第25話 愛情

文字数 1,598文字

 ()きるところ、情を少しでも感じたのが間違いだったのかとアイリ・ライハラは思った。

 孫を思う魔女ミルヤミ・キルシの考えや気持ちが信じられなくなった。


 (すき)を見せるとこの有り様だ。


 凄まじい群青の耀(かがや)(あふ)れさせたアイリは稲妻のような長剣(ロングソード)を下に振り回し、流れ押し寄せる魔の臓腑(ぞうふ)を両断した。

 ()った境から臓腑(ぞうふ)は枯れ果て(ほのお)が広がった。

 血管か筋かわからぬもの多数にぶら下がった魔女キルシは形振(なりふ)りかまわなかった。左右の腕を交互に前後に振ると臓腑(ぞうふ)の内壁から多数の触手が飛び出しアイリに向かった。

 だがどれもすぐに枯れ(ほのお)上げ燃え堕ちる。

 その真に悪辣(あくらつ)な魔女を相手する前に群青の少女は(ソード)を横へ大振りして1回転すると、鎌鼬(かまいたち)のような旋風に外にいるアレクサンテリ・パイトニサムは派手に背後へ飛ばされた。

 ふたたびミルヤミ・キルシへと向いたアイリは悪女を(にら)み据え長剣(ロングソード)を両手で正面に構え、刃口(きっさき)振り上げ(ブレード)を顔の右横へ持ってきて言い捨てた。


「終わりにしようじゃないか────」


 その寸秒、魔女ミルヤミ・キルシは異様な面妖になると、凄まじい歯ぎしりをして身の毛もよだつ音を放った。

 孫への暴力を(いか)ったのか、(おのれ)の思い通りにならぬ状況に苛立ったのか、アイリにとってどちらでもよかった。



「言っておくが、俺強いぞ!!!」



 雷光の帯と化した長剣(ロングソード)を爆速で振り回し狭い臓腑(ぞうふ)(ほら)を稲妻が駆け回り一瞬で裏の魔女(つる)すすべての紐帯(ちゅうたい)(たた)()った。

 紅い肉の床に(くず)れ落ちたミルヤミ・キルシは震える片腕着いて身を起こそうとしながら宿敵へ(わめ)いた。

「く、糞アイリ・ライハラ────この程度のことで(われ)を殺せるなど──思い上がるな──小便臭い小娘がぁ────」

 上半身すら思い通りに起こせずその口上かとアイリ・ライハラは長剣(ロングソード)刃口(きっさき)を裏の魔女キルシの額寸前に振り止め言い切った。

討伐(とうばつ)隊として来たんだ──殺そうが、捕縛(ほばく)しようが────」



 (ソード)刃口(ポイント)を魔女の額に押しつけその鋭利な先端から黒い雫が膨れ鼻筋の横に垂れ始めた。



「俺の気持ち次第だろうがぁ!!!」



 恐れ入るかと少女は思った。だが額を()られながら振り上げた魔女の黒い瞳が三白眼でアイリ・ライハラを見上げ(にら)みつけた。

「この糞騎士──小賢(こざか)しいガキ────これから最大の呪いをお前にかける詠唱(えいしょう)を────」

 言い続けている魔女の左頬(ひだりほお)をアイリは長剣(ロングソード)(フラー)(:(ブレード)の平たい部分の中央の溝)で殴りつけミルヤミ・キルシは横へ跳ばされ臓腑(ぞうふ)の壁に右頬(みぎほお)から激突した。

「な、なん──の──これしきィ────貴様を────きさまを────────」

 アイリ・ライハラは(あお)い瞳の流し眼で裏の魔女ミルヤミ・キルシを冷ややかに見下ろし思った。

 こいつを駆り立てる底力はなんだ!?

 (うら)みとか悪とは別もののような気がするのはなぜだ!?

 臓腑(ぞうふ)(ほら)の外から聞こえた怒鳴り声に少女は気が()れた。

「やいアイリ・ライハラ! 俺と勝負しろ! 祖母(おおば)さまと関わるな!!」








 一瞬、アーウェルサ・パイトニサム()の魔女キルシの瞳が(うる)んで見え疑念が(ささや)きとなってアイリの口をついた。



「キルシ────お前まさか──本当に────────」



 寸秒、アイリはテレーゼ・マカイを殺され逆上したテレーザ・マカイの顔を思いだした。

 不意に少女は肉の床に片腕着いて半身起こした魔女へ駆け寄り(そば)片膝(かたひざ)着いて(ささや)いた。

「絶命する振りをしろ────孫は見逃してやる」

 (おどろ)き顔のミルヤミ・キルシは言われたことの意味を即座に理解し小さく(うなづ)くとアイリ・ライハラは大声で宣言した。

(とど)めだ魔女め!!!」



「ぎゃああああああ!!!」



 キルシの(しわが)れた絶命が収まると肉壁の裂け目から(ソード)落とす音が聞こえアイリ・ライハラは横目で外と(ほら)の内に気を配った。

 もしアレクサンテリ・パイトニサムが(あきら)め立ち去らなければ、2人の首を()ねることになる。


 眼の前でうなだれる稀代の魔女を見つめながらアイリ・ライハラはそうならぬことを祈った。





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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