第3話 観念せいと言っただろ
文字数 2,434文字
俺たちを追い剥 ぎなどと呼ぶな。
山賊でも夜盗でもないぞ。
「──どうしましょう?」
ほとんどの野盗は目立ちにくく捕まりにくい山地を転々としている。
構成員は貧民窟 出のものが多いが元騎士や兵士といった変わったものもいる。
「──親分 、どうしましょう?」
時には依頼された暗殺や軍の野営地襲撃も行える悪漢の集団だ。
バンデイットフレアミンという組合 をも────運営する。
「──どうするんですかぁ、親分 !?」
能力に応じた報酬制も取り入れ────。
「親分 、カモでっせぇ!」
ああ、うるせぇ! 物思いに耽 る事もできねぇのかぁ!
「なんだぁ!? くだらねぇ事ならはり倒すぞぁ!」
岩陰で手下の1人が腕振り向けて丘を越えかかる2頭の馬を指し示した。
おぉおお!? 見たところ護衛もいない旅人じゃねぇか。先頭の馬にはガキ2人に後続の馬には貴族か司祭ぽい高そうな服を着た奴がいる。
どうするんですかぁだってぇ!?
襲うに決まってんだろぅ!
「野郎ども! あいつらをやっちまうぞ!」
盗賊の頭 は真っ先に岩陰から自分の足で駆けだし、手下5人も追いかけ走り剣 を引き抜いた。
ゆっくりと歩む馬に追いつくのは造作もない──はずだが、ここ10日山菜しか口に入れてない男らは百歩も行かぬうちに息を切らし始めた。
「くそう、馬さえあれば! ぜえぜえはぁはぁ──食いもんさえ食ってた──らぁ」
6人のぼやきはざっとこんなところ。
だが悪人らにも幸運はたまにある。ごくたまに、奇跡のように。
目をつけた旅人の先頭の子どもらが馬から落ちて、もう1人の馬に乗った大人も鞍 から下りた。
「見ろぉ! へえへえへえへえ──棚からぼた餅 だぞ! ぜえぜえぜえぜえ」
頭 のヤンネ・ヴェンバリは言ったものの何か意味違うと思いながら唾 飛ばし喘 ぎながら止まっている馬に追いつこうと重い足を繰り出し続け目眩 を感じ始めた。
家、10軒ほどにまで後ろから近づくと旅人らの会話が聞こえてきた。
「────ヘッレヴィ! イルミはキルシだぁ! こいつ呪文を──」
もつれ合い落馬した2人が心配になりヘッレヴィ・キュトラは馬を下り転がってつかみ合うアイリ・ライハラと宿無しに駆け寄った。彼女が傍 に行くと身形 粗末な子はアイリに押さえ込まれ泣き始めていた。
「アイリ、なんてことをするんです。そんな子が名の知れ渡った魔女であるわけが──」
女異端審問司祭は跨 がる少女の襟首 をつかみぐいと引き剥 がした。
「いいや、こいつたった今、呪文を唱えていたんだぞ」
「聞き間違いですよ。見てごらんなさいこんなに泣いてるじゃないですか」
草っ原に仰向けで顔に両手あて泣く女の子を座らせなだめにかかるヘッレヴィにアイリは詰め寄った。
アイリがヘッレヴィの肩越しに覗 き込むと女の子は本当に目頭 に指を当て涙をポロポロと流している。
疑り深くその子を見ていたアイリはまったく他のもの達が近寄って来ていたのを気づかなかった。
「お前ら、大人しくしろ! でないと斬り殺してから持ち物を奪うぞ!」
少女らしい子どもと大人が顔を向けるといかにもといった出 で立ちの男らが左右に広がり刃こぼれした剣 を構え上げていた。
脅した頭 のヤンネ・ヴェンバリは振り向いたのが2人とも女で、地面に座り込んで泣いているのも子どもで抵抗しそうにないことに喜んだ────女だぁ! 女ばかりだぁ! 絶好の獲物じゃねぇかぁ!
大人の女は身分高そうな大層な衣類を身につけ綺麗な顔立ちで、フード被った子も可愛い顔をしている。これは奴隷商 に高く売れるぞと盗賊の頭 は喜びに顔がにやけそうになるのをこらえた。
馬から落ちた衝撃にまた記憶が飛んでしまいわけがわからなくなった。頭ががんがんに痛んだ。
あぁぁ、そうだ──頭の怪我のせいでわけがわからなくなる。
遺体捨て場で適当な布を剥 ぎ取り全身に巻いていた血だらけの包帯を捨てそこを抜け出た。
自分の名も思いだせず街の通りを彷徨 い歩くと匂いのせいか通り歩く人々が顔をしかめ遠ざかる。
どこに行けば家に帰れるのか。誰に尋ねれば家族に会えるのか全然思い出さなかった。
屋台の店先に並べられたパンに目が止まる。
お腹が空 いていた。
いつから食べてないのかも思いだせない。
お腹がすき過ぎて店裏に回り込んでごみ箱をあさっていると気づいた店主に追い払われた。
なんのかんのと家々を回り行くところも帰る場所もわからず路地裏で寝起きしてると数日で行く場所で追い払われるようになり街を出た。
歩き続けて草の夜露で渇 きを凌 ぎ、小さな生き物を捉え貪 って過ごした。
それでも飢えに朦朧 とさ迷っていて馬2頭に乗った旅人にぶつかりそうになった。
名前つけられ馬に乗せられる────イルミ!
言葉に不快になり恨 みのように思いつくままの言葉を連ねると名づけた少女に揺さぶられて馬の上から落ちてしまった。
乗りかかられ不安から逃れようとすらすらと出てくる言葉を連ねるとつかみかかっている少女が叫び逃げだした。
なんで逃げるの?
何を慌 ててるの?
地面に座り込んでいる女の子に不釣り合いな口上が聞こえ、盗賊頭 のヤンネ・ヴェンバリは脅した直後何かがおかしいと馬の傍 らで剣 の刃口 を下げてしまった。
「──終焉 の王国の地に隠匿 せし叛逆 の鉄槌 。黒き無暁 その名をデッドナショウ・アヴェ・ナギッサ! 我 召還せり────」
いきなりフードを被った子どもが大人の女を抱きかかえ盗賊らの方へ走って来るなり振り向きもせず通り過ぎた。
脅した相手2人に逃げられ何がどうなってるんだと唖然とした盗賊の頭 が顔を振り戻すと地面に座り込んでいる女の子の瞳が見えた。
その双眼が赤く耀 き始めその頭上に黒い渦が生まれ空気が吸い込まれだした。
ヤバい! あれは絶対にヤバい奴だ。起きようとしてることは命に関わる────盗賊のヤンネ・ヴェンバリがその黒髪の小娘に背を向けて手下らに逃げろと口を開いた寸秒、馬もろとも足を掬 われ子分共々爆轟に飲み込まれてしまった。
山賊でも夜盗でもないぞ。
「──どうしましょう?」
ほとんどの野盗は目立ちにくく捕まりにくい山地を転々としている。
構成員は
「──
時には依頼された暗殺や軍の野営地襲撃も行える悪漢の集団だ。
バンデイットフレアミンという
「──どうするんですかぁ、
能力に応じた報酬制も取り入れ────。
「
ああ、うるせぇ! 物思いに
「なんだぁ!? くだらねぇ事ならはり倒すぞぁ!」
岩陰で手下の1人が腕振り向けて丘を越えかかる2頭の馬を指し示した。
おぉおお!? 見たところ護衛もいない旅人じゃねぇか。先頭の馬にはガキ2人に後続の馬には貴族か司祭ぽい高そうな服を着た奴がいる。
どうするんですかぁだってぇ!?
襲うに決まってんだろぅ!
「野郎ども! あいつらをやっちまうぞ!」
盗賊の
ゆっくりと歩む馬に追いつくのは造作もない──はずだが、ここ10日山菜しか口に入れてない男らは百歩も行かぬうちに息を切らし始めた。
「くそう、馬さえあれば! ぜえぜえはぁはぁ──食いもんさえ食ってた──らぁ」
6人のぼやきはざっとこんなところ。
だが悪人らにも幸運はたまにある。ごくたまに、奇跡のように。
目をつけた旅人の先頭の子どもらが馬から落ちて、もう1人の馬に乗った大人も
「見ろぉ! へえへえへえへえ──棚からぼた
家、10軒ほどにまで後ろから近づくと旅人らの会話が聞こえてきた。
「────ヘッレヴィ! イルミはキルシだぁ! こいつ呪文を──」
もつれ合い落馬した2人が心配になりヘッレヴィ・キュトラは馬を下り転がってつかみ合うアイリ・ライハラと宿無しに駆け寄った。彼女が
「アイリ、なんてことをするんです。そんな子が名の知れ渡った魔女であるわけが──」
女異端審問司祭は
「いいや、こいつたった今、呪文を唱えていたんだぞ」
「聞き間違いですよ。見てごらんなさいこんなに泣いてるじゃないですか」
草っ原に仰向けで顔に両手あて泣く女の子を座らせなだめにかかるヘッレヴィにアイリは詰め寄った。
アイリがヘッレヴィの肩越しに
疑り深くその子を見ていたアイリはまったく他のもの達が近寄って来ていたのを気づかなかった。
「お前ら、大人しくしろ! でないと斬り殺してから持ち物を奪うぞ!」
少女らしい子どもと大人が顔を向けるといかにもといった
脅した
大人の女は身分高そうな大層な衣類を身につけ綺麗な顔立ちで、フード被った子も可愛い顔をしている。これは
馬から落ちた衝撃にまた記憶が飛んでしまいわけがわからなくなった。頭ががんがんに痛んだ。
あぁぁ、そうだ──頭の怪我のせいでわけがわからなくなる。
遺体捨て場で適当な布を
自分の名も思いだせず街の通りを
どこに行けば家に帰れるのか。誰に尋ねれば家族に会えるのか全然思い出さなかった。
屋台の店先に並べられたパンに目が止まる。
お腹が
いつから食べてないのかも思いだせない。
お腹がすき過ぎて店裏に回り込んでごみ箱をあさっていると気づいた店主に追い払われた。
なんのかんのと家々を回り行くところも帰る場所もわからず路地裏で寝起きしてると数日で行く場所で追い払われるようになり街を出た。
歩き続けて草の夜露で
それでも飢えに
名前つけられ馬に乗せられる────イルミ!
言葉に不快になり
乗りかかられ不安から逃れようとすらすらと出てくる言葉を連ねるとつかみかかっている少女が叫び逃げだした。
なんで逃げるの?
何を
地面に座り込んでいる女の子に不釣り合いな口上が聞こえ、盗賊
「──
いきなりフードを被った子どもが大人の女を抱きかかえ盗賊らの方へ走って来るなり振り向きもせず通り過ぎた。
脅した相手2人に逃げられ何がどうなってるんだと唖然とした盗賊の
その双眼が赤く
ヤバい! あれは絶対にヤバい奴だ。起きようとしてることは命に関わる────盗賊のヤンネ・ヴェンバリがその黒髪の小娘に背を向けて手下らに逃げろと口を開いた寸秒、馬もろとも足を