第23話 赤くなったり青くなったり

文字数 1,669文字

 固唾(かたず)を呑んだ。

「それで────赤竜はどうなったんですか!?」

 美男子の新米騎士4人に取り囲まれこれはこれで両手に(はな)だし悪くないとヘルカ・ホスティラは愛馬を全速で走らせながら思った。

(われ)とエステルが4匹の大蜘蛛(おおぐも)の怪物を倒す前に騎士団長(きしだんつおう)が一撃で赤竜をのしてしまったんだ」

「一撃で!? ホスティラ殿、話を盛ってませんか!? 赤竜って兵士5千でも倒せないと聞きます!」

 右の1番若い騎士が遅れまいと馬を()いて大声で指摘した。

 それを女騎士は片唇吊り上げ鼻で笑い飛ばした。

「お前らよく聞けよ! うちの騎士団どころか、あいつが指揮する十字軍19万の兵士だれ1人としてあの女に勝てる奴はいない────が、(われ)とだけは本気で喧嘩するがな」

 よぉし! これで株が上がったぞ。だいたいひよっ子どもと3つ、4つしか違わないあれが十字軍のみならず3国の騎士団長(きしだんつおう)をしてるから信じないんだ。腕に覚えあるやんちゃ坊主に限ってそうだと女騎士ヘルカは思った。

「お前ら! (われ)の言うことをこれからも守るならアイリ・ライハラの弱点を教えるぞ」

 ヘルカ・ホスティラがそう言い捨てると4頭の馬がいきなり左右から寄ってきた。

「一生、ついて行きますホスティラ殿!」

 4人の男らが声を(そろ)え忠誠を確約した。

「そのだ────あの西の蛮族すら恐れる騎士団長(きしだんつおう)の弱点だぞ──そのだ────(われ)が指名すれば──よぉ──よ、夜伽(よとぎ)に来る奴なら教えんでもない」

 それを聞いた男らが大声の張り合いで(われ)先にと争い始めた。

「まあ、(われ)夜伽(よとぎ)とは潰れるまでの酒の飲み合いだぞ!」

 ヘルカが言うと男らが顔を見合わせた。騎士らの(うわさ)で大柄なヘルカ・ホスティラは樽半分を飲めると広まっていた。

「おい、ヘルカ、(わし)でもいいのか?」

 斜め後ろで馬を駆るノーブル国元騎士団長リクハルド・ラハナトスがぼそりと女騎士に尋ねた。

「奥さんに言うぞ!」

「ひぃ、そ──それは困る────」

 ヘルカが振り向いた先でリクハルドが苦笑い浮かべ言いよどむと若手騎士の1人がヘルカ・ホスティラに報告した。

「ホスティラ殿! 騎士団長がぁ! 騎士団長が敵斥候部隊を(ほとん)ど倒しかかっています!」

 女騎士ヘルカ・ホスティラが前へ顔を向けると1人先行した青い甲冑(アーマー)の騎士が敵兵を切り倒し馬に残るのが数人になっていた。

「いかん! あのバカ頭にきてる!」

 ヘルカは青ざめて馬の腹を(かかと)で蹴り蹄鉄(ていてつ)が一気に土を跳ね上げた。

 国境警備に出る都度、越境してくる兵を全滅させていたら話にならない。少しは生かして帰さないと国境の警備の状況を知らしめられないのに、アイリ・ライハラを突っ込ませると全員倒してしまう。

 ヘルカ・ホスティラを含め残りの15騎が辿(たど)り着く前に騎士団長(きしだんつおう)が30騎全員を倒してしまった。

「アイリ・ライハラ! 貴殿は何度言えばいいのだ!」

 真っ先にたどり着いた女騎士が怒鳴ると青い甲冑(アーマー)のフェイス・ガードを跳ね上げたアイリ・ライハラが振り向いた。

 下唇を噛み締め瞳をうるうるさせていた。

「だって落魄(らくはく)兵ってバカにしやがるから──」

 ヘルカは驚いた。アイリが落魄(らくはく)という言葉を知っていたからだった。

「貴君は────落魄(らくはく)の意味を知っていたんだな」


「知らん!」


 ヘルカ・ホスティラは顔をしかめ、こやつただ馬鹿にされたようだというだけでキレて暴れていたのだと呆れかえった。

「アイリ────」

「何だよ!?」



「もう少し大人の対応しような」



「俺は見てくれだけは、19だぁ! 喧嘩売ってんのかぁ! 行かず後家!」

「な、なにおぉ! (われ)は騎士道一筋を教会に誓った身だぁ!」

 怒鳴るなりアイリは馬から飛び下り馬上のヘルカ・ホスティラにつかみかかり、女騎士は鉄靴(サバトン)で足蹴にし始め他の騎士らが(あわ)てて馬から下りて止めに入った。

 その後方で元騎士団長リクハルド・ラハナトスはにやつきながら思った。


 こいつら青いなぁ────。





 ここまでお読みくださりありがとうございました。リニューアルに向け群青のアイリ困った面々しばらくお休みを頂き11月よりさらにパワーアップし戻って参ります。しばしお待ち下さいませ(ФωФ)ω





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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