第15話 強さ

文字数 1,701文字


 半時の()に騎士居館(パレス)にいた八十七人の中堅から末席の騎士らがアイリ・ライハラらの手に落ちた。

「上級騎士は別な居館(パレス)か──」

 ヘルカ・ホスティラがそう言うまでもなくここに手応えのある奴はいなかった。一人も起きて戦うこともできず殺された。

 終盤、駆けつけた近衛兵二十騎あまりも倒した。

「まだ、こんなもんじゃないぞ。一割だ。次行くぞ!」

「アグネス、上級騎士の居館(パレス)は?」

 アイリに問われ王女アグネスは困惑した。

「上級騎士の住居はばらばらです」

 それを聞いてアイリは即断した。

「手分けして攻める二人一組、俺はアグネスを連れてゆく」

 テレーゼ・マカイはヘルカと組み唖然としていた。

 その騎士の居館(パレス)から散った全員は、片っ端に他の社屋(しゃおく)を襲い始めた。

 アグネスを引き連れたアイリは駆けながら(たず)ねた。

「怖くないかアグネス?」

「こわいです! でもこの人たち、父と母に同じ思いをさせた人たちですよね」

 問われてアイリはそうだと言い切れなかった。(つな)ぎつないだ事柄から事情は想像できた。父クラウスがいたころ王家打倒の騒乱が起きて、父はアグネスを助け出しパン屋に預け自分が(おとり)になってノーブルの田舎へ逃れた。

 なら父は当時の新政権下の兵に追われていたはずだ。

 騎士も近衛兵も──父が口にした騎士の名は11名だった。これまでに倒した騎士にそれらがいたかわからなかったが、すべて倒せば父を追い立てた連中への意趣返しになると思った。

「騎士だけじゃない。家臣(かしん)らに何人も父を追い立てた連中がいる。麦の間に雑草がはびこったらやるべきことは一つだ」

「反乱軍からわたしを救い出して頂いてありがとうございます」

「アグネス、王と王妃(おうひ)を殺された無念を晴らしたいか」

 一緒に次の居館(パレス)へ駆けているアグネスは押し黙った。

 そんなの決まってると思った。

「それしかないです」

 アグネスがそう告げると息さえ荒れさせていないアイリ・ライハラが声を押し殺した。

「これからが半端なく面倒だぞ」

「アイリ、あなたは騎士団長だと。お強いのですよね。ならわたくしの(ソード)となり(シールド)となってこの復習を()()げるお手伝いを────わたくしはヨーク王家の末裔。そなたに栄光を」

 アイリはアグネスがくるんくるんと少し違うと感じた。

 あれは何かというと敵に差し向ける。その活躍を見たいのはわかるがうんざりする事もある。

 だがアグネスには手を貸したいなにかがある。

 アイリは居館(パレス)へ入ろうとして扉をそっと開くといきなり(ブレード)振り下ろし鎖帷子(チェインメイル)を着て鉄靴(サバトン)を履いた男から()りつけられた。

 ヘルカ・ホスティラより大柄な騎士だった。

 アグネスが背にはりつくアイリ・ライハラは(ソード)を両腕で振り上げ叩きつけられた(ブレード)を寸前で受け止めた。

「どこのネズミだ!?」

 その髭面(ひげづら)の騎士がアイリらに問うた。

「リディリィ・リオガ王立騎士団騎士団長アイリ・ライハラ!」

「アイリ・ライハラ!? 旧王家の逃れた娘かぁ!?」

 アイリは眉をしかめた。

 なんで俺がイモルキ旧王家の娘なんだ!? 王女はここにいるアグネス・ヨークだぞ。

 アイリは踏み込んで(ソード)を振り上げ屈強な剣士の(ブレード)を跳ね上げた。

 そのままアイリは(ソード)を素早く一回転させさらにその大柄な騎士の(ブレード)をもう一度弾き上げた。その両腕振り上げきった髭面(ひげづら)の男の喉笛にアイリ・ライハラは(ブレード)押しつけ一気に横へ引ききった。両膝(りょうひざ)を落とし事切れる騎士をアイリの(きわ)から目の当たりにした王女は(たず)ねた。

「アイリ──そなたわたくしと変わらぬ歳のようでありながらどうしてそんなに強いのですか」

「アグネス、歳聞いてなかったな。俺は16だ」

「わたくしは17歳です」

 アイリ・ライハラは小さく舌打ちした。くるんくるんと同じ歳じゃん。アイリはてっきりアグネスが歳下だと思ってた。

剣技(けんぎ)はクラウスに叩き込まれた。あいつ焼けた蹄鉄(ていてつ)を投げつけるんだぜ」

 えぇ!? クラウス叔父(おじ)さまがとアグネスは眼を丸くした。

 強くて優しい魔術師のあの方の意外な一面だとアグネスは新たに知った。

 もう二人、階段から下りてきた騎士三人をアイリ・ライハラは瞬殺しその手際にアグネス・ヨークは眼を見張った。


 この子は苦しくないのだろうか?


 こんなに強くて────。





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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