第7話 似て非なる
文字数 2,016文字
距離が相当離れているのに舞い上がる土煙を眼にするとなると越境しつつある数が尋常なものでないとわかる。
それを見つめこちらはヘルカ・ホスティラとテレーゼ・マカイがいても高々100騎ほどの兵──とアイリ・ライハラは眼を細めた。あの気抜けする魅了 の魔法もあるしなし崩しにされてしまう。
国境 を放りだして帰るときっとファントマ城にいるイルミ・ランタサルが領地が減ったと知ると怒るだろうしとアイリは思った。
戦っても勝ち目なし。
イルブイ国は蛮族として大陸中に知れ渡るほどだから捕虜になればどんな扱いをうけるかわからない。皆 首を落とされるかもとアイリは不安になった。
じゃあどうする!?
「アイリ、お前の得意技の遠撃はどれくらい離れて1度にどれほど倒せる?」
横に来た女騎士ヘルカ・ホスティラが大将に尋 ねた。
「城ほど離れて1度に数百騎かな」
次にアイリを挟んで立つ謎の剣士ウルスラ・ヴァルティアにヘルカが尋 ねた。
「アイリが穿 った隊形をさらにウルスラが敵の大将まで切り崩せるか?」
問の意味を女剣士がすぐに理解し答えた。
「攻撃に専念できれば深く活路を開ける。だがそこに敵の大将がいるとは限らない。切り崩しながら捜すとなるともたないぞ」
僅 かに間 をおいて参謀をつとめるヘルカ・ホスティラが明るく言い捨てた。
「なーに簡単さ。陣形の厚い先に大将がいるはずだ。首を取ればなし崩しにできる」
本当にそうなのかとアイリは女騎士へ振り向いた。ヘルカは無謀だと思うことが時々あった。それをイルミ・ランタサルが参謀にしてしまった。アイリがいないときに騎士団長を勤め上げたという理由以外に騎士になっての年数から経験がものをいうのだと王妃 は付け加えたが、ノーブル国にしろデアチ国にしろヘルカより年数の長い騎士は他にもいる。
皆 で突っ込んでにっちもさっちもいかなくなるのはまずい。
嫌だとアイリ・ライハラは眉根しかめた。
アイリは国境 の土煙を見つめそう思っていてふと気づいた。
「なぁ────皆 で派手に土埃 まきあげるのはどうかな? こちも多数いると思わせて攻め入るのを思いとどまらせるってどうかな?」
視線に気づいてアイリが左右見るとヘルカとテレーゼが眼を点にして見つめていた。
その表情にアイリはやっぱり無理かと苦笑いを浮かべぼやいた。
「やっぱり駄目かぁ。引き返して援軍連れてくるしかね──なぁ」
「やってみるか──」
「いけるかもしれんぞ──」
2人に言われてアイリは逆に驚いていると女騎士ヘルカ・ホスティラが付け加えた。
「なぁに玉砕は後でもできる」
やっぱり特攻する気だったじゃん! とアイリは唇をねじ曲げヘルカを睨 みつけると突如 南東から上空にベッドが飛んできて3人は唖然となって見上げた。
大陸西部の張り出しに位置する大国──イルブイ。
デアチ国に迫る兵を有しながら、大陸の端に追いやられてきたのは小国ノーブルの知略だと王家は承知していた。
ノーブル国は数国に取り囲まれながら百数十年、蹂躙 を受けずに堪 えていた。それは現王ウルマス・ランタサルや先代の王が策略や謀略に長けており言葉巧みに他の大国を操り国境 を護らせてきたからだろう。
だが今やノーブルの王は病に伏せり攻め入る好機だと見た直後、どうやったのか知れぬが若き王女が北の軍事大国をノーブル国の属国とし国力を増した危機感からイルブイの王──トピアス・カンナス・サロコルピ4世は兵を差し向けた。
総勢6万5千────といきたいところだが、台所事情が切迫しているイルブイとしては出して3千、いや4千が限界。騎士300余り、馬も大してかき集められず殆 ど歩兵ばかりの機動力のない軍勢。
それらを承知の女大将ヒルダ・ヌルメラは歩兵に命じて槍 にくくりつけたぼろ布を振り回させ派手に土埃 を巻き上げ行軍していた。
国境 へ様子見に出した50の騎馬隊が一向に戻らず、ヒルダはこのまま進軍すべきか、用心深く国境 に止 まるか悩んでいた。
刹那 、先鋒にいた騎士の1人が馬を走らせ女大将の元に駆けてきた。
「報告! 報告でござる!」
女大将ヒルダ・ヌルメラの護衛が割れ伝令を通した。
「なにごとじゃ!?」
「国境 に近き東に大きな土埃 があります! 敵数 おおよそ5万!」
ご、ご、5万!? デアチは大軍で待ち構えていたのか!? と女大将ヒルダ・ヌルメラは顔を強ばらせ問いただした。
「見間違いではないのか!? 連中もぼろ布を振り回しておらぬのか!?」
「それが、そんな軽い土埃 どころか何かを爆発させ大地を削りながら待ち構えています!」
爆発!? 大地を削る!? 火薬は我がイルブイの至宝 。他の国が持つわけがないと女大将ヒルダ・ヌルメラは困惑した。
一方、上空に現れたベッドから裏の魔女キルシが顔を覗 かせ地上にアイリ・ライハラを見つけ、どうして小娘だったのが大人になっているのだと怒りに戸惑いが混じりながら爆炎魔法を次々に放ち地上の怨敵 を追い回し始めていた。
それを見つめこちらはヘルカ・ホスティラとテレーゼ・マカイがいても高々100騎ほどの兵──とアイリ・ライハラは眼を細めた。あの気抜けする
戦っても勝ち目なし。
イルブイ国は蛮族として大陸中に知れ渡るほどだから捕虜になればどんな扱いをうけるかわからない。
じゃあどうする!?
「アイリ、お前の得意技の遠撃はどれくらい離れて1度にどれほど倒せる?」
横に来た女騎士ヘルカ・ホスティラが大将に
「城ほど離れて1度に数百騎かな」
次にアイリを挟んで立つ謎の剣士ウルスラ・ヴァルティアにヘルカが
「アイリが
問の意味を女剣士がすぐに理解し答えた。
「攻撃に専念できれば深く活路を開ける。だがそこに敵の大将がいるとは限らない。切り崩しながら捜すとなるともたないぞ」
「なーに簡単さ。陣形の厚い先に大将がいるはずだ。首を取ればなし崩しにできる」
本当にそうなのかとアイリは女騎士へ振り向いた。ヘルカは無謀だと思うことが時々あった。それをイルミ・ランタサルが参謀にしてしまった。アイリがいないときに騎士団長を勤め上げたという理由以外に騎士になっての年数から経験がものをいうのだと
嫌だとアイリ・ライハラは眉根しかめた。
アイリは
「なぁ────
視線に気づいてアイリが左右見るとヘルカとテレーゼが眼を点にして見つめていた。
その表情にアイリはやっぱり無理かと苦笑いを浮かべぼやいた。
「やっぱり駄目かぁ。引き返して援軍連れてくるしかね──なぁ」
「やってみるか──」
「いけるかもしれんぞ──」
2人に言われてアイリは逆に驚いていると女騎士ヘルカ・ホスティラが付け加えた。
「なぁに玉砕は後でもできる」
やっぱり特攻する気だったじゃん! とアイリは唇をねじ曲げヘルカを
大陸西部の張り出しに位置する大国──イルブイ。
デアチ国に迫る兵を有しながら、大陸の端に追いやられてきたのは小国ノーブルの知略だと王家は承知していた。
ノーブル国は数国に取り囲まれながら百数十年、
だが今やノーブルの王は病に伏せり攻め入る好機だと見た直後、どうやったのか知れぬが若き王女が北の軍事大国をノーブル国の属国とし国力を増した危機感からイルブイの王──トピアス・カンナス・サロコルピ4世は兵を差し向けた。
総勢6万5千────といきたいところだが、台所事情が切迫しているイルブイとしては出して3千、いや4千が限界。騎士300余り、馬も大してかき集められず
それらを承知の女大将ヒルダ・ヌルメラは歩兵に命じて
「報告! 報告でござる!」
女大将ヒルダ・ヌルメラの護衛が割れ伝令を通した。
「なにごとじゃ!?」
「
ご、ご、5万!? デアチは大軍で待ち構えていたのか!? と女大将ヒルダ・ヌルメラは顔を強ばらせ問いただした。
「見間違いではないのか!? 連中もぼろ布を振り回しておらぬのか!?」
「それが、そんな軽い
爆発!? 大地を削る!? 火薬は我がイルブイの
一方、上空に現れたベッドから裏の魔女キルシが顔を