第7話 朱石(しゅせき)

文字数 1,765文字


 受付窓口の中で顔を上げた耳の長い女とイルミ・ランタサルが(にら)み合っている!

 と、アイリ・ライハラが思ったら少女はいきなりイルミ王女から頭を(たた)かれた。

「馬鹿ね、人を成りで判断するものじゃありません」

 言いながら王女が窓口から離れたのを見てアイリはぷぷっと笑ってしまった。

「ようこそ、ギルドへ。クエストのご依頼でしょうか? それともクエストをお探しですか?」

 エルフに尋ねられ、王女はかしこまると受付に話した。

「10人ほどのパーティーで挑めるクエストを紹介して下さいな」

 横で聞いていた少女は数がおかしいと思って指を折って数え始めた。

 騎士が6人だろ。んでもってイラ・ヤルヴァと自分で8人。

 あっ!? イルミ、自分と侍女(じじょ)ヘリヤも数に入れてる! とふとアイリは気づいた。

「それだけいれば下の階層にも行けますね」

 そう言いながらエルフが帳簿をめくり始めた。

「それで、あなた方の平均レベルは?」

 イルミ王女は腰に両手を当て視線を上に向けて考えるとスパッと答えた。


「いっぱい! です」


 とたんに受付嬢はくすくす笑うと質問を変えた。

「それではあなた方の一番強い人の眼を見せて」

 イルミ王女は窓口横に突っ立っているアイリの腕をつかむと引き寄せ窓口へ突き出した。

「こいつです」

 エルフは群青の少女の髪に驚き、まだ子どもだとさらに驚いた。そうして窓口内側に置かれた机に身を乗りだして女の子の片目を(のぞ)き込んだ。

 少女は(あお)い瞳を(のぞ)き込まれ照れくさくなり顔を赤らめた。

「ほ────う、珍しい、見ていて飽きないな」

 アイリは我慢できなくなりプイと顔を()らした。

「どうです、この子は!?」

 イルミ王女がアイリに顔を並べ受付嬢に問いかけた。

「この娘1人なら────」

「1人なら?」


「80階層ぐらい平気だろう」


 後ろで聞いていた女騎士ヘルカ・ホスティラが怒りだした。

「貴様、我々を愚弄(ぐろう)するか! 我々ノーブル国騎士団は比類なき────」

 言いながら王女と少女を押しのけヘルカが窓口に突っかかった。

「ほぅ、あんたらディルシアクト城の──無理ムリ、あんたらがいると足かせになって15階層まで行けたら奇跡だ」

 今度は女騎士を押しのけリクハルド・ラハナトス騎士団長が窓口に詰め寄った。

(おのれ)! 階層、階層と点数の様に言いおって!」



「やるのか、オッサン! 地下迷宮も知らん田舎もんが!」



 耳の長い女も受付の中で立ち上がり服の腕をめくり顔を乗りだした。

「ふん! たかだか魔物が巣くう巣窟だろ!」

 リクハルドが開き直ると、受付嬢が鼻で笑った。

「あんたら馬鹿だぁ。ラビレス迷宮は冥府まで通じてるという(うわさ)だ。100階層まで降りた奴なんて聞いた事もない。魔物を倒すと死体が霧散して赤い魔石が残る──朱石(しゅせき)と言うんだが、下に行くほどその魔石が────」

 リクハルドとヘルカが眉根をしかめ生唾を呑み込んだ。


「大きくなる」


「あんたらが持ち帰る事ができるのはせいぜいペンダントに使える指先ほどの石だろう」


「きっ、貴様、利いた風な事を! ならお前はどれほどのものを持ち帰ったのだ!?」

 女騎士ヘルカが騎士団長を押しのけ怒鳴ると、耳の長い女はヘルカへ人さし指を立てて見せ、部屋の奥へ行くと(こぶし)3個分ほどの紫のベルベットの袋をつかんで戻るとそれを机の上にゴンと置いた。

「これが────」

 受付嬢が袋を紐解(ひもと)き引っ張ると赤子の頭ほどもある真っ赤に光る珠玉(しゅぎょく)が現れた。

「67階層にいた奴から抜いたものだ。私が1人で取ってきた奴隷(どれい)300人分の値打ちものだ!」


 窓口で驚きかたまる騎士らの後ろでアイリ・ライハラは眼を細めていた。



 知ってる赤い石だった。



 ディルシアクト城で暴れまわった石像の怪物や森にいた大熊を倒した跡に現れた石。





 だがそれらは子どもの(こぶし)半分もの大きさもなかった。





ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み