第9話 芸人
文字数 2,226文字
落ちてゆく女騎士ヘルカ・ホスティラ越しに急激に石畳が視界に広がってゆく。
3人とも硬い地面に叩 きつけられ命砕ける。
そんなものを────受け入れてたまるか!
「トゥエンティーナイン・ステップ!」
アイリ・ライハラは叫んだ直後主塔 の末広がりの外壁を駆け始め踊った群青の髪が一気に地上へと伸び女騎士と並んだ。
死ぬ瞬間までも眼を逸 らさぬ騎士の矜持 で見つめ続けていたヘルカ・ホスティラは一瞬にして通り過ぎると思った窓の上の合わせ石の隙間 に光ったものが突き立つのを見た刹那 、迫っていた地面の石畳が寸秒にして暗転し死んだのだと思った。
衝撃に見えるのは冥府の門かとよく確かめるとただの逆さまの窓を内側から眺めていた。
頑丈な扉に背中をぶつけ肩で身体を支え逆さまになっていた。
何だ!? 何がどうなってるの!?
ヘルカがそう意識したのと同時に窓外に誰かが激しくぶつかりぶら下がり揺れ動いた。
「!ぇてて痛 」
聞き慣れた声に逆さまの女騎士が強引に首を捻 り顔を横に向けると椅子を砕いたアイリ・ライハラが真横の袖壁に逆さまになって呻 いていた。
「?!だん────たしを何、な──公貴──、き」
少女が上にある足を床に下ろした。
「あんたの襟首 つかんで剣 を窓の上に突き刺したんだよ。痛 ──ぇ」
そのアイリの方へ女騎士は足を落とし甲冑 が床にぶつかる激しい音を立て横倒れになって床に座り込み腰をさすっている騎士団長 のした事を考え込んだ。
確かにアイリは素早い。百歩ゆずり落ちるものに追いつける脚力があるとしよう。
だが下へ向かい落ちているものが、どうして窓から部屋に入れるんだ!?
一瞬で石畳が真っ暗になった。
ヘルカは窓外にぶら下がり上下に揺れている男を見つめた。主塔 最上階の張り出しにいた男の様だった。
なら3人もろとも落ちたんだ。
剣 に引っかかり揺れる男を見つめていて女騎士はふと気づいた。
アイリは長剣 を横向に刺したんだ。そうしてしなった剣 の勢いで我を部屋へと引き摺 り込んでくれた。
「助けてくれ──」
ぶら下がっている男が誰にともなく助けを求めていた。ヘルカは立ち上がり窓へ行くと男の外套 を片手でつかみ剣 ごと部屋へ引き摺 り込んだ。
「助かった。ありがとう。私は剣竜騎士団のハンネ・スオメラ──悪戯 が過ぎたよう────!」
床に座り込んだ男はため息をついて礼を述べながら部屋を見回し青ざめていた顔を引き攣 らせた。
「ああ、なんてことだ! ここは幽閉 部屋だ!」
アイリが首に手を当てて関節を鳴らしながらどうするか言い返した。
「何部屋でもいいじゃん。部屋から出りゃ」
少女の言い分にデアチ国の騎士が困惑げに告げた。
「扉の廊下側には頑丈な閂 と鍵が掛けられているし、ここには警備兵もいないんだぞ」
女騎士ヘルカ・ホスティラが右腕を振り回し扉に歩きながら言い捨てた。
「高々、閂 と鍵だろ。そんなもの──」
ヘルカは扉の馬半頭分手前で左肩を扉に向け凄まじい勢いで突進した。
大きな音が響き扉の四隅から埃 が舞い上がった。
「うぅ、本当に頑丈 だ」
そう言いながら、女騎士が振り返ると少女が窓から身を乗りだして下を眺めていた。
「アイリ、やるんなら貴公1人でやれ。我は嫌だからな」
アイリが上半身を引っ込めて苦笑いしながら言い返した。
「まだ何にも言ってないじゃん」
「アイリさんとやら、私も賛成しかねる」
ハンネ・スオメラにも断られ少女は拗 ねた。
「ちょっと飛び下りようかなぁと思っただけじゃん」
「ちょっと!? この幽閉部屋から地上まで30馬身の高さがあるんだぞ。それをちょっと《・・・・》──」
口がへの字に曲げて聞いていた少女が言い返した。
「じゃあ、扉に3人でぶつかってみるとか」
ヘルカが聞いていて頭 振った。
「貴公、馬鹿か。どう見ても我2人分の幅しかないぞ。貴公が扉との間に挟 まれるなら賛成するが」
アイリが眉根をしかめ取り下げた。
「やめとこ」
そう言って少女は扉まで行き蹴り飛ばした。微 かに埃 が舞い上がっただけで開く気配がない。
ひらめいてアイリは急に振り返ると窓へ走った。
そうして窓外へ上半身を突き出し防御城塔の最上階へ手を振って大声を出し始めた。
「お────い! リクハルド! お────い!」
すぐに向かいの塔から元騎士団長が顔を覗 かせ手を振り返しだした。
「扉を開けてぇぇ!」
リクハルドが大らかに手を振り返す。
「扉を開けてってばぁ!」
おっさんが手を振り返す。
「開けてって言ってんだよ!」
元騎士団長がまだ手を振っている。
「馬鹿かぁあいつ! 察しろよぉ!」
少女がぶち切れだしたのでヘルカ・ホスティラが肩に手をかけて諭した。
「アイリ、貴公こそ察してやれ。リクハルドはいい歳だ。多少ボケることもある。どれ代わろう」
そう言って女騎士が窓辺に立ちアイリはどうせ同じだと高を括 り女騎士が困り果てるのを笑ってやろうと思った。
「おらぁ! リクハルド! てめぇカカアが居ながらに何度も色目使いやがってカカアに全部バラスぞ!!!」
隣の塔を指さしながら満面の笑みでヘルカ・ホスティラが振り向き得意げに指摘した。
「見ろアイリ、一発だろ! あいつ血相変えて引っ込んだぞ。今頃、階段を転がり下りてるぞ!」
こいつ騎士道を語りながら同じ口で女を武器にしやがる!
顎 を落とし眼を丸くして見つめるアイリ・ライハラの腕をデアチ国第7騎士ハンネ・スオメラがつついて少女が振り向くと問いかけられた。
「あんたら大道芸人か?」
3人とも硬い地面に
そんなものを────受け入れてたまるか!
「トゥエンティーナイン・ステップ!」
アイリ・ライハラは叫んだ直後
死ぬ瞬間までも眼を
衝撃に見えるのは冥府の門かとよく確かめるとただの逆さまの窓を内側から眺めていた。
頑丈な扉に背中をぶつけ肩で身体を支え逆さまになっていた。
何だ!? 何がどうなってるの!?
ヘルカがそう意識したのと同時に窓外に誰かが激しくぶつかりぶら下がり揺れ動いた。
「!ぇてて
聞き慣れた声に逆さまの女騎士が強引に首を
「?!だん────たしを何、な──公貴──、き」
少女が上にある足を床に下ろした。
「あんたの
そのアイリの方へ女騎士は足を落とし
確かにアイリは素早い。百歩ゆずり落ちるものに追いつける脚力があるとしよう。
だが下へ向かい落ちているものが、どうして窓から部屋に入れるんだ!?
一瞬で石畳が真っ暗になった。
ヘルカは窓外にぶら下がり上下に揺れている男を見つめた。
なら3人もろとも落ちたんだ。
アイリは
「助けてくれ──」
ぶら下がっている男が誰にともなく助けを求めていた。ヘルカは立ち上がり窓へ行くと男の
「助かった。ありがとう。私は剣竜騎士団のハンネ・スオメラ──
床に座り込んだ男はため息をついて礼を述べながら部屋を見回し青ざめていた顔を引き
「ああ、なんてことだ! ここは
アイリが首に手を当てて関節を鳴らしながらどうするか言い返した。
「何部屋でもいいじゃん。部屋から出りゃ」
少女の言い分にデアチ国の騎士が困惑げに告げた。
「扉の廊下側には頑丈な
女騎士ヘルカ・ホスティラが右腕を振り回し扉に歩きながら言い捨てた。
「高々、
ヘルカは扉の馬半頭分手前で左肩を扉に向け凄まじい勢いで突進した。
大きな音が響き扉の四隅から
「うぅ、本当に
そう言いながら、女騎士が振り返ると少女が窓から身を乗りだして下を眺めていた。
「アイリ、やるんなら貴公1人でやれ。我は嫌だからな」
アイリが上半身を引っ込めて苦笑いしながら言い返した。
「まだ何にも言ってないじゃん」
「アイリさんとやら、私も賛成しかねる」
ハンネ・スオメラにも断られ少女は
「ちょっと飛び下りようかなぁと思っただけじゃん」
「ちょっと!? この幽閉部屋から地上まで30馬身の高さがあるんだぞ。それをちょっと《・・・・》──」
口がへの字に曲げて聞いていた少女が言い返した。
「じゃあ、扉に3人でぶつかってみるとか」
ヘルカが聞いていて
「貴公、馬鹿か。どう見ても我2人分の幅しかないぞ。貴公が扉との間に
アイリが眉根をしかめ取り下げた。
「やめとこ」
そう言って少女は扉まで行き蹴り飛ばした。
ひらめいてアイリは急に振り返ると窓へ走った。
そうして窓外へ上半身を突き出し防御城塔の最上階へ手を振って大声を出し始めた。
「お────い! リクハルド! お────い!」
すぐに向かいの塔から元騎士団長が顔を
「扉を開けてぇぇ!」
リクハルドが大らかに手を振り返す。
「扉を開けてってばぁ!」
おっさんが手を振り返す。
「開けてって言ってんだよ!」
元騎士団長がまだ手を振っている。
「馬鹿かぁあいつ! 察しろよぉ!」
少女がぶち切れだしたのでヘルカ・ホスティラが肩に手をかけて諭した。
「アイリ、貴公こそ察してやれ。リクハルドはいい歳だ。多少ボケることもある。どれ代わろう」
そう言って女騎士が窓辺に立ちアイリはどうせ同じだと高を
「おらぁ! リクハルド! てめぇカカアが居ながらに何度も色目使いやがってカカアに全部バラスぞ!!!」
隣の塔を指さしながら満面の笑みでヘルカ・ホスティラが振り向き得意げに指摘した。
「見ろアイリ、一発だろ! あいつ血相変えて引っ込んだぞ。今頃、階段を転がり下りてるぞ!」
こいつ騎士道を語りながら同じ口で女を武器にしやがる!
「あんたら大道芸人か?」