第27話 価値
文字数 1,654文字
受付口に置かれた人の頭ほどのその朱石 ──それが2個も。
ギルド受付の耳の長く尖った女が瞳を丸くして顔を引き攣 らせている。
そのハーフエルフを見下ろし腰に両手を当てたイルミ・ランタサルが満面の笑みを浮かべていた。
「これを────どうしたんだ!?」
ハーフエルフに問われイルミ王女はす────っと息を吸い込んでもったいぶって説明した。
「知れたこと! 我々は貴女 の行った事もない最下層へ到達しそこの主 2匹を倒し手に入れたのです!」
その後ろで背を向けたアイリ・ライハラが眼を寄せて眉間に皺 を刻み口をへの字に曲げていた。
でっけぇ糞はこのために後生大事に魔石を持って来たんだ! そのせいで洞窟 出口まで追いかけて来た2匹目のタラスコンを倒さなければならなかった。
「なっ、なら何階層へ行ってきたというのだ?」
ハーフエルフが王女にただ問うたのではないと斜め後ろに立つ女騎士ヘルカ・ホスティラは気づいた。
「聞くがよい! 71階層の主 タラスコンよ!」
強張った顔を上げハーフエルフはイルミ王女を値踏みし続けた。
「タラスコンだと!? あの獰猛で人を喰らうためならマグマにも飛び込む大蜥蜴 を2匹も────だっ、誰が倒した!? 誰がタラスコンを倒せたと?」
がばっとイルミ王女が振り向き直前にアイリはしゃがみ込んで頭を抱え込んだ。王女と眼が合ったのは女騎士ヘルカ・ホスティラ。イルミはヘルカの腕をむんずとつかみ窓口へ引っ張った。
「こいつです」
「えっ!? えぇ!!?」
ヘルカ・ホスティラは両腕を振り上げ驚き、ギルド受付のハーフエルフは眼を細め胡散臭さそうに女騎士を睨 み鎌 をかけた。
「ヘルカ、お前さんが倒したと百歩譲ろう。その後に何階層まで下りた?」
女騎士はアイリ・ライハラが言っていた話を受け売りした。
「ひゃ、183────階層────です」
受付の奥でハーフエルフが驚いて立ち上がった。
「183!? 大ぼらだ! 我が行った事がないからとぬけぬけと!」
「お黙り! そこには三首の竜がいて口からはボタボタと熔岩を垂れ流していたのを眼にしました」
言い切ったイルミ・ランタサル──こいつぜったいに口から呪われるぞ、としゃがみ込んだまま眼を寄せたアイリ・ライハラは思った。
何をこだわって人外に見栄を張るんだ!?
「この魔石1個を適切な代価でお譲りいたしましょう」
イルミ王女の申し出に受付嬢のハーフエルフが顎 を落とし頭 振った。
「無理よ──この大きさのもの────どれほどの値打ちか知らないのか!?」
「奴隷数万人分もの価値があるんだ! この国の──ウチルイの奴隷すべてを買い取れる以上の────」
満面の微笑みでハーフエルフを見つめるイルミ・ランタサルが静かに命じた。
「貴女 をノーブル国奴隷解放大使に任命します。この国──ウチルイ国の奴隷すべて以上なら貴女 の雇用経費も込みでいけますね。お名前は?」
「ケリス、ケリス・ドロシー」
王女に腕をつかまれている女騎士ヘルカ・ホスティラが食ってかかる様に抗議し始めた。
「王女、何を仰 っているのかおわかりなのですか!? 奴隷すべてを解放したらこの国が混乱の極致に! 我が国ノーブルが差し金を回したと知ったらウチルイ国と全面戦争に!」
「国王、我が父ウルマス・ランタサルを亡きものにしようとした奸計 を謀 った大国デアチの足元に火を放つのです。デアチ属国のウチルイを落とすのはまず手始め」
王女の背後にしゃがみ込んで話しの成り行きを聞いていた少女は唖然となった。
ウルマス国王と自身に魔女キルシを差し向けたもと家臣 ヴィルホ・カンニストを唆 した北の大国デアチの元老院長 サロモン・ラリ・サルコマーに手土産持参で会いに行くなどとこの女はいけしゃあしゃあと言っていたが、それは上辺だったんだ。
直談判などと匂わせその実、北の大国デアチに喧嘩を売りに行くつもりだ!
足音を忍ばせ逃げだそうとしたアイリ・ライハラはいきなり後ろにバランスを崩 し尻餅をついた。
少女の襟首をイルミ・ランタサルがしっかりと握りしめていた。
ギルド受付の耳の長く尖った女が瞳を丸くして顔を引き
そのハーフエルフを見下ろし腰に両手を当てたイルミ・ランタサルが満面の笑みを浮かべていた。
「これを────どうしたんだ!?」
ハーフエルフに問われイルミ王女はす────っと息を吸い込んでもったいぶって説明した。
「知れたこと! 我々は
その後ろで背を向けたアイリ・ライハラが眼を寄せて眉間に
でっけぇ糞はこのために後生大事に魔石を持って来たんだ! そのせいで
「なっ、なら何階層へ行ってきたというのだ?」
ハーフエルフが王女にただ問うたのではないと斜め後ろに立つ女騎士ヘルカ・ホスティラは気づいた。
「聞くがよい! 71階層の
強張った顔を上げハーフエルフはイルミ王女を値踏みし続けた。
「タラスコンだと!? あの獰猛で人を喰らうためならマグマにも飛び込む大
がばっとイルミ王女が振り向き直前にアイリはしゃがみ込んで頭を抱え込んだ。王女と眼が合ったのは女騎士ヘルカ・ホスティラ。イルミはヘルカの腕をむんずとつかみ窓口へ引っ張った。
「こいつです」
「えっ!? えぇ!!?」
ヘルカ・ホスティラは両腕を振り上げ驚き、ギルド受付のハーフエルフは眼を細め胡散臭さそうに女騎士を
「ヘルカ、お前さんが倒したと百歩譲ろう。その後に何階層まで下りた?」
女騎士はアイリ・ライハラが言っていた話を受け売りした。
「ひゃ、183────階層────です」
受付の奥でハーフエルフが驚いて立ち上がった。
「183!? 大ぼらだ! 我が行った事がないからとぬけぬけと!」
「お黙り! そこには三首の竜がいて口からはボタボタと熔岩を垂れ流していたのを眼にしました」
言い切ったイルミ・ランタサル──こいつぜったいに口から呪われるぞ、としゃがみ込んだまま眼を寄せたアイリ・ライハラは思った。
何をこだわって人外に見栄を張るんだ!?
「この魔石1個を適切な代価でお譲りいたしましょう」
イルミ王女の申し出に受付嬢のハーフエルフが
「無理よ──この大きさのもの────どれほどの値打ちか知らないのか!?」
「奴隷数万人分もの価値があるんだ! この国の──ウチルイの奴隷すべてを買い取れる以上の────」
満面の微笑みでハーフエルフを見つめるイルミ・ランタサルが静かに命じた。
「
「ケリス、ケリス・ドロシー」
王女に腕をつかまれている女騎士ヘルカ・ホスティラが食ってかかる様に抗議し始めた。
「王女、何を
「国王、我が父ウルマス・ランタサルを亡きものにしようとした
王女の背後にしゃがみ込んで話しの成り行きを聞いていた少女は唖然となった。
ウルマス国王と自身に魔女キルシを差し向けたもと
直談判などと匂わせその実、北の大国デアチに喧嘩を売りに行くつもりだ!
足音を忍ばせ逃げだそうとしたアイリ・ライハラはいきなり後ろにバランスを
少女の襟首をイルミ・ランタサルがしっかりと握りしめていた。