第22話 幸せな授かり物

文字数 2,110文字

 ちゃぽん──。

 波紋が広がってゆく。

「はぁ────────────ぁぁ」

 池を見つめ少女は長いため息をもらす。

「仕方ないですね。やっちゃったことは」

 女異端審問司祭が開き直るのを(うなが)した。

「はぁ────────────あぁ」

 アイリ・ライハラの真似をして横に並び座った記憶喪失の裏の魔女キルシが長いため息をもらした。

「まあ死なせたわけじゃないので深く考えないことです」

 ヘッレヴィ・キュトラがそう(なぐさ)める。

「天国の母ちゃん、きっと(にら)んでるぅ」

 少女がそう言い亡き母を思い父親が後妻を何人も迎えたことに激怒したのだとヘッレヴィはやっと納得がいった。


 だがしかし! あれは酷いだろう。


 アイリ・ライハラは家の中を逃げるクラウス・ライハラへ24個の焼けた蹄鉄(ていてつ)すべてを命中させた。

 火傷を負った父は這々(ほうほう)(てい)で水を張ってあった風呂に飛び込んだ。

 少女が(きびす)を返し重石(おもし)にする岩を取りに行ったので女異端審問司祭は(あわ)てて止めに入った。

 気を失ったテレーゼ・マカイの介抱が必要だと言い聞かせたらアイリは女騎士の額のU字型の火脹(ひぶく)れを見つめ責任を感じたのだろう。

 拷問器具のアイアンメイデンの頭部だけを持って来てテレーゼ・マカイに着けようとしたのでヘッレヴィはまた(あわ)てて止めに入った。

 だいたいこの親子の家に何で拷問器具があるのだと異端審問司祭が少女に問うと、幼少のころから悪さが過ぎると父親が娘を入れていたと聞きヘッレヴィは凍りついた。

 アイリ・ライハラの粗暴さの一因は父親にあると女異端審問司祭が自分の親がそのような人柄でなかったことを天に感謝した。

 ヘッレヴィはテレーゼ・マカイの髪が伸びて額の傷が消えるまで彼女に面の付いた(スカル)を与えてはどうだろうかと少女に提案した。

 マカイのシーデといえども死地から蘇ったと国のものに知られたら大騒ぎになるからほとぼりさめるまで素姓(すじょう)を隠すように説得しようとアイリを説き伏せた。

 少女がアイアンメイデンを手に居間を出て戻ると美しい彫刻を施された(スカル)(たずさ)えていた。

 とりあえずテレーゼ・マカイのことはそれでなんとかなると異端審問司祭がホッとすると、妻達に(かつ)がれベッドに連れていかれる父を見て少女がまたキレたのでヘッレヴィはアイリの手を引いて強引に屋外に連れ出し気持ち落ち着かせようと村を出て森に分け入り小さいが綺麗な池の(ほとり)に出た。

 ぶつぶつ(つぶや)くアイリが7個目の石を投げ入れた時だった。



 池の中央が光り始めヘッレヴィ・キュトラは何なのだと目を見張った。



 す────っと水中から純白のドリス式キトーン(:古代ギリシャの服装の一種)を身に(まと)った後光耀(かがや)く美青年が現れ3人に語りかけた。

「そなたか。小石を投げ入れ思いのうちを(つぶや)くのは?」

 こ、これは金の斧、銀の斧の寓話にある青年神ヘルメスなのではとヘッレヴィ・キュトラは恐れ入り、アイリ・ライハラが自分を指さし美青年神に告げた。

「そうだよ。俺だよ。あんた何もんだよ? 水浴びに来て人が現れたんで(あわ)てて神の振りする可哀相な奴か?」


「ち・が・う! って!! 正直者に幸を授ける有り難い────」


「──可哀相な奴だな」

 アイリが失礼な合いの手を入れて美青年神が眉根しかめて(にら)み下ろし怒鳴った。

「違う、言うとるやろ!」

「あ、(なま)りでわかった! バリバリの○西人じゃん!」

 少女が平気でポンポン突っ込むのでヘッレヴィは神の怒りに触れるのを恐れその口を塞ごうと手を伸ばした。

「いやぁ! 関係ないやろ! 石投げてたんはお前はんかぁ!?」

「さっき、俺だって言ったじゃん!」

 下唇突き出しアイリが言い返し、美青年神が腕を振り上げ引いてしまい探るように言い返した。

「お前こそ、神○○人やろ────」

 ヘッレヴィ・キュトラは神々(こうごう)しい見方が消え失せこいつらが同じ(たぐい)の人種に思えてきた。

「正直に答えたっしょ。何かくれ」

 そう言って少女が片手のひら突き出した。

「何かくれ」

 様子を見ていた記憶喪失の裏の魔女キルシも右手のひらを突き出し、ヘルメスは子ども2人の態度に引き()った顔で湖面を後退(あとず)さりどもりながら(なじ)った。

「お、お前らなぁ──ちょっとは厚かましいとか思わんのかい!?」

「かったるいなぁ。何かくれんと、けっぱぐるぞ(:蹴っ飛ばすぞ)」

 アイリに言われ美青年神は肩をすくめ苦笑いすると少女へ右手を伸ばし指さした。

「よかろう。くれてやるから有りがたく頂戴(ちょうだい)せいよ」

 ヘルメスがエクスカリバーでも授けるのかと、女異端審問司祭はちょっと胸高鳴らせると、いきなり『ぽん!』と音がして少女らに色とりどりの花びらが降ってきた。

 ヘッレヴィはまさか花びら(・・・)を授けたとか言うんじゃないだろうなと眼を細めた。

 いきなり少女らがヘッレヴィ・キュトラの方へ振り向きにま────っと不抜けた笑みを浮かべるなり手を取り合ってスキップしながら池の(ほとり)から立ち去ってしまった。

「うっ!」

 思わず息を呑んだ女異端審問司祭が美青年神へ腕振り上げ指さし詰問(きつもん)した。

「あんたぁ! 何やらかしたんだ!?」

 ヘルメスが眼を細め(いや)らしく微笑んだ。



(さち)を授けたんよ」



 あいつらお馬鹿(・・・)になったと女異端審問司祭ヘッレヴィ・キュトラは(あわ)てて少女らを追いかけた。





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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