第24話 黄泉がえり

文字数 1,753文字

 気をゆるすと誰もが凍り始める。

 (はた)けば(しも)は取り除けるが、一時(いっとき)も気が休まらなかった。

 王妃(おうひ)イルミ・ランタサルは知恵をしぼり抜けだす方法をみつけないと全員があの標本のようにされると危機感をいだいた。

 イルミは博識の片鱗(へんりん)をみせるノッチに相談した。

「ノッチ殿、この場から抜けだせる方法はないのですか?」

 氷床(ひょうしょう)にあぐらかいて座り込んだノッチは面白そうに王妃(おうひ)を見上げた。

「人間はどうして(きゅう)すると視野が狭くなるのだ」

 それは順番が違うとイルミは思った。

(さく)につきて(きゅう)するのです。ですが追い込まれれば三方の壁しか見えず逃げ道は追い込んだものの後ろにしか見えません」

 まあ、道理だとノッチとはたで聞いているカローンは思った。

「カローン殿、寒くはないのですか?」

 薄い布切れ1枚でいる男にテレーゼは小声で(たず)ねた。

(わし)は情熱的なんだよ」

 テレーゼは馬鹿にされたようでムッとして顔をしかめ、それを楽しげに見つめるノッチがイルミに続けた。

王妃(おうひ)貴女(あなた)肝心(かんじん)なことを忘れていらっしゃる」

「何を見落としていると?」

「アイリは死んだものを連れ戻せる」

 イルミはそれも考慮したと返そうとしてノッチの説明に耳をかたむけた。

「死に戻ってもこの結界術に閉じ込められるのでは?」

 ノッチが半眼になり静かに説明した。

「あれはアイリの特殊能力だが、幸いにも他人の能力を(あわ)せ持っていない。それにそのことを魔女はまだ感づいていない」

 イルミはノッチの私見に驚いた。アイリ・ライハラは死者を連れ戻せるが、連れ戻せる環境はごく一般的な場所だとアイリ・ライハラの主人は告げていた。

 つまりこの結界術の外に帰るのだ。

「だが残念なことにカローンは元煉獄(れんごく)がテリトリーなので死に戻れるが、(われ)は死んでも煉獄(れんごく)に墜ちないので当然、この結界術から逃れられないし標本化される可能性が残る」

 煉獄(れんごく)に堕ちない!?

 イルミ・ランタサルはその言葉に驚いた。いったいアイリ・ライハラの夫は何ものなのだ!? だがこれで取りあえず5人は外の世界に生き戻れる。

「では貴方抜きで魔女を倒し、結界術が解けるでしょうから貴方を救い出します。それでよろしいですね」

 ノッチは(うなづ)いてアイリを呼び寄せ耳元で何か(ささや)き少女は(うなづ)いた。

「じゃあ1番嫌な役割を引き受ける。(みんな)一突きであの世に送るから迷いの森で待ってて。カローン、俺が行くまで(みな)を頼んだぜ」

「任せとけ裏庭だから問題ない」

 1番怖がると思ったイルミ・ランタサルは黙って座り込み(まぶた)閉じそのとなりにヘルカ・ホスティラが座り込み王妃(おうひ)の片手を握りしめた。テレーゼが座り込むとアイリを呼び耳元に(ささや)いた。

「アイリ、私が迷いの森でイルミとヘルカを見つけるから先に()ってくれ」

「そう言ってくれると不安ないな。ありがとうテレーゼ」





 自分で自分の首に(ブレード)押し当て(ソード)を引くのは毎回になっても嫌な感触だった。

 意識戻ると(きり)たれ込める迷いの森にいた。

 アイリは、カローンが自分の名を呼んでいないか耳を立てた。

「カローン!」

「ここじゃ」

 一声名を呼んだ寸秒真後ろから声がしてアイリ・ライハラは驚いて跳び退きながら振り向いた。

 振り向くとカローンの後ろに困惑げな面もちのイルミ・ランタサルともう慣れっこになり平気な顔のヘルカとテレーゼがいた。

「さあ、蘇ろうアイリ」

 そうヘルカが陽気に言うのが何か引っかかりアイリは(たず)ねた。

「どうしたんだよ。何やらかしたぁ?」

「いやぁ──見たんだよ────」

 ヘルカ・ホスティラが声をひそめた。

「何を?」

 怪訝な面もちでアイリ・ライハラが問うた。


「銀眼の魔女を」


 アイリは誰かを見間違ったのかと軽く思った。

「他人の空似だろ?」

「いやぁ間違いなかったよなテレーゼ」

 振られたテレーゼが(うなづ)いている。

「なんで銀眼がうろついているんだよ。追いかけてきたのか!?」

 そうアイリが問いただすと3人が(かぶり)振りアイリ・ライハラがとんでもないことを言いだした。


「そいつ連れてかえろうぜ────」


 その案に顔強ばらせたイルミ・ランタサルらは賛成しかねた。





   ※作者よりのお知らせ※

 いつもお読みくださりありがとうございます。

 都合により12月28日の更新をお休みいたします。
 12月29日より通常通りの更新に戻ります。

 お楽しみのところをご迷惑おかけいたします(ФωФ)ω



 
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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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