第4話 マカイのシーデ

文字数 2,016文字

 甲冑(アーマー)に身を固めた男ら60人余り。

 重装備の近衛兵57人と騎士6人に取り囲まれ(ソード)を向けられていた。

 兵士らが(やいば)を向けている中央に細身の若い女性が2人いた。それらが互いに背を向け合い立ち並ぶ姿は鏡に映し出される(ごと)く等しく(スカル)の下から金の様な波打つ美しい髪を肩下まで広げ、その黄金を引き立たせる珍しい紫の甲冑(アーマー)を身に付けていた。

 女の1人が兵士らに告げたのか、2人が声を(そろ)えたのかわからぬ様な透き通った声を放った。


「覚悟して参られよ」


 呼応する様に一斉に57名の近衛兵が数歩踏み込み各々(おのおの)の構えで(ソード)を振るう一閃(いっせん)────2人の女が金の前髪から瞳を(のぞ)かせた。


 血よりも赤き怨念(おんねん)の虹彩が揺らめいた。


 踏みだした男らが見たのは双子の女が唇を大きく開いた姿だった。一瞬で左手に握る円形の(シールド)は真っ二つになり右手に構えた(ソード)が砕け散った。それだけでなく甲冑(アーマー)に護られている手足首から血飛沫(ちしぶき)が吹き出し隣り合う兵を染め上げた。

 寸秒で総崩れになった近衛兵らの後ろにいた6人の騎士すらも無事ではなかった。

 (スキャバード)から長剣(ロングソード)を引き抜こうと握る篭手(こて)甲冑(アーマー)が裂けそれぞれの個性(あふ)れる装飾の施された胸当(ブレスト・プレート)(ひび)が走りその場に片(ひざ)をついた。

 だが1人────黒の下地に銀の縁取りが入っただけのシンプルな装飾の甲冑(アーマー)を着た騎士が無事に立ち残っていた。

 黒の騎士は大剣(クレイモア)を引き抜き相似(そうじ)の女らに(やいば)でなく側面の(フラー)(剣の側面に彫られた(みぞ))を向け構えていた。だが黒の騎士のそれの(フラー)はただの(みぞ)でなく、その谷間に沿って一続きの赤い魔石が埋め込まれ脈打つ様に(ガード)から刃口(きっさき)へ向けて明滅していた。

 類同の女2人が(あか)き横目を(しぼ)り黒の騎士を(にら)み据え開いた唇の形を変えると、黒の騎士の大剣(クレイモア)──その(やいば)が激しく揺れあろう事か金属である刀身が波打ち始め闘技場の内塀がぼろぼろと砕けだした。



「そこまでじゃ!」



 相似(そうじ)の女らと黒の騎士が顔を振り上げた。

 闘技場(アリーナ)の高座にある閲覧の席に座るデアチ国の元老院の(おさ)──サロモン・ラリ・サルコマーが広場に立っている3人を見下ろしていた。

「お前らの試合はいつも殺し合いだ。見てみよ練習台が幾らいても足りぬ。だが第2騎士──ヴォルフ・ツヴァイクそなたが振るう魔剣はシーデ姉妹に砕かれたとなると、マカイのシーデを反逆罪に問わなくてはならぬ。そなたの剣は国宝ゆえな」

 (しわ)()みが競い合う()せた長老に言われ黒の騎士は魔剣を(スキャバード)に戻しマカイ家のシーデと云われる姉妹は(こうべ)()れた。

 塀の数カ所にある出入り口から担架を手に倒れている近衛兵や騎士よりも多いもの達が駆け足で救護に入ってきて手当てをしだした。それをシーデ姉妹は横目で見つめていると妹のテレーゼ・マカイが澄み渡る声で元老院の(おさ)に問うた。

「我ら2人して一瞬3千騎の敵兵士を倒せる。シン・サルコマー、それを知りながらなぜ(ゆえ)に我らに部隊を押し付ける!?」

 間をおいて元老院の(おさ)がシーデの妹へではなく黒の騎士に(たず)ねた。

「3千騎────聞いたかナイツ・ツヴァイク」

 黒の騎士が無言で(うなづ)いた。

「ナイツ・ツヴァイク──東のイモルキとの3日間戦争でお前が出陣したのはただの1度。4方面から我ら軍団が攻め行った──それで間違いないか?」

 またしても黒の騎士は(うなづ)いただけで声にはしなかった。

「敵1万3千騎をなぎ倒しイモルキの譲歩(じょうほ)を引き出したのはお前の手柄(てがら)か?」


「滅相も御座いません。率いた3万の兵と素早い伝令による働き」


 元老院の(おさ)サルコマーは(うなづ)き話を相似(そうじ)の姉妹に振った。

「テレーザ、テレーゼ──お前達はマカイのシーデ──死を(もたら)し叫ぶものと敵軍に恐れられておるようじゃが、戦況は一点にしてあらず。お前達マカイ家のものとあれど、同時に多方面から押し寄せる敵を(ほふ)れまい。真の手足となる兵を育て率いてこそ驍将(ぎょうしょう)。我が軍には幾名かの勇猛な騎士はおるが、末端の兵士は寄せ集めに過ぎぬ────マカイのシーデと敵大軍に真に(おそ)れられる騎士となれ」

 双子の女騎士は片膝(かたひざ)を地面につき(こうべ)を下げた。

「御意、サー・サルコマー」





 元老院の(おさ)サロモン・ラリ・サルコマーは言葉に重きを与えるためによく話しに間をおく。黄金色の髪を垂れじっと()えたテレーザ、テレーゼ姉妹はあまりにもサー・サルコマーが間をおいたため妹のテレーゼが(わず)かに顔を上げ、隣で姉のテレーザが小声で(たしな)めた。

「おやめ──テレーゼ」

 テレーゼが前髪の間から赤い虹彩で見つめた元老院の(おさ)の横に伝令部隊の(スカル)を脇に持った兵が片膝(ひざ)をつき何かを報告していた。

「姉様、外に動きが」

 (いくさ)かと姉のテレーザもそっと顔を上げ前髪の間から(のぞ)いた伝令兵の(スカル)の羽飾りから南軍のウチルイ方面隊のものと知り属国で謀叛(むほん)かと(にわ)かいきりたった。

 いきなり元老院の(おさ)が顔を戻し向けたので姉妹は(あわ)てて頭を下げた。

「マカイのシーデ、ウチルイ国境を越え密偵(みってい)が入り込んでおる。足速(あしばや)の兵40を従え捕らえてまいれ」


御意(ぎょい)


 返事をし立ち上がったマカイのシーデ姉妹が紫の唇を不気味に吊り上げた。





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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