第7話 何とでもお言いなんし
文字数 1,798文字
「エステルぅ!? ど、どっから沸きやがったぁ!? ひ、人を魔女みたく言うなぁ!!!」
言い返してすぐにテレーゼ・マカイはマズッたと気づいたが、アイリ・ライハラは地ですっとこボケた。
「ち、違うぞぉ! お、俺ぇじゃない、わ、私 はアイリ・ライハラの姉──え────と、マイリ・ライハラだぁ!」
言ったそばからテレーゼがアイリにヘッドロックをかけ首を絞め呻 くアイリの耳元に顔を寄せ囁 いた。
「馬鹿かぁお前は! あの婆 は剣竜騎士団で1番勘 が鋭いんだぞ。我らの素性 がバレてしまうだろうがぁ! 何が姉──え────と、だぁ!」
寒気に黒のレース・ベールの下でテレーゼが眼を横に流すと真横にまるで甲冑 の装飾を施 した如 き模様の入った顔中に蔓 が這い回り側面へ葉が広がり所々に葡萄の房 が下がっている刺青 だらけの花魁 騎士のケバい顔があった。
「素性がなんどすぇ?主 さんが婆 ?」
「ひぃぃ!」
驚いたテレーゼがアイリから腕を放し飛び退いた。
その2人のやり取りを横目で見ていてアイリは怖ぇぇぇと思った。エステル・ナルヒはデアチ国剣竜騎士団の第6位、テレーゼ・マカイといえばその上の第3と第4位に双子姉妹で力尽 くで占めていたんだ。その1人がマジでビビっている。この煙管 女から初見の日に額に火のついた煙草を投げつけられそれを躱 せなかったのをアイリは思いだした。
速さには自信のある自分が、だぁ。
煙管 より重い剣は持てないとか言って力のほどを見せなかった娼館 女が着るような赤いドレスを身につけているこのお・ん・なぁ!
アイリは今こそこいつの腕前を見てやると腰に下げた剣のハンドルに手をかけた。その瞬間だった。
ぽん!
ナルヒがさっと手を振り上げ煙管 の火皿の口を額に押しつけられおでこに火のついた煙草が張りついた。
「うぁちちちちちぃ!」
アイリは駆けずり回って額のお灸 を払い落とすとテレーゼ・マカイが演技を始めた。
「エステル・ナルヒ殿とお見受けするが我々はデアチ国王妃 イルミ・ランタサルに召還 され参ったところ。某 はウルスラ・ヴァルティア、所属はないが剣士である」
エステル・ナルヒが眼を細めてすたすたと歩きより腰を折ってテレーゼのベールの下から顔を覗 き込もうとするとテレーゼは慌 てて後退 さった。
「分け合って顔は明かせぬ。ご無礼許せ」
テレーゼが言いきるとアイリがまくし立てた。
「やい! 馬鹿やろうがぁ! 額に2度も盛りやがってぇ!」
怒鳴るアイリにナルヒは眼を流して呟 いた。
「2度────? なんざんす? デアチ国が初めではないのでありんすか?」
「失礼つかまつるえすエステル・ナルヒ殿!」
テレーゼ・マカイはいきなりそう告げてアイリの右手首をつかみ引っ張って早足で逃げ始めた。アイリは引き摺 られるように歩きながら文句を並べ立てた。
「なにするんだぁ!? あいつには1度顔にピンヒールを押しつけられた事もあるんだ! 1度ヒ──ヒ──言わせてやらないと気がすまねぇ!」
「本当に馬鹿ですかあなたは!? 上手く言い逃れられるものを次々にボロを出して」
振り向いてアイリに忠告したテレーゼは後ろからエステル・ナルヒがすたすたとついて来るのを見て顔を引き攣 らせた。
面倒な事になったとテレーゼは思った。エステル・ナルヒは物事に無頓着 だが、一旦 こだわりだすとハイエナのように昼夜ついて回る。
黄泉返った事が知れ渡ると本当に魔女嫌疑 をかけられ河底に沈められるか火炙 りで処刑されかねない。
「なぁなぁ、ナルヒついてくんぞぉ」
そんなことわかってる! 誰のせいだと思ってるのだ!? アイリに言われテレーゼはベールの下で眉根を寄せた。
「アイリ、お前足が速かったな」
「え? まあまあな」
なにがまあまあだ!? こいつ原野で馬に乗った兵を何人も倒したではないか! とテレーゼは苦笑いした。
「二手に別れ逃げるぞ。私は城内に詳しいから幾らでも逃げ切る自信はある。お前は後から走りだしあの娼婦のような女がお前について来たら走りだせ。いいな」
いいなもなにも、もう決めちゃてるじゃんとアイリは頷 いた。
「いくぞ!」
そう言い捨てた寸秒テレーゼ・マカイはスカートも摘ままずそのまま走り始めた。
背姿がやや遠くなり、アイリ・ライハラはさてそろそろ走るかと振り向いてエステル・ナルヒとの間合いを確かめようとした。
服の後ろをしっかりと煙管 女が握っていてアイリ・ライハラは青ざめた。
言い返してすぐにテレーゼ・マカイはマズッたと気づいたが、アイリ・ライハラは地ですっとこボケた。
「ち、違うぞぉ! お、俺ぇじゃない、わ、
言ったそばからテレーゼがアイリにヘッドロックをかけ首を絞め
「馬鹿かぁお前は! あの
寒気に黒のレース・ベールの下でテレーゼが眼を横に流すと真横にまるで
「素性がなんどすぇ?
「ひぃぃ!」
驚いたテレーゼがアイリから腕を放し飛び退いた。
その2人のやり取りを横目で見ていてアイリは怖ぇぇぇと思った。エステル・ナルヒはデアチ国剣竜騎士団の第6位、テレーゼ・マカイといえばその上の第3と第4位に双子姉妹で力
速さには自信のある自分が、だぁ。
アイリは今こそこいつの腕前を見てやると腰に下げた剣のハンドルに手をかけた。その瞬間だった。
ぽん!
ナルヒがさっと手を振り上げ
「うぁちちちちちぃ!」
アイリは駆けずり回って額のお
「エステル・ナルヒ殿とお見受けするが我々はデアチ
エステル・ナルヒが眼を細めてすたすたと歩きより腰を折ってテレーゼのベールの下から顔を
「分け合って顔は明かせぬ。ご無礼許せ」
テレーゼが言いきるとアイリがまくし立てた。
「やい! 馬鹿やろうがぁ! 額に2度も盛りやがってぇ!」
怒鳴るアイリにナルヒは眼を流して
「2度────? なんざんす? デアチ国が初めではないのでありんすか?」
「失礼つかまつるえすエステル・ナルヒ殿!」
テレーゼ・マカイはいきなりそう告げてアイリの右手首をつかみ引っ張って早足で逃げ始めた。アイリは引き
「なにするんだぁ!? あいつには1度顔にピンヒールを押しつけられた事もあるんだ! 1度ヒ──ヒ──言わせてやらないと気がすまねぇ!」
「本当に馬鹿ですかあなたは!? 上手く言い逃れられるものを次々にボロを出して」
振り向いてアイリに忠告したテレーゼは後ろからエステル・ナルヒがすたすたとついて来るのを見て顔を引き
面倒な事になったとテレーゼは思った。エステル・ナルヒは物事に
黄泉返った事が知れ渡ると本当に魔女
「なぁなぁ、ナルヒついてくんぞぉ」
そんなことわかってる! 誰のせいだと思ってるのだ!? アイリに言われテレーゼはベールの下で眉根を寄せた。
「アイリ、お前足が速かったな」
「え? まあまあな」
なにがまあまあだ!? こいつ原野で馬に乗った兵を何人も倒したではないか! とテレーゼは苦笑いした。
「二手に別れ逃げるぞ。私は城内に詳しいから幾らでも逃げ切る自信はある。お前は後から走りだしあの娼婦のような女がお前について来たら走りだせ。いいな」
いいなもなにも、もう決めちゃてるじゃんとアイリは
「いくぞ!」
そう言い捨てた寸秒テレーゼ・マカイはスカートも摘ままずそのまま走り始めた。
背姿がやや遠くなり、アイリ・ライハラはさてそろそろ走るかと振り向いてエステル・ナルヒとの間合いを確かめようとした。
服の後ろをしっかりと