第2話 密偵(みってい)
文字数 1,753文字
足速の伝令が連合主部に駆け込んだのはイモルキの王制が変わり三日目のことだった。
北の武国デアチの手による王制転覆の衝撃は大きく、連合主部を震撼させた。
女傑エイラ・メリラハティ統制官はさっそく対策議会を召集しイモルキとノーブルに対する策を検討した。
「ノーブルはデアチとイルブイ、イモルキと共和国を名乗っておりますが実質ノーブルの属国で領地を拡大し続けております」
補佐官のその説明に議員らは憂い次々に意見を口にし始め中には戦 の準備を求めるものも出た。いずれ南の砂漠を越え進軍してくると皆 は危惧している。あの小国が北の武国を制圧した時点で手を打っておくべきだったというのだ。
戦争を皆 望みはしない。単純に損害が大きいからだ。勝てば領地や賠償金、税の増収など利益はある。だが兵は疲弊し防備は手薄になる。とくに今回のように東をイモルキ、中央をノーブル、西をイルブイに押さえられていると同時に三方へ展開せねばならず敗戦の危険性は増す。万が一負ければ膨大な額の賠償金を支払わねば連合の国々が蹂躙 される。
その論争をメリラハティ統制官は胸の前で腕を組んだまま静かに聞いていてぼそりと呟 いた。
「異国へ手を出した直後ならまだ兵も浮ついているだろう。ノーブルとイモルキを叩 くなら今しかない」
それを耳にした長老派を取りまとめる僧侶 ヴィヒトリ・ラウタヴァが声を荒げた。
「それが見当違いなら連合は壊滅的打撃を受けますぞ」
統制官に背く意見を聞いた警備騎士局の局長ヨエル・ニュカネンは押し殺した声で意見した。
「見当違いではなかろう。間者 がそれを証明しておる」
それに長老派のヴィヒトリが指摘した。
「一人のために連合を危機に曝 すのか!?」
論争にメリラハティ統制官は結論した。
「四名の間者 を出そう。その報告を待って進軍を決める。それまでは政略とする。ノーブルに和議の使節団を出す」
斥候 は騎士の領分だとばかりにヨエルが名乗りを上げた。
「ではさっそく四人の斥候 を────」
それをメリラハティ統制官は片手を上げ覆 した。
「騎士 二名、僧侶 二名だ」
理由は明白だった。
武力を持って制圧すべきか、使節を派遣し穏便にことを謀 るか、冷静な判断をようするからだった。
密偵 を送るのは相対する国々片方とは限らない。
同時に敵対する双方が腹の探り合いをするのが常 である。
ここイモルキの王室でもその検討がされていた。
「アグネス王妃 様、例年ノーブル、デアチ、イルベ連合に密偵 を遣わしていましたが、ノーブル、デアチとは同盟を結び、イルベ連合のみ動きを探ることが肝要であります」
新しい家老からそう勧められアグネスは迷った。
「ここ五年、イルベ連合とはもめておりません。密使を遣わせるだけでよいのでは?」
「王妃 様、事なきにという確認では密使は必要ですが、戦略に先んじるためには密偵 は不可欠なのです」
「要は探り合いですね。ここイモルキにもイルベ連合の密偵 は来ていると?」
「はい、必ずや入り込んでおります」
家老に言われアグネスはしばし思案して口を開いた。
「わかりました。密偵 の手はずを──あ! アイリ・ライハラ殿を遣わせることはできないのですか? あの方なら信頼おけます」
家老は困惑げな面もちになった。
「あの方はノーブル国の騎士団長なのですよ。信頼できましても立場上密偵 として派遣するわけには────」
「仕方ありません。では信頼おけるものを数名、個別で」
「個別でと申しますと?」
「別々に派遣するほうがイルベ連合に感づかれる確率も下がりましょうぞ」
家老は納得してアグネスに告げた。
「かしこまりました。騎士から三名を選びまして別ルートで送り込みます」
頷 いた王妃 はイルミ・ランタサルならどうするだろうと考えた。賢い彼女なら調べもきちんとこなすだろう。ノーブルがまだ大国デアチを落とす前、それはかなり難しいことだっただろう。
私にも同じことができるだろうか。
そう思いアグネス・ヨークは頭 振った。
私にまだそんな才覚はない。
イルミ・ランタサルのような度胸と才覚が欲しいと王妃 は思った。
イモルキからデアチ国のファントマ城に帰り着いたイルミ・ランタサルは続けざまにくしゃみをして、冬場に遠出はするものじゃないと思った。
「はくしゅん!」
うう、誰かうわさしてる。
北の武国デアチの手による王制転覆の衝撃は大きく、連合主部を震撼させた。
女傑エイラ・メリラハティ統制官はさっそく対策議会を召集しイモルキとノーブルに対する策を検討した。
「ノーブルはデアチとイルブイ、イモルキと共和国を名乗っておりますが実質ノーブルの属国で領地を拡大し続けております」
補佐官のその説明に議員らは憂い次々に意見を口にし始め中には
戦争を
その論争をメリラハティ統制官は胸の前で腕を組んだまま静かに聞いていてぼそりと
「異国へ手を出した直後ならまだ兵も浮ついているだろう。ノーブルとイモルキを
それを耳にした長老派を取りまとめる
「それが見当違いなら連合は壊滅的打撃を受けますぞ」
統制官に背く意見を聞いた警備騎士局の局長ヨエル・ニュカネンは押し殺した声で意見した。
「見当違いではなかろう。
それに長老派のヴィヒトリが指摘した。
「一人のために連合を危機に
論争にメリラハティ統制官は結論した。
「四名の
「ではさっそく四人の
それをメリラハティ統制官は片手を上げ
「
理由は明白だった。
武力を持って制圧すべきか、使節を派遣し穏便にことを
同時に敵対する双方が腹の探り合いをするのが
ここイモルキの王室でもその検討がされていた。
「アグネス
新しい家老からそう勧められアグネスは迷った。
「ここ五年、イルベ連合とはもめておりません。密使を遣わせるだけでよいのでは?」
「
「要は探り合いですね。ここイモルキにもイルベ連合の
「はい、必ずや入り込んでおります」
家老に言われアグネスはしばし思案して口を開いた。
「わかりました。
家老は困惑げな面もちになった。
「あの方はノーブル国の騎士団長なのですよ。信頼できましても立場上
「仕方ありません。では信頼おけるものを数名、個別で」
「個別でと申しますと?」
「別々に派遣するほうがイルベ連合に感づかれる確率も下がりましょうぞ」
家老は納得してアグネスに告げた。
「かしこまりました。騎士から三名を選びまして別ルートで送り込みます」
私にも同じことができるだろうか。
そう思いアグネス・ヨークは
私にまだそんな才覚はない。
イルミ・ランタサルのような度胸と才覚が欲しいと
イモルキからデアチ国のファントマ城に帰り着いたイルミ・ランタサルは続けざまにくしゃみをして、冬場に遠出はするものじゃないと思った。
「はくしゅん!」
うう、誰かうわさしてる。