかるも、数回の太刀筋(たちすじ)(かわ)しミエリッキ・キルシはいきなり姿かき消した。

 だが頭痛を振りまく木々は消えずにアイリは遠く離れた木々を倒し続けた。

 イルミ・ランタサルは周囲を見回し眉根寄せていた。

 どう見回しても凍った部屋でなく屋外にいる。頭痛に襲われる前に、周囲の凍った壁が遠ざかったようにも見えた。

 だが今、いる場所は氷の髑髏(しゃれこうべ)の城に入る前に見た風景とは異なっていた。それに周囲のどこにもあの骸骨(がいこつ)の城はなかった。

王妃(おうひ)様、ここはどこなんでしょう!?」

 そう女騎士ヘルカが問いかけるもイルミは答えられずにいるとノッチが応えた。

「魔女の結界領域でしょう。我々はまだ魔女の術中にいるのです」

 それを聞いてイルミは周囲にあの骸骨(がいこつ)の城がないのも納得した。

「ノッチ殿、ではどうやればこの世界から逃れられるのです?」

「銀眼の魔女を倒さぬことには無理でしょうな」

 ではここから出られないことになる。かんじんの張本人が姿かき消したのだ。

卑怯(ひきょう)な! 出てこい魔女め!! 我と勝負せよ!!!」

 (わめ)くヘルカ・ホスティラの声が冷えた空気にむなしく消え去ってゆくとイルミらにアイリ・ライハラが戻ってきた。謎の凍てついた木々を数十本切り倒し肩で息をしていた。少女は王妃(おうひ)のそばに行くと穏やかに(たず)ねた。

「で、ここから出られないのか!?」

「アイリ、今のところは無理なのです。この世界を創った銀眼の魔女がそばに────」



 いきなりアイリは(ソード)を仕舞い両手でイルミ・ランタサルの脚を(はた)いた。



 自分の脚を見て王妃(おうひ)は驚いた。

 凍りつこうとしていた。

 自分だけでない。

 ヘルカもテレーゼも足元から凍り始めており2人は(わめ)きながら(しも)をはらった。


 最悪だった。


 魔女の創った世界に閉じ込められただけでなく(みな)は凍りつき始めていた。





ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み