第18話 手練(しゅれん)

文字数 1,700文字

 半時もかからず銀眼の魔女のコレクションをすべて砕いて4つの部屋の氷床(ひょうしょう)は砕けた氷だらけになった。

 だが生き物がばらばらにされたとは微塵にも感じさせないのはまるで血抜きをされて凍らせていたようにまったく氷片(ひょうへん)に血が滲んでいなかった。

「銀眼、出てきませんね」

 そうヘルカ・ホスティラが王妃(おうひ)イルミ・ランタサルに告げた。

「不気味だわ────」

 そう。銀眼の魔女は我々のこの行いをすでに知っていて怒り豹変した姿で襲ってくるだろうとイルミは踏んでいた。

「この5つの大部屋、それぞれが十分に広いのですが部屋ごとに行き来できる出入り口はありながら通路や屋外に出られるドアはありませんし、窓1つありません。置いてあったものといい異様な感じをうけます」

 そうテレーゼ・マカイがイルミ・ランタサルに告げると王妃(おうひ)は部屋を見まわした。

 髑髏(しゃれこうべ)の形した城ほどもの大きさの氷の建物といい、中の永久回廊や生き物を凍らせて置いてあったこの部屋といい魔女の異様さを如実(にょじつ)に表してるとイルミ・ランタサルは思った。

「なに、これしき人の(ごう)に比べたら序の口じゃろうて────(くさ)っておるわ」

 そう言い捨てるカローンは数多(あまた)の死者を見続け達観しているから言えることなのだろう。銀眼の魔女が何をしてこうなったのか知りたいという好奇心もあるが、今は殺人鬼のように北の村々を襲い続けるあれを成敗するのが先決。

 ふとイルミ・ランタサルは銀眼の魔女の殺人や異常な収集癖(しゅうしゅうへき)以外の普通の生活を見てみたいと感じた。そこに普通の人としての生活を見いだせればもっと魔女の理解になるのにと思った。

 困惑している(たの)みの(つな)にノッチが何か(ささや)くと群青の少女は顔を上げた。


 アイリ・ライハラをけしかけてはいけないとイルミ・ランタサルは眉根寄せ瞳を細くした。



 あれはイラ・ヤルヴァを失い心壊れた過去を持つ。



 この異様な島でアイリ・ライハラを戦力から失えばそく撤退(てったい)の2文字が浮かんでくる。ノッチもカローンも十分に強いが決め手に欠けるとイルミ王妃(おうひ)は思った。

 帰りの小舟を魔女に襲われれば6人などあっという間に北海に呑み込まれてしまうだろう。

 いさぎよく退()いて大軍を率いて戻るという手もあるが1万の兵で足らぬかもしれず10万では多すぎるかとイルミ・ランタサルはつかみかねた。

 よくアイリ・ライハラの強さを誇張するために1万の兵に匹敵すると王妃(おうひ)は他人に言うが、そもそもひと1人が万の兵に並ぶなどちょっと考えても変だ。

 なら銀眼の魔女はどれくらいの強さなのか。10や20人の兵では(みな)倒されてしまいそうな気がするが、百も兵が押し寄せたら銀眼の魔女は押し切られてしまいそうな気がする。

 アイリ・ライハラの強さなら3、4人もいれば銀眼の魔女を倒せそうな気がするが、誤りだろうか。

 もしかするとノッチと2人だけでも銀眼の魔女は負けるかもしれなかった。それが決して買いかぶりなどでなく公平な目線で物事を見た結果だとイルミ・ランタサルは思った。

 それにカローンが加わればより確実になるだろう。

 ヘルカ・ホスティラとテレーゼ・マカイを(わたくし)の防御につかせあの3人を当ててみようと王妃(おうひ)は決断した。





 異様に素早い青髪の少女や若い男。

 呪いの声を浴びせる女剣士。

 そして素手で(ソード)に立ち向かう小汚い老人。

 いつになく面白い冒険者メンバーだと女は思った。前回30年前におとずれたものたちはやたらとタフな騎士と弓使いのエルフ、回復魔法に秀でた聖者、それに爆裂魔法に特化した魔法使いだったが、簡単に(ほふ)りさり北海の海原に廃棄した。

 所詮(しょせん)は強くともただの人だった。

「ふふふっ、あの老人────素手で長剣(ロングソード)(やいば)受け止めていた。だがこの次はその(ナックル)を引き裂いてやるよ」


 だがやはりあの青は厄介(やっかい)だ。


 男よりも小娘の方が面倒だと感じた。

 素早いだけでなくこちらの太刀筋(たちすじ)に合わせ無意識に攻撃手段を変えてくる。

 騎士どうしの剣戟(けんげき)は見たことがないが、きっと美しいのだろう。あの青は騎士になればより多くの剣技(けんぎ)を身につけ(ちょう)のように舞うこともできただろうに。

 だが美しかろうがそうでなかろうが、お前らはこの島から生きて出られない。



 さあ────────恐怖せよ。




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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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