第30話 どうしましょう

文字数 2,480文字


 腹に突き立った大剣(クレイモア)をつかみ事切れたサロモン・ラリ・サルコマーを見つめていた騎士や近衛兵らは固まったように動かなくなった。

 段上にうつ伏せに倒れた包帯ぐるみの魔女もぴくりと動かない。

「どうすんの、あんたら?」

 アイリ・ライハラが問うと(みな)が一斉に顔を振り向けた。

 その顔々に畏怖(いふ)(にじ)みだしている。だが誰も答えようとせず少女はもう一度尋ねた。


「どうするの、あんたらは? やり合うなら相手するよ」


 数人が(ソード)のハンドルに手をかけようとしてアイリの顔色を(うかが)いながら手を放した。その(さま)を見て少女は闘技場(アリーナ)へ振り返った。

 まだ騎士や兵士がごまんといる。

 その中央に荷馬車に立つイルミ・ランタサルが見上げ仕切りに手を振り上げていた。

「あぁ面倒くさい女だぁ」

 アイリはそう告げ玉座に突き立った大剣(クレイモア)を片腕で引き抜いた。そうして(ブレード)振り回し荷馬車へ一気に振り下ろした。刃口(きっさき)が数段下の座席に叩きつけられ反動で飛び上がるとハンドルから手を放した。





 まさかここまでの事を成し遂げるなど、城外で強盗に襲われた時には思いもしなかった。

 群青の髪の少女がノーブル国を────(わたくし)をここまで引っ張り上げた。

 列強国に名を轟かせている剣竜騎士団トップクラス数名を()り捨て、我が王族を亡き者にしようと画策したデアチ国元老院長へ(あだ)を打った。

 もうこれ以上望むものはない。

 そう王女が思った矢先に荷馬車の近くに派手な砂埃が舞い上がり罵声が聞こえた。


「痛ぇてててぇ」


 その砂煙の間からひっくり返った青髪の少女が頭を押さえて振り向きイルミ王女が吐き捨てた。

下手(へた)くそ」

 アイリは下唇を突き出し言い返した。

「なにぃ!?」

 少女は荷馬車へ歩み寄り車輪を蹴り飛ばし自分のつま先を押さえこんだ。

「痛ぇぇ!」

「これこれ懐刀(ふところがたな)──」

 痛がるアイリへ王女が荷の上から手招きすると少女は気づいて顔を振り向けた。

「だぁれが懐刀(ふところがたな)だぁ! なんだよ、くるんくるん!? 」

「アイリ、これで終わりじゃなくてよ」

 そう告げ王女が高見座下の内壁に開いた大穴の方を指さし振り向いた少女は(あご)を落とした。


 女騎士ヘルカ・ホスティラを先頭に出て行ったノーブル国の騎士達が瓦礫(がれき)を踏み越え闘技場(アリーナ)へ入ってきた。


 アイリはその女騎士の有り様を眼にした瞬間両手を振り上げどん引きした。

 髪はボサボサ、(よろい)はひび割れ、右手に握る長剣(ロングソード)が────付け根からポッキリ折れてる。だが威勢は良かった。

「あははははぁ! アイリ・ライハラ! 見よ(われ)を!」

 そう言い放ち残念な女が左手を振り上げた。

 髪をつかんでぶら下げるは、王冠を載せた生首。

 後ろにいる元騎士団長リクハルド・ラハナトスや他の騎士4人も同じ様にボロボロ。(みな)杖代(つえが)わりに(ソード)を地面に突き立てよれよれと歩いてくる。

「アイリ・ライハラ! 見ろ、見てくれ! こいつを!」

 しきりに明るい声をかけてくる女騎士を少女は唇を震わせ指さし問いただした。


「おい、ヘルカ────右肩の上に(ソード)が刺さってんじゃんか!」


「あぁあ!? これかぁ!? ハンドルグリップが遠すぎて抜くに抜けん!」


 いいや、そうじゃないだろ! アイリは女騎士が痛がる素振りもみせない事の方が一番気がかりだった。上半身と同じ長さの(ソード)が刺さっていてなんで歩き回れるんだぁ!?

「これ、懐刀(ふところがたな)──」

 アイリ・ライハラは顔を引き()らせまだ荷物の上に立つ王女へ振り向き怒鳴った。

「だから懐刀(ふところがたな)じゃねぇ!」

 イルミ王女が顔を下げぼそりと(つぶや)いた。


「この大国、どうしましょう?」



 アイリ・ライハラは真顔の王女へ腕を振り上げ指さし怒鳴った。

「デアチ国をどうするだぁ!? どうするもなにもヘルカ・ホスティラが王の生首つかんでんだぁろうがぁ! おまえ後先考えねぇのか!」

 がっちゃんがっちゃんと音が広がりだして少女が肩をすくめた。

 恐るおそるアイリ・ライハラとイルミ・ランタサルやヘルカ・ホスティラらが振り向いた。

 内壁を取り囲む騎士や兵士らが握りしめた(ソード)を胸に引き寄せ鼻先に(ブレード)を近づけ忠誠を表明していた。


 少女は頭を抱え座り込んでしまった。


 荷馬車の上でイルミ王女が声高に何かを宣言しているのが遠くに聞こえていた。

 こんな軍事大国をノーブル国が併合したら、騎士団の団員が覚えきれないほどに増える。



 あぁ────どうしよう!?



 大変な事になっちまったぞ、親父!




 しゃがみこんで頭抱えるアイリ・ライハラを上空からイラ・ヤルヴァは見つめ微笑み思った。

 やっぱり御師匠を天国へ引っ張るのは止めておこう。地上にいる方がずっと生き生きして面白い────それにいつでも会いに来られるんだし。





──── 月日が過ぎた1年後 ────

 丘陵(きゅうりょう)の陰に隠した10数騎の戦馬(いくさば)に乗った騎士達が顔だけを(いただき)から(のぞ)かせていた。

「100騎はいます」

 1人の騎士が群青の甲冑(アーマー)に身を包んだ小柄な騎士団長に報告した。すぐにその小柄な騎士団長は隣にいる赤い甲冑(アーマー)の騎士に尋ねた。

「どうする? あれは進軍して来る本隊の斥候(せっこう)部隊だぞ」

 赤い甲冑(アーマー)の騎士がぷいと顔を背けた。

「知らん! お前の騎士団だ。き、騎士団つおう(・・・)

 こいつまた咬みやがった。218回目だぞ! 小柄な騎士団長は眉根を寄せ(みな)に命じた。

「いいか、全員倒すんじゃないぞ。数人残して本隊へ帰し進軍を思い(とど)めさせるんだ」

 いきなり赤い甲冑(アーマー)の騎士が小柄な騎士団長の乗る馬の腹を蹴り込んだ。

「なっ!? なにしやがるんだぁ!」

 (わめ)きながら一気に群青の甲冑(アーマー)の騎士乗る馬が坂を登りきり(いただき)を越え突っ走りだした。

「いけぇ! 斬り込み隊(つおう)!」

 大声で送り出しヘルカ・ホスティラは(スカル)の赤いフェイスガードを引き下ろしながら自分の馬の腹を両の(かかと)で蹴り込み一気に坂を登り出すと残り全員が競うように馬を走らせだした。

 (いただき)を越え見えた群青の甲冑(アーマー)はすでに遠く小さく先行している。



 女騎士は自分らがたどり着く頃には敵兵士が1桁になっていると知っていた。



 うちの騎士団(つおう)は容赦ないから。





 永らくお読み下さりありがとうございました。

 物語はまだまだ続きます。

 群青のアイリ─Ultramarine Airi─ 第2部で(ФωФ)ノ





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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