第10話 疑惑

文字数 1,718文字

 崩れ落ちてゆく凍結の髑髏(しゃれこうべ)から走りだして外に出るとイルミ・ランタサル達が両腕広げ出迎えた。

「ミエリッキ・キルシは!? 銀眼の魔女はどうなりました!?」

 矢も立ってもいられないとばかりにイルミ王妃(おうひ)が問いかけた。

「ああ、天使に手伝って倒した。取り()いてた黒い何かも燃やしたよ」

 肩で息しながらアイリが報告すると王妃(おうひ)がさらに問うた。

「アイリ、天使に会ったのですか? イラ・ヤルヴァのような? それとももっと違った?」

「うん、会ったよ。助けてくれた。テレーゼが2柱とも解放したんだ。礼を言われた」

 言えることはそれぐらいだとアイリは思ったがイルミは例の(ごと)く大げさな話を聞きたがる。

 落ちつきなく辺りを見回すテレーゼ・マカイが何を探してるかアイリはすぐに気づき声をかけた。

「テレーザか? 心配するなデアチ国で待ってる()さ」

「アイリ、あなた里に飛ばされないのですか?」

「そんなことあるかよ。天使は乱暴じゃないさ。それよりお前の姉さんも素性をさらせないだろ」

 その理由をテレーゼも承知していた。身分も暮らしも変えてさえテレーゼは今の暮らしに不満はなかった。アイリ・ライハラは十分に気づかいしてくれて隠遁(いんとん)を支えてくれている。

「それよりもイルミ、冥府(めいふ)から連れ帰った銀眼の魔女らどうしよう? あの悪い方を倒したら1つになるのかと思ったけど7人のままだし」

「いいんですよ。あの娘らはファントマ城に連れ帰り侍女(じじょ)の仕事につけます。それより銀眼の魔女は何が目的だったのでしょう?」

 アイリは眉根寄せてイルミに耳打ちした。

「大陸を支配して信仰を廃らせ神の力を弱めるなんていってたよ」

「サタンと同じですね」

「わかねぇ。それよりイルミ、デアチに帰国したらしばらくお(ひま)もらうよ。田舎に帰りたい」

「私も行きましょう」

 アイリは途端に王妃(おうひ)(ほお)へ猫パンチを放った。

「ふぎゃ、どうしてですか!? 私も行きたい」

「お前、もう一発猫パンチ食らいたいか? お暇だよ。お前としばらく離れる」

「ノッチは連れて行くのですね」

 アイリは指を丸め猫パンチの準備をし王妃(おうひ)に告げた。

「当たり前だろ。旦那(だんな)だよ」

 イルミが疑り深そうな面もちでアイリを見つめているので少女は王妃(おうひ)の気をそらした。

「ヘルカ・ホスティラの旦那(だんな)探してくるよ」

 耳にしたイルミ・ランタサルは(おどろ)き顔でアイリに顔を寄せた。

「本気ですか、あの男嫌いに?」

「う────ん、何人か心当たりある」

 王妃(おうひ)が思案顔になったのでアイリは釘をさした。

「くるんくるん、お前、自分の旦那(だんな)にしようとか考えてるのか?」

 アイリはいきなり王妃(おうひ)に両肩つかまれ激しく揺さぶられた。

「なんでわたしが男あさりを!」


「あんたら2艇目で帰るか?」


 いきなり河守(かわもり)のカローンに聞かれアイリとイルミは(かぶり)振った。





 海路、本土に渡るのも一苦労だったが、陸路の足となる馬を確保するのが大変だった。村々には馬はおらずイルミらはひたすら歩き続けた。

 4つ目の村に3頭の馬をみつけ借り受け荷馬車で移動することになった。荷馬車とはいえ13人は乗り切れず馬に簡易の布をかけ1頭にアイリとノッチが乗り残りが操馬台(コーチ)に3人が、残りが荷台に乗って出発した。

 アイリが馬を操馬台(コーチ)に寄せイルミに(ささや)いた。

「くるんくるん、その()られた盛り髪短くしろよ。酒乱のおばさんみたいだぞ」

「駄目です。私の顔で城下都市の門をくぐれなくなります」

「大丈夫だよ。俺とヘルカがいるだけで(みんな)入れるようにするから────」

 イルミは髪を触ってボヤいた。

侍女(じじょ)のヘリヤを連れてくるんだったわ」

討伐(とうばつ)と知ってて侍女(じじょ)連れてくるかな!? あんた銀眼の魔女より頭いってるぞ」

 だがイルミは乱れた髪をいぢりまわしながらアイリに言い返した。

「その人を小馬鹿にする言い方やめなさい。侍女(じじょ)(わたくし)が足を運ぶ場所にはどこにでも付き従わなくてはならないのよ」

 アイリはイルミの侍女(じじょ)の何人もを知っていたが扱いのひどさをボヤくのを聞いたことはなかった。むしろイルミ・ランタサルはまともだと思われるものに誰にでも好かれている。


「アイリ────銀眼の魔女とこうもひどい争いになるとは聞いてなかったの」



 それを聞いたアイリ・ライハラは思わず手綱(たづな)を引いてしまい馬を止めた。





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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