第24話 もつれ合う糸

文字数 1,708文字

 ミルヤミ・キルシを捕らえた!

 その瞬間、背後の肉壁を突き破り半月刀(シャムシール)刃口(きっさき)がアイリ・ライハラの甲冑(アーマー)の背に突き立った。

 唖然となったアイリは魔女の喉笛から手を放すと急激に長剣(ロングソード)を振り回し背後へと向きを変えた。

 水平に()り裂かれた臓腑(ぞうふ)の壁の向こうの暗闇に見覚えのある顔があった。


「祖母に手をだすな!!!」


 アレクサンテリ・パイトニサムがヒルダの(ソード)を両手で突き出していた。

 短剣持たせ追放したミルヤミ・キルシの血をひく孫だった。

 その背後に地面に突っ伏したヒルダ・ヌルメラがかろうじて見え少女は焦った。

 アイリ・ライハラは半月刀(シャムシール)を腕で弾き飛ばすとアレクサンテリを(にら)み据えたまま左腕の籠手(こて)臓腑(ぞうふ)の切れ目を押し下げ迎え打とうと外に出ようとして背後から伸びてきた数本の触手に両腕を(から)まれ引き戻された。

「アレクに手をださないでくれ!!!」

 背後から(しわが)れた魔女の声が訴えかけアイリ・ライハラは愕然(がくぜん)となった。

 人に害悪なす大陸1()み嫌われる魔女がプライドもかなぐり捨て血筋のものを守ろうとしていた。

 お前でも身内は大事なのか!?

 そんな心根が魔女にあったことにアイリは驚いた。

 (おのれ)以外の人々は殺す程度にしか見てないとこれまで思い込んでいた。

 眉根寄せてアイリ・ライハラは背後のミルヤミ・キルシへ言い切った。

「アレクサンテリを助けたくば、投降しろミルヤミ・キルシ!」


(われ)の命でよければ差しだす。孫は殺さないでくれ」


 それを耳にしたアレクサンテリがアイリ囚われる肉の(ほら)へ入り込もうと臓腑(ぞうふ)の切れ目に手をかけて広げ大声で魔女を思いとどまらせようとした。

「なんてことを言うんだミルヤミ! あなたを助けに決死の覚悟で来たんだ!!」

 やってられないとアイリは眼を細め唇をひん曲げた。悪辣(あくらつ)の魔女が人情節を歌い上げ、騎士団の中から裏切りものとして追放したはずの男が(から)んできた。

 2人とも()り捨てるか!? と少女が(ソード)を持ち変えた矢先にミルヤミ・キルシがとんでもないことを言い始めた。

「このアイリ・ライハラは立派なできた少女騎士────私達を見逃してくれるに決まっているよ」

 ぁあああ!?

 見逃すだぁ!?

 殺し合った相手にどうやったらそんなことが言えるんだぁ!?

 アイリは半眼になりもっと唇をひん曲げた。

 お前ぇ────ついさっき、俺に、お願いだ────死んでくれって言ってたじゃんか! その相手がどうして見逃すんだぁ!

 (おだ)(あお)り上げたら誰でも舞い上がるって思ってるなら大きな勘違いだぞ。

 俺はガキの時から親父に真っ赤に焼けた蹄鉄(ていてつ)ぽいぽい投げつけられ肉親の(みにく)さ目一杯見てきてるんだぁ。

 持ちつ持たれつを地でいこうなんて信じられねぇ────。

 不意にアイリは怖気(おぞけ)を感じて半身振り向くと魔女キルシの周囲から伸びた触手が真っ赤な口開いて今にも飛びつこうと鎌首(かまくび)もたげあげていた。

 とっさに長剣(ロングソード)振り回し襲いかかろうとする蚯蚓(みみず)の化け物を(たた)()った。

 だがアイリは衝撃を感じて前につんのめった。

 その背を向けた矢先に後ろのアレクサンテリ・パイトニサムがまたしてもアイリの背に半月刀(シャムシール)を突き立て少女は顔を引き()らせ半身振り向いた。

 魔女の孫がどうして甲冑(アーマー)(つらぬ)けられないのだと困惑げな面もちになっていた。

「めんどくせぇ! お前らこの場でその首()り落としてくれるわ!!」

 アイリが怒鳴り散らした寸秒、背後でミルヤミ・キルシが(すす)り泣き始めアレクサンテリを(にら)みつけていたアイリは困惑し眼を丸くし(あご)を落とした。


 ああ────これはきっと呪いだ。


 すでに魔女の術中に堕ちたのだ。


 アイリ・ライハラは(ソード)放り出し頭抱え込みしゃがんでぶつぶつと(つぶや)くと群青の耀(かがや)きが弱まった。

 その刹那(せつな)、肉の(ほら)に操り人形のごとくぶら下がった魔女ミルヤミ・キルシの表情が醜く(ゆが)み引き()ったような笑みを浮かべた。

 その腹を裂き流れ出た汚泥ような臓腑(ぞうふ)がアイリ・ライハラへ迫った。



 しゃがみ込み出方を待った。

 今、(そば)で起きている変事がアーウェルサ・パイトニサム()の魔女のキルシの本意だとわかっていた。



 押し寄せる臓腑(ぞうふ)辿(たど)り着く寸前、アイリ・ライハラが横へ手のひらを向けた瞬間、放置された長剣(ロングソード)がスピンし一瞬で手の中へ戻った。





ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み