第27話 罵(ののし)り
文字数 1,962文字
真っ逆さま高く飛ばされたアイリ・ライハラは近衛兵らに突っ込んでくる荷馬車のキャラバンが見えていた。
見えているからと、つかむもののない空中でどうする事も出来ない。そのまま勢い失うと顔から落ち始めた。
落ちる先に荷馬車隊列の先頭にある女暗殺者 イラ・ヤルヴァの操る操馬台 が見えていた。
「やばっ! ヤバい!」
吸い寄せられるようにイラの横に座る王女イルミ・ランタサルが急激に拡大してゆく。
まるで察した様にイルミ王女が空を見上げ顔を引き攣 らせ両腕で身を庇 うのがわかっていながらに落ち続ける少女は身をよじって躱 そうと努力した。
努力はしたの!
どがっ、と大きな音を立て地面に張り付いたアイリは、躱 せたと安堵して横を見ると地面に顔から突っ込んでいるくるんくるんが傍 に逆さまに立っていた。
慌 ててイルミ王女を地面から引き抜いた少女は君主にいきなり顔を殴られ仰 け反 って顔から地面に落ちた。
「ぺっぺっぺっ──助け起こそうとしたのにいきなり殴りつけやがって──ぺっぺっ」
両手を地について土を吐きながら顔を起こしたアイリは王女へ文句を言うとその顔面に今度は鞭 を喰らい、少女は顔を押さえて跳び下がった。
「痛ぁああああっ! 何するか、でっけえ馬糞がぁ!」
「何を偉そうに! よりにもよって一国の王女に鳥の糞の様に降ってきておきながら!」
顔を押さえた指の間から顔面土だらけのくるんくるんがまた鞭 を振り上げたのを見て、少女は慌 てて後退 さった。
そのイルミ王女が振り上げた鞭 を下ろし、いきなり自分のスカートの両側を摘まみアイリへ背を向けると猛然と駆けだした。
「えっ────?」
振り向いたアイリ・ライハラは無事なウチルイ国近衛兵ら数十人が剣 を振り上げ叫聲 を上げながら走って来るのが見え顔を引き攣 らせた。
少女は地面に落としていた自分の長剣 を拾い上げイルミ王女を追いかけ始めた。
その差が僅 かに縮まると、アイリはイルミ王女に怒鳴った。
「おらぁ!民 をほっといて自分だけ真っ先に逃げるかぁ!」
スカートを摘まみ必死で走るイルミ王女は振り向きもせず近衛兵副長に言葉を浴びせた。
「このスカタン!私 の方へ来るやつがありますか! あの兵士らの怒りはチビのお前に向いているのです!」
なんでスカートを摘まんでそんなに速く走れるんだとアイリ・ライハラは必死でイルミ王女を追い上げながら怒鳴った。
「いいや違うぞ! 魔女キルシをぶら下げて連中に突っ込ませたあんたを恨んでいるんだぁ!」
叫んでいる間に、縮んでいた差がまた開いてアイリは眼を丸くして追いすがった。
「そんな事を誰が考えたかなど、あのものらが知るわけないでしょう! 目の前でばかすかと落雷喰らわせたお前を怨んでいるに決まっているでしょう!」
言われてそうなのかと少女は眼を寄せ思った。
「確かに落雷喰らわせたけれどさぁ────」
「それみなさい! やましいから言葉に詰まるんです! 何でもいいから、私 の方へ来るのはお止め! この洗濯板のチビ!」
「うっ! うるせぇ! チビだの、洗濯板だの! てめぇだって農婦に化け切れてねぇくるんくるん頭がぁ!」
一瞬の思いつきでアイリ・ライハラはイルミ王女と違う向きにいきなり駆けだした。
振り向くとウチルイ国の近衛兵らがイルミ・ランタサルを追い始めた。
「がぁはははははっ、やっぱりくるんくるんを追いかけてんじゃん!」
アイリが得意げに大声で笑うと、イルミ王女がスカートから片手を放してアイリ・ライハラを指さし怒鳴った。
「お聞きなさい! 裏の魔女キルシを焚 き付け爆裂魔法を操っていたのはあの青髪のチビです!」
唖然と口を開いて振り向いたアイリ・ライハラが横顔で眼にしたのは、こちらへガクン向きを変え駆けだした剣 を振り上げた男らだった。
その土埃 の陰で斜めに走り込んで来た荷馬車の一台にイルミ・ランタサルがつかまり操馬台 に飛び乗った。
「てぇめぇだけ汚ねぇぞぉ!! このどブスの口先女がぁ!!」
「アイリ・ライハラ!」
名を呼ばれ前を振り向いた少女は引き攣 らせた顔から血の気が引いた。眼の前に女騎士ヘルカ・ホスティラ操る荷馬車が止まっていた。
あまりにも近すぎて荷馬車の後輪に真横からアイリ・ライハラは突っ込んだ。
見えているからと、つかむもののない空中でどうする事も出来ない。そのまま勢い失うと顔から落ち始めた。
落ちる先に荷馬車隊列の先頭にある女
「やばっ! ヤバい!」
吸い寄せられるようにイラの横に座る王女イルミ・ランタサルが急激に拡大してゆく。
まるで察した様にイルミ王女が空を見上げ顔を引き
努力はしたの!
どがっ、と大きな音を立て地面に張り付いたアイリは、
「ぺっぺっぺっ──助け起こそうとしたのにいきなり殴りつけやがって──ぺっぺっ」
両手を地について土を吐きながら顔を起こしたアイリは王女へ文句を言うとその顔面に今度は
「痛ぁああああっ! 何するか、でっけえ馬糞がぁ!」
「何を偉そうに! よりにもよって一国の王女に鳥の糞の様に降ってきておきながら!」
顔を押さえた指の間から顔面土だらけのくるんくるんがまた
そのイルミ王女が振り上げた
「えっ────?」
振り向いたアイリ・ライハラは無事なウチルイ国近衛兵ら数十人が
少女は地面に落としていた自分の
その差が
「おらぁ!
スカートを摘まみ必死で走るイルミ王女は振り向きもせず近衛兵副長に言葉を浴びせた。
「このスカタン!
なんでスカートを摘まんでそんなに速く走れるんだとアイリ・ライハラは必死でイルミ王女を追い上げながら怒鳴った。
「いいや違うぞ! 魔女キルシをぶら下げて連中に突っ込ませたあんたを恨んでいるんだぁ!」
叫んでいる間に、縮んでいた差がまた開いてアイリは眼を丸くして追いすがった。
「そんな事を誰が考えたかなど、あのものらが知るわけないでしょう! 目の前でばかすかと落雷喰らわせたお前を怨んでいるに決まっているでしょう!」
言われてそうなのかと少女は眼を寄せ思った。
「確かに落雷喰らわせたけれどさぁ────」
「それみなさい! やましいから言葉に詰まるんです! 何でもいいから、
「うっ! うるせぇ! チビだの、洗濯板だの! てめぇだって農婦に化け切れてねぇくるんくるん頭がぁ!」
一瞬の思いつきでアイリ・ライハラはイルミ王女と違う向きにいきなり駆けだした。
振り向くとウチルイ国の近衛兵らがイルミ・ランタサルを追い始めた。
「がぁはははははっ、やっぱりくるんくるんを追いかけてんじゃん!」
アイリが得意げに大声で笑うと、イルミ王女がスカートから片手を放してアイリ・ライハラを指さし怒鳴った。
「お聞きなさい! 裏の魔女キルシを
唖然と口を開いて振り向いたアイリ・ライハラが横顔で眼にしたのは、こちらへガクン向きを変え駆けだした
その
「てぇめぇだけ汚ねぇぞぉ!! このどブスの口先女がぁ!!」
「アイリ・ライハラ!」
名を呼ばれ前を振り向いた少女は引き
あまりにも近すぎて荷馬車の後輪に真横からアイリ・ライハラは突っ込んだ。