第7話 褒賞(ほうしょう)
文字数 3,425文字
アイリ・ライハラが強引なイルミ王女に喰ってかかろうとした矢先にまるで先手を打つように王女がソファに歩み寄り腰を上げかかって指差す腕を伸ばしていた少女の手首を握り立たせた。
「いらっしゃいなアイリ」
そう王女が告げ妖しく瞳を耀かせた。
アイリは王女に連れられ廊下に出ると、今度はどこに連れていく気だと眉根をしかめた。そうして
兵達は王女とわかるなり扉左右の袖壁へ移動し直立不動の姿勢に戻ると王女は
その部屋は暗く奥にランプの
「誰だ──?」
しわがれた、だが威厳のある声だとアイリは思った。
「お父様、わたくしです。どうですか御加減は?」
王女が父へと声をかけたと知りアイリは驚いた。まさかウルマス・ランタサル国王の寝室に来るとは。
「まあまあだよ──イルミどうだったか、国境近くの様子は?」
イルミ王女はいつもするようにベッド脇の椅子に腰を下ろしシーツの上に出されている王の手に両手を添えた。
「
違う! アイリはそう思った。旅人の
少女が思わず小さなため息をつくと、ウルマス国王が声を振り向けた。
「誰じゃ? イルミと同席しておるのは?」
少女はまた驚いた。ウルマス国王は眼が見えていない!
「このものは、わたくしが帰路で暴徒に襲われたところ助けて頂いたアイリ・ライハラという少女です」
「なんと──イルミ、そなた怪我は?」
「わたくしは大丈夫です、お父様。アイリは将来騎士団を任せられる才覚を持っています」
少女は顔をひきつらせた。近衛兵副長とか騎士団を任せるとかどんどんと運命が自分の手から離れてゆく。
「なんと騎士団をか──アイリとやら、わしの手を──」
そう言ってウルマス国王はシーツから手を
アイリはベッドサイドに歩み寄り国王の手に自分の手のひらを
「なんと
「先月15になりました」
「そうか。そちにはまだ国というものがわからんだろうが、どうか多くの
ウルマス国王が言葉を切ると少女が口を開いた。
「私は──」
アイリははっきり断ろうと思いながら切り出せなかった。病の床につきながらなお、この人は国民を心配し続けている。自分はそこまでのことができるだろうか、と苦悶した。
「──そうすれば、アイリ・ライハラ──そちは
「国王様、私にそのような力はございません。近衛兵副長や先々騎士団を率いるなど、父が聞けば卒倒いたします」
アイリが説明すると国王は己が手に添えられた彼女の手を握りしめた。
「そちの父の名はなんともうす?」
「クラウス・ライハラと申します」
「クラウス──? クラウスだと!?」
ウルマス国王が押し黙ったので、イルミ王女が心配し声をかけた。
「父上、アイリの父親がどうしたのです?」
「魔法使いは魔力の妨げとなる金属を
アイリは苦笑いを浮かべた。親父は鍛冶職人という仕事上、打ち上げたソードを器用に試し振りする。時には2本の
「国王様、父はそんなたいそうな人じゃないけれど、わたくしがそばにいないと生活もままならない──」
言い掛けてる最中にウルマス国王がアイリの手を放し両手をパンと叩き合わせた。そのいきなりの動作と音にアイリは両手を振り上げベッドから数歩も逃げてしまった。だが隣にいるイルミ王女が平然としていることに眼を
「国王様、お呼びでございましょうか?」
入ってきたのは使用人の1人だった。礼節わきまえているのか王のベッドには近づかず離れた場所から遠慮がちに声をかけた。
「ヘンリク、このもの──アイリ・ライハラの住居に遣いのものを出しこのものの父──クラウス・ライハラに娘の城
アイリは
うぁああ! この親にしてこの子あり──国王も言いだしたら曲げない人だったんだ!
少女は逃げだそうと
ディルシアクト城の異なる場所で
「本当ですか? ライモ近衛兵長は騎士団の一員ではないが奴の
金髪の
「城内ではその話で持ちきりだ。イルミ王女が連れてきたその少女が新しい騎士団長になると」
ケープ姿でフードを被った男が
「王女の巻き返しだ。芽を
「そうだ──君ら騎士団は新たな国の
2人の
「しかし、まだ子どもだぞ。そこまでのことをすれば
ケープ姿の男が歩みを止め
「問題ない。