第16話 袋小路
文字数 1,720文字
「脱げと言うなら────脱ぐぞ」
ああ、魔物相手に何を言ってるのだと女役人落ちヘッレヴィ・キュトラはその相手越しに見えている気絶したアイリ・ライハラのことばかり考えていた。
化け物を引きつけこの部屋から別な場所へ誘い出す。
だが魔物に色香が通じるものかと他の方法を
怪物がカーペットに
「よっしゃ、脱いでみせろ」
元異端審問官は苦笑いし左
そんな趣味はないし、人外に肌を
「ほれ、待ってるぞ。はよ脱げ」
ここは開き直るしかない。
それしかあの小娘を助ける方法はない。
いいや、なんか違うぞと困惑しながらヘッレヴィは言った勢いで覚悟決めぎこちなく踊り子のように身体くねらせ上着のボタンを上から順に外し始めた。
ボタン一列を外し服を左右に開いたり閉じたりしてみせる。
人に化けていた魔物が、いきなり横になり床に
「つまらんぞ。もっと脱げ」
うっ!? 人に脱がせておいてその態度はなんだぁ!? この腐れ魔獣めぇ! ヘッレヴィは
このまま脱ぎ続けると直にすっぽんぽんで行き詰まってしまう。なんとかあの小娘を起こさねばと女役人落ちはくるりと身を回し使えそうなものを部屋に探した。
あった!
近くの壁に
ヘッレヴィは上着を脱ぎ捨てブラウスの袖のボタンを外しながら身をひるがえし壁へ近づきスタンドに手をかけた。
くるりと振り向いた勢いで、そのコート掛けを回し投げ放つ直前────向こう壁の元で頭を片手で押さえたアイリ・ライハラが床に手をついて気がついてヘッレヴィは真っ青になった。だが勢い。コート掛けから手を放してしまう。
すっぽんと、
コート引っ掛ける腕の1つが少女の後頭部を
バッタリと少女が倒れてしまい役人落ちは眼を
好色漢の魔物は横になって眺めている。その視線が突き刺さってきて元異端審問官はブラウスのボタンを
こうなれば
ヘッレヴィ・キュトラは部屋に武器として使えるものがないか見回しながら後悔した。あの
これしかない! ヘッレヴィはいきなりソファに駆け寄り端をつかみ足を踏みしめ持ち上げようとした。ソファなぞ引きずったことはあったが持ち上げたことなどなかった。
力込めても片側しか浮かず振り上げるなど到底できそうにない。
女役人落ちは息を大きく吸い込んでありったけの力を込めてソファを立てると魔物目掛け振り下ろした。
その倒れてくる家具を魔物は目にして動きもしなかった。
だ──ん、と大きな音が響きソファがひっくり返った。
魔物まで腕の長さで届かずにヘッレヴィ・キュトラは顔を強ばらせ駆けだした。チャンスはもう2度とない。アイリ・ライハラの元へ行きを起こすしかない。部屋を回り込みながら、ヘッレヴィは怪物が立ち上がるのが見えていた。
間に合う! 少女さえすぐに起きてくれれば!
アイリのところまで6人掛けのテーブルの長さまで迫ったその時、ヘッレヴィの眼の前にカーテンを閉じるように大きな陰が割り込んできた。
「遅いおそいよ、きみ。脱ぐのも遅いけれど足も遅いねぇ」
奇っ怪な顔が
それがくるりと向きを変え横に走り魔物の首が半分
少女は薄着になってる役人落ちを見て言い放った。
「服脱いでも速くなんね──ぞ」
違うって! ヘッレヴィ・キュトラがそう思った矢先に眼の前にいる魔物の首が泡立ち繋がり始めた。