第7話 暗澹(あんたん)
文字数 1,799文字
星の瞬 きしか見つめるものなき闇の中、ミセリコルデ──短剣片手に鉄靴 脱ぎ捨て足音を殺すその若い男は、石1つも動かさぬようにゆっくりと脚を運んでいた。
騎士らの夜営は疲れきっているのか歩哨 もおらず消えかかった焚き火が燻 った死んだ赤色を微 かに蠢 かせている。
アレクサンテリ・パイトニサムはあの忌々 しい女騎士団長に忍び寄りか細い喉を掻 き斬 ることをぐっと我慢しながら、山道の崖側とは反対の山肌の方を蛇のように移動していた。
アイリ・ライハラを殺すのは簡単だが、騒ぎに他の騎士らが眼を覚まし短剣しか持たぬ身では簡単に捕らえられ祖母──ミルヤミ・キルシを逃がすチャンスを失してしまう。そしたら祖母は魔女裁判に引き摺 り出され火炙 りを免 れぬだろう。
チャンスが1度きりなら、祖母を自由にし、圧倒的な祖母の魔力でアイリ・ライハラと騎士どもを屠 り去るのが最良の手段だった。
ゆっくりと気配消して近寄った捕縛 され山肌側に転がされている女が暗闇でいきなり目を開き、その暗い灰色にも見える双眼に気づき近寄るアレクサンテリは驚いて脚をすくめてしまった。
祖母はなんと凄い五感をしてるのだ。
これだけ気配殺しても目覚めさせてしまった。
裏切り追放された若い男がまた脚を運びだしミルヤミ・キルシは近寄るものがなにものかをまるで知っているように顎 を引きじっと見つめていた。
祖母の傍 らにまで近寄ったアレクサンテリは耳元に口を近づけ彼女に囁 いた。
「ミルヤミ──お静かに──すぐに自由の身に────」
闇の中で祖母が小さく頷 いたのが微 かに見える目 の横の動きでアレクサンテリは理解して、ミセリコルデの刃先を彼女を後ろ手で縛 る縄 にかけゆっくりと動かし切り落とした。
手が自由になり足首の縄 を孫が切っている最中にミルヤミ・キルシは猿轡 を両手で忌々 しげに顎 の下に引き摺 り下ろした。
足が自由になりすぐに動けるようにとアレクサンテリが祖母の脚をさすっている間、魔女は寝込んでいる騎士らを見回しそれぞれの場所をつかみ取ろうとしていた。
「さあ、ミルヤミ──皆 を一気に吹き飛ばし崖下に落とし始末しましょう」
アレクサンテリは祖母の耳に顔を近づけ囁 いた。
暗闇にミルヤミ・キルシの瞳が左右に1度揺れ動いた。
騎士らをまとめて爆轟の魔術では殺さないと言っていた。
どうしてだとアレクサンテリはすぐに問わずに考えた。
祖母にとって夜営地をまるごと吹き飛ばすなど朝飯前のはずだった。それをやらないということは祖母には別な狙いがあり物事の順序立てを違うように考えているのだ。
ミルヤミ・キルシが立ち上がり裏切りの若い騎士に顔を近づけ囁 いた。
「アイリ・ライハラは崖下に落としても死なぬ。天上人 の眷属 に護られている。まずあの小娘の守護聖霊を引き剥 がす。すべてはそれからだ──アレクサンテリ────我 の後ろに下がり被害を避けよ」
「わかりましたグランマ」
ミルヤミ・キルシの孫が祖母から数歩離れると詠唱 の言葉が微 かに聞こえだした。アレクサンテリが振り向くと大陸1の大魔女が暗闇の中で白いケープの両腕を左右に広げ彼にわからぬ言葉で複雑な古代魔法を呟 いていた。
「太古の混沌から──万界の玉座におわす雷龍の王の命────大いなる珠玉──無謬(むびょう)の境界に堕ちし理 ────地上人との契 りを闇の中の闇に追い落とす────」
ミルヤミ・キルシからそう遠くない焚き火の燃え残りの傍 で眠る1人の騎士が仄 かな青い耀 きを帯びてその淡い繭 が揺れ蠢 きだした。
「──天空の誓い、冥府の千切り────万物の繋がりあれど空蝉(うつせみ)に忍び寄る叛逆の如 く我 断ち切らん────」
ヒートアップするイズイ大陸1悪辣な裏の魔女の詠唱に騎士らが眼を覚まし始めた。その中で胎児のように丸まり眠り続ける騎士団長は顔にびっしりと冷や汗を浮かべ微 かに呻 き声をだしていた。
「六面世界の七柱の神々の名において雷竜王──ノッチス・ルッチス・ベネトスとアイリ・ライハラの契約を霧散させよ! ミノル・シンコンドラクト・シントーマ!!!」
アーウェルサ・パイトニサム裏 の魔女のミルヤミ・キルシが両腕を星空に向け振り上げ叫び声を響かせた刹那 、起き上がり剣 引き抜いた騎士らの間 で包んでいた青い光のオーブが引き裂かれると驚愕 の面もちで上半身を跳ね起こしたアイリ・ライハラの髪が一気にラピスラズリの色合いから闇の黒へと変貌 した。
騎士らの夜営は疲れきっているのか
アレクサンテリ・パイトニサムはあの
アイリ・ライハラを殺すのは簡単だが、騒ぎに他の騎士らが眼を覚まし短剣しか持たぬ身では簡単に捕らえられ祖母──ミルヤミ・キルシを逃がすチャンスを失してしまう。そしたら祖母は魔女裁判に引き
チャンスが1度きりなら、祖母を自由にし、圧倒的な祖母の魔力でアイリ・ライハラと騎士どもを
ゆっくりと気配消して近寄った
祖母はなんと凄い五感をしてるのだ。
これだけ気配殺しても目覚めさせてしまった。
裏切り追放された若い男がまた脚を運びだしミルヤミ・キルシは近寄るものがなにものかをまるで知っているように
祖母の
「ミルヤミ──お静かに──すぐに自由の身に────」
闇の中で祖母が小さく
手が自由になり足首の
足が自由になりすぐに動けるようにとアレクサンテリが祖母の脚をさすっている間、魔女は寝込んでいる騎士らを見回しそれぞれの場所をつかみ取ろうとしていた。
「さあ、ミルヤミ──
アレクサンテリは祖母の耳に顔を近づけ
暗闇にミルヤミ・キルシの瞳が左右に1度揺れ動いた。
騎士らをまとめて爆轟の魔術では殺さないと言っていた。
どうしてだとアレクサンテリはすぐに問わずに考えた。
祖母にとって夜営地をまるごと吹き飛ばすなど朝飯前のはずだった。それをやらないということは祖母には別な狙いがあり物事の順序立てを違うように考えているのだ。
ミルヤミ・キルシが立ち上がり裏切りの若い騎士に顔を近づけ
「アイリ・ライハラは崖下に落としても死なぬ。
「わかりましたグランマ」
ミルヤミ・キルシの孫が祖母から数歩離れると
「太古の混沌から──万界の玉座におわす雷龍の王の命────大いなる珠玉──無謬(むびょう)の境界に堕ちし
ミルヤミ・キルシからそう遠くない焚き火の燃え残りの
「──天空の誓い、冥府の千切り────万物の繋がりあれど空蝉(うつせみ)に忍び寄る叛逆の
ヒートアップするイズイ大陸1悪辣な裏の魔女の詠唱に騎士らが眼を覚まし始めた。その中で胎児のように丸まり眠り続ける騎士団長は顔にびっしりと冷や汗を浮かべ
「六面世界の七柱の神々の名において雷竜王──ノッチス・ルッチス・ベネトスとアイリ・ライハラの契約を霧散させよ! ミノル・シンコンドラクト・シントーマ!!!」
アーウェルサ・パイトニサム