第14話 第2階層

文字数 2,079文字

 洞窟(どうくつ)の入り口で片膝(かたひざ)を地につき女騎士ヘルカ・ホスティラが王女の手に渡したのは小指の先ほどの小さな赤い魔石──朱石(しゅせき)

 王女イルミ・ランタサルは、近くにいるアイリ・ライハラの方へ視線を向けると少女はそっぽを向いてしまい王女はヘルカへ視線を戻した。

「でかしましたヘルカ。それでこそ我がノーブル国が誇る騎士。よくヘリヤを連れ戻してくれました」

 顔を伏せたまま女騎士ヘルカ・ホスティラは王女へ具申した。

「王女様、ダンジョン1階層であのような魔物がいました。正直な話──王女様をお連れして奥へ向かうことなど危険この上なく。賛成いたしかねます」

 頭を下げた騎士を見つめやおら王女は問いかけた。

「わたくしが重荷ですか、ヘルカ?」

 慌ててヘルカは弁明した。

「いえ、決してそのようには────ですが、あってはならぬ万が一に備えるのも王国騎士の務め」

 王女は女騎士の申し立てよりもそっぽを向いていたアイリが顔をむけ上目遣(うわめづか)いにじ────っと見つめていることの方が気になった。それでもダンジョンの奥が気になる王女は押し切ろうとした。

「ヘリヤも戻り、仕切り直しです。(みな)で15階層まで──」

 とたんにアイリがプイと顔を逸らしイルミ王女は顔を曇らせた。

「アイリ・ライハラ、言いたいことがあるなら(おっしゃ)い」

「イルミ、あんたは洞窟(どうくつ)に入るな。騎士団長と騎士半数が警護について外で待ってな。じゃないと────」

「そうしないなら何です?」


「魔石なんてどうでもいい! 私は洞窟(どうくつ)に行かない!」


 王女は(うら)めしそうな顔でアイリ・ライハラを見つめ少女は言い切った。

「そんな顔してもダァめだ!」




 結局、イルミ王女は折れ、リクハルド・ラハナトス団長を含む騎士4人が警護につき洞窟(どうくつ)入口前で野営しアイリと女騎士ヘルカ・ホスティラと若い騎士イルマリ・リスキそれに女暗殺者(アサシン)イラ・ヤルヴァが洞窟(どうくつ)探索に(おもむ)く事となった。

 女騎士ヘルカが発光石を持ち先頭を行くと言いだしてもアイリは反抗しなかった。2番手をアイリが歩き3番目を若い騎士イルマリ、殿(しんがり)はイラが歩く事となった。

 4人は鼻から下を布で隠し乾燥虫に跳びつかれる事もなく第1階層途中、躯が真っ白で目の赤いイタチの一群に取り囲まれ4人で協力し蹴散らす様に倒すと、数十個の小指の爪ほどの赤い魔石を手にして、下り坂の入口に辿(たど)り着いた。

「もう500ネフフス(:約1.5km)も入ったな」

 女騎士ヘルカが立ち止まり下りを見下ろしてそう言うと、女暗殺者(アサシン)イラが否定した。

「いえ、まだ200ほどです。暗闇の狭い場所を長く抜けると人の距離感はおかしくなります。私の歩幅は正確ですのでおおよそ200ネフフスで間違いありません」

 発光石を左手で掲げるヘルカはイラの説明に眉根を寄せた。






「じゃあ、まだ大した魔物は出てこないだろうが、(みんな)気を引き締めろ。下った先は第2階層だろうからさらに強い奴が出てくる」

 リーダー気分で言い放つ女騎士にアイリは大カマキリにすら手こずったのにどうするんだとそっぽを向いて顔をしかめた。その少女の揺らす群青の髪を見つめ女暗殺者(アサシン)イラは不思議そうな顔つきでいた。

 心なしか、奥へ向かうほどアイリ・ライハラの髪が青い光を帯びている気がしていた。

 4人が急な坂を滑る様な勢いで下りると、そこは館でも建てられそうなかなり広い場所で壁面のいたる所から水晶が突き出ていた。

「ヘルカ、発光石をポケットにしまってみろよ」

 アイリに言われ女騎士が発光石を服にしまうと辺りは闇に覆われ、直後赤い夕暮れのような色合いで染まった。

「水晶が──輝いているのか? この水晶すべてが魔石ならこれらを打ち砕き持ち帰れば──」

 期待に女騎士ヘルカが見回すと少女が否定した。

「違うよ。これは赤水晶といって魔物の(えさ)だ。言わば魔力の供給源だ。それが魔物の中で溜まって魔石となってる」

 アイリが説明するとヘルカが半身振り向いた。

「アイリ・ライハラ、お前どうしてそんな事を知っている!? この巣窟(そうくつ)に来た事があるのか!?」

 問いただされ少女が答えようとした刹那(せつな)、女暗殺者(アサシン)イラ・ヤルヴァが腕を振り上げ指さし押し殺した声で(みな)へ注意を(うなが)した。

「気をつけて! 何かいます!」

 イラの指さした先の奥の壁に飛びだした岩の塊が赤い薄明かりの中で動き出し手足を伸ばし躯を起こすとバラバラと薄い岩盤が落ち立ち上がるその大きさに4人はそれぞれの武器に手をかけた。

 立ち上がった後ろ姿は人と同じ様な体躯(たいく)をしているが、その腕の筋肉は屈強な男の太腿(ふともも)よりも大きく、肩幅は馬の体ほども長さがあり、頭には毛がなく代わりに真ん中に一本の角が生えていた。

 そしてその身長は女騎士ヘルカ・ホスティラの倍以上もあり、魔物が振り向く前に女騎士が命じた。

抜刀(ばっとう)!」

 その金属の音に魔物が脚を踏み換えゆっくりと振り向いた。

「どうやらコイツがこの水晶(ほら)(あるじ)ですね」

 女暗殺者(アサシン)イラ・ヤルヴァがそう言うと、アイリ・ライハラが怪物の名を告げた。


「気をつけろ! こいつはサイクロプスだぁ! 殴られたら即死だぞ!」



 振り向いた怪物が顔正面の一つ目で一団を(にら)みつけ地鳴りの様に()えた。





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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