第13話 三択
文字数 2,033文字
頭上の空を連峰の方から浸食してくる暗い雲を眼にしてアイリ・ライハラは焦りだした。
毒を盛られたのは自分だけでなくテレーゼ・マカイとイルブイの女大将ヒルダ・ヌルメラもだった。討伐隊 の主力を削いでおいて部隊を壊滅させるつもりだ。
誰が!? なんて酔狂な思いをアイリは抱かなかった。
アーウェルサ・パイトニサム裏 の魔女のキルシに決まっている!
飯屋の親父とグルだったのかとアイリは奥歯をぎりぎりいわせた。
痺 れは指先どころか腕、脚全体におよび息をする胸すら肉が動かし辛い。これじゃあ転がったマグロだ。魔女にいいようにされちまう。
「う、ウルスラ────お前、げ、解毒薬、持って──ないか?」
「持ってたらもう飲んでる」
身も蓋もない言い分だとアイリは苦笑いした。それなら蛮族の総大将は、とアイリは尋ねた。
「ひ、ヒルダ──解毒薬を────持ってないか」
「虫下しなら持ってる」
そんなもん何に持ち歩いているんだとアイリは眉根しかめた。それなら討伐隊 の他の誰かが持ってるかもしれないとアイリは痺 れる唇を懸命に動かした。
「お、お、おい! 誰か、解毒薬、も、持ってないか」
すぐに3人がもたれている木のところへ歳嵩 の騎士オイヴァ・ティッカネンがやってきた。
「いかがなされた騎士団長どの?」
「し、痺 れ薬を、盛られた。解毒薬を誰か────」
アイリが言ってる最中にオイヴァはアイリから顔を上げ連峰の方を凝視した。
アイリは何だと視線だけを横に振り上げ歳嵩 の騎士が注意向ける何かを見ようとした。
遠く空から何かが飛んで来てる。止まっているように見えたそれは徐々に大きさを増していた。
ああ、まずい。まずい事態だぞ!
アイリは痺 れまくる脚に力込め立ち上がろうとして横に倒れた。これじゃあ剣 抜くどころの話ではない。魔女キルシにフルボッコにされてしまう。それだけで済まないだろう。あんなことや、そんなことをするに決まっている。アイリ・ライハラは眼を丸くして赤面した。いや、そんなことはちょっとやらないかもしれないと思い直す。
「何をされるんだ?」
隣で木の幹に身を預け身動きしないテレーゼ・マカイがぼそりと尋ねた。
「お、俺の考えを、よ、読んだなぁ!」
「いや、貴君が考えてることをぼそぼそ言うんでちょっと気になった。ところでアイリ、飛んでくるのは岩じゃないか?」
い、岩? 魔女の間違いじゃないかとアイリは横たわったまま空を凝視した。
確かに石っころに見える。岩じゃなくあれは石っころだとアイリが言い掛けている寸秒にその石っころがぐぐっと大きさを主張した。
え、!?
アイリの額に冷や汗がどっと吹き出す。
石っころがまだ遠くにあるのがわかった。遠くて鶉 の卵ほどの石っころ。
石っころじゃねぇ!!! ありゃあ岩石だぁ!!!
「おい! オイヴァ! 逃げろ」
歳嵩 の騎士に命じてアイリはしまったと思った。連れて 逃げろを言い誤ってしまった。
すくっと立ち上がった歳嵩 の騎士はさっと3人に背を向け駆けだした。その頃には他の騎士らも大騒ぎし始めていた。その騒ぎにオイヴァを呼び戻そうにもアイリは大声が出せないでいた。
万事休す、だとアイリは眼を細め冷ややかな表情になった。
直後、眼の前に見知らぬ素足が立っていることに気づきアイリは視線を振り上げると相手も腰を折りアイリの顔を覗き込んだ。
「おひさぁ────」
頭上に光る環を浮かばせた銀翼広げる純白のドレープ姿のイラ・ヤルヴァがそう挨拶し微笑んだ。
「イラぁ! 助けに来てくれたんだな! さあテレーゼとヒルダと俺を」
イラ・ヤルヴァはアイリの鼻面の前で人さし指を立てた。それをアイリは眼を寄せて見つめ問うた。
「な、なんだぁ!?」
「アイリ────三択です」
「三択だぁ!? そんなことしてる場合かぁ! 大きな岩が飛んで来るんだぞ!」
「岩ぁ?」
イラ・ヤルヴァは両膝 に手をついて顔を振り上げた。
「アイリ、あなたにはあれが岩に見えるんですね。まあ確かに岩ですけれども」
岩じゃねぇのか! じゃあ何だぁ!?
「あれは裏の魔女キルシが放った連邦の山の上半分」
上半分? 半分。全部じゃないのね。
「それって山じゃんかぁ!!! 早くここから助け出せ!!!」
喚 き始めたアイリの唇にイラ・ヤルヴァは人さし指を当て自分の唇をすぼめた。
「うるさいですよアイリ。三択の答えは?」
答えもなにも内容を聞いていなかった。
どうせイラ・ヤルヴァのことだ。1番が見て楽しむ。2番が離れて見て楽しむ。3番が見捨ててよそに行くとかに決まってるとアイリ・ライハラは腹を探って答えた。
「い、1番!」
とたんにイラ・ヤルヴァは手のひらを顔の前で叩き合わせ眼を丸くしてアイリに告げた。
「まぁ! なんという自己犠牲。1番はテレーゼとヒルダを先に私 が助け出してアイリを助け遅れるでした」
アイリ・ライハラは唇をねじ曲げ細めた眼で冷ややかにひねくれた天使を見つめた。その天使の背後に急激に巨大化する岩の塊 が見え始めた。
毒を盛られたのは自分だけでなくテレーゼ・マカイとイルブイの女大将ヒルダ・ヌルメラもだった。
誰が!? なんて酔狂な思いをアイリは抱かなかった。
アーウェルサ・パイトニサム
飯屋の親父とグルだったのかとアイリは奥歯をぎりぎりいわせた。
「う、ウルスラ────お前、げ、解毒薬、持って──ないか?」
「持ってたらもう飲んでる」
身も蓋もない言い分だとアイリは苦笑いした。それなら蛮族の総大将は、とアイリは尋ねた。
「ひ、ヒルダ──解毒薬を────持ってないか」
「虫下しなら持ってる」
そんなもん何に持ち歩いているんだとアイリは眉根しかめた。それなら
「お、お、おい! 誰か、解毒薬、も、持ってないか」
すぐに3人がもたれている木のところへ
「いかがなされた騎士団長どの?」
「し、
アイリが言ってる最中にオイヴァはアイリから顔を上げ連峰の方を凝視した。
アイリは何だと視線だけを横に振り上げ
遠く空から何かが飛んで来てる。止まっているように見えたそれは徐々に大きさを増していた。
ああ、まずい。まずい事態だぞ!
アイリは
「何をされるんだ?」
隣で木の幹に身を預け身動きしないテレーゼ・マカイがぼそりと尋ねた。
「お、俺の考えを、よ、読んだなぁ!」
「いや、貴君が考えてることをぼそぼそ言うんでちょっと気になった。ところでアイリ、飛んでくるのは岩じゃないか?」
い、岩? 魔女の間違いじゃないかとアイリは横たわったまま空を凝視した。
確かに石っころに見える。岩じゃなくあれは石っころだとアイリが言い掛けている寸秒にその石っころがぐぐっと大きさを主張した。
え、!?
アイリの額に冷や汗がどっと吹き出す。
石っころがまだ遠くにあるのがわかった。遠くて
石っころじゃねぇ!!! ありゃあ岩石だぁ!!!
「おい! オイヴァ! 逃げろ」
すくっと立ち上がった
万事休す、だとアイリは眼を細め冷ややかな表情になった。
直後、眼の前に見知らぬ素足が立っていることに気づきアイリは視線を振り上げると相手も腰を折りアイリの顔を覗き込んだ。
「おひさぁ────」
頭上に光る環を浮かばせた銀翼広げる純白のドレープ姿のイラ・ヤルヴァがそう挨拶し微笑んだ。
「イラぁ! 助けに来てくれたんだな! さあテレーゼとヒルダと俺を」
イラ・ヤルヴァはアイリの鼻面の前で人さし指を立てた。それをアイリは眼を寄せて見つめ問うた。
「な、なんだぁ!?」
「アイリ────三択です」
「三択だぁ!? そんなことしてる場合かぁ! 大きな岩が飛んで来るんだぞ!」
「岩ぁ?」
イラ・ヤルヴァは
「アイリ、あなたにはあれが岩に見えるんですね。まあ確かに岩ですけれども」
岩じゃねぇのか! じゃあ何だぁ!?
「あれは裏の魔女キルシが放った連邦の山の上半分」
上半分? 半分。全部じゃないのね。
「それって山じゃんかぁ!!! 早くここから助け出せ!!!」
「うるさいですよアイリ。三択の答えは?」
答えもなにも内容を聞いていなかった。
どうせイラ・ヤルヴァのことだ。1番が見て楽しむ。2番が離れて見て楽しむ。3番が見捨ててよそに行くとかに決まってるとアイリ・ライハラは腹を探って答えた。
「い、1番!」
とたんにイラ・ヤルヴァは手のひらを顔の前で叩き合わせ眼を丸くしてアイリに告げた。
「まぁ! なんという自己犠牲。1番はテレーゼとヒルダを先に
アイリ・ライハラは唇をねじ曲げ細めた眼で冷ややかにひねくれた天使を見つめた。その天使の背後に急激に巨大化する岩の