第11話 暗雲
文字数 1,832文字
素早く
「静かにしろ。さすれば命はとらん!」
「きょ、今日は客が少ないんだ。金は少ししか──」
「金は盗らん。言うことを聞けば店の女給仕やきさまの家族の命は奪わない」
そう言って男は店主の
「店に
「こ、殺しの片棒など────」
背後の男が
「心配するな。死毒ではない。ただの
店主はそれを鵜呑みにするほど愚かではなかった。もしも死人がでて役人の取り調べで食事に原因があるとされたら提供した自分も家族も死罪となることを
「できぬ──客の信頼を────」
「ああ、面倒になってきた。お前の首を
こいつが口先でないと店主は思い覚悟して皮袋をつかんだ。
寸秒、喉元の
「では、店の外で効果を確かめさせてもらう」
店主が振り向いた時には半開きの扉に男の姿はなかった。
肉、肉、肉料理────。
お盆に載せられ運ばれてくる様々な肉料理にアイリ・ライハラは引いてしまった。
「お前ら、肉ばっか食ったら夜寝られねぇぞ」
そうアイリが言うとイルブイ国騎士団総大将のヒルダ・ヌルメラが切ったステーキをほおばりながら野菜をつつくアイリに言い返した。
「なにを
それを聞いてアイリは眼を細めて唇をひん曲げぼそりと言い返した。
「俺ぁ、お子様だぁ。
手羽先をもりもり食べる女剣士ウルスラ・ヴァルティアがすました顔でアイリに言い聞かせようとした。
「そこらへんの手ほどきをしてもいいと思いますよ」
プチトマトを口に放り込んだアイリがぎょっとなってテレーゼ・マカイへと顔を振り向け抗議した。
「そんな知識いらぁん! ウルスラ、お前もっと野菜食え!」
言い放つアイリの前に給仕がどんと子豚の丸焼きを置いて足早に厨房カウンターへと去って行った。
「おらぁアイリ! 次の店行くぞ! 次ぃ!」
両腕を気炎上げるヒルダとテレーゼに
「うぅぅ────ホストはもういらんからぁ────」
想像に鳥肌立ってアイリは
ふとアイリは思った。こいつらの生き場所は
アイリは薄い一切れの豚肉の炙りものを口にしてさらに思った。
なら同じ考え方で
魔法に興味をもったささいなきっかけからその道に突っ走り多くの皇族や騎士、
ノーブル国に狂戦士ガウレムを遣わせ王やイルミを窮地に立たせたあいつと初めて遭った時から本能のように敵だと思っているが、そうじゃなかったら一緒に遊んで回るダチになったかもしれない。
アイリはフォークを噛んでじっと皿の子豚を見つめた。
こいつも豚に生まれなかったら皿に載ることもなかっただろうに。
ガツガツ食べる仲間を前にアイリ・ライハラは誰にも言えぬ苦悩があるのだと野菜にドレッシングを振りかけた。
父クラウス・ライハラの娘に生まれなかったら、こんな異国の地で腰に
「その星に生まれてしまったものは────仕方ない」