第3話 引くぞ
文字数 1,639文字
ウチルイ国にイラ・ヤルヴァの実家がある。
周囲は森に囲まれ、彼女の家よりも高いのは馬で1日もかかる遠くの山だけだ。
それでも敷地のずっと先から見える屋敷の大きさにアイリ・ライハラは驚いた。だけど豪華だとか、城のようだと決して口にしなかった。
横に座るイルミ・ランタサルがずっとぎりぎり歯ぎしりしてる。
大きさではディルシアクト城が勝るとも、造りではイラの実家がどう見ても豪勢。いや、お菓子の屋敷に見える不思議さ。決してイラに言わないが────。
なんかチャラいとアイリは思った。
正門前にアイリ達の荷馬車が止まり、次々に騎士達の荷馬車が並ぶとイラが荷台から飛び下りて閉じた鉄扉の方へ行き大声を上げた。
「お父上!愛娘 戻りました!」
アイリは思わず腕を振り上げてしまった。コイツ自分を愛娘 と言うか!
「ようぞ戻ったなイラ」
突然、後ろから聞きなれぬ声がして、アイリとイルミ王女は驚いて操馬台 から腰を上げ振り向いて無様に身構えた。
アイリ達の荷馬車の荷物の上に見知らぬおっさんが正座している! 小太りだが妙に小綺麗な格好をしている。
そうだ。イラは気配も感じさせずに後ろに回り込める。この娘にしてこの親!
「イラ、このものらは?」
おっさんが右手の小指を振り向け指さしアイリは鳥肌立ってしまった。隣のイルミ王女も唖然として一言も言えずにいる。
「あら、お父上。私 の仲間、ノーブル国王妃 イルミ・ランタサルと配下の騎士団の忍ぶ姿」
いや、俺、騎士団に入った覚えねぇし!
アイリは唖然と口を開いたまま横へ振り向き荷馬車へ戻ってきたイラを見下ろした。
それにイルミ王女を勝手に王妃にしたら問題だろう!
「そうかそうか。お前のお友達なのね」
おっさんが小指を引き戻したが自分の逆の頬 先に立ててみせにんまりと微笑んだ。
いきなりアイリは服を引っ張られイルミ王女へ振り向くと少女に顔を寄せ王女が囁 いた。
「アイリ、何か言っておやりなさい──」
少女はぶんぶんと顔を振った。
「嫌だ────怖い」
いきなりおっさんが体格に似合わぬ敏捷さで荷物から飛び下りて両手をパンパンと打ち鳴らした。
「ユリウス! 門をお開け! イラのお友達を歓待いたしましょう!」
すぐに大きな門が開き合間から燕尾服 に身を包んだ眼光鋭い白髪の男が出てきて深々とアイリ達にお辞儀をした。
「ようこそお越しなさいました。お客様。ささ、お入りくださりませ」
門を振り向きその執事を見下ろすイルミ王女が操馬台 で固まっている。アイリはその理由が何か気づいていたが怖くて口に出せなかった。
ユリウスと呼ばれたユリアンッティラ公爵家 の使用人は男の格好をしてるが、どう見てもその胸がイルミ王女よりも豊満。いや豊胸なのだ。
コイツ、顔や名と服装は男だがどう見ても女だぞ!?
婆さんに見えないことが少女の眼つきを魔物を見るようなものにさせていた。そのアイリ・ライハラのわき腹をイルミ王女が小突いた。
「あ、アイリ、なっ、中へ、はっ、入りましょう」
少女は呪われたような暗い顔をイルミ王女に振り向け呟 いた。
「あんたが来るって言い出しっぺだからな。ウチルイ国の兵士らの顔色と慌 てぶりの意味がやっとわかってきたぞ。今夜あんたの警護しねぇ!」
見放す少女に王女は思わず食ってかかるが、先に敷地に入り歩く使用人よりも荷馬車の横を共に歩くイラと父親が気になり眼を離せないでいた。
「ばっ、馬鹿をお言いで、な、ないわよ」
ひそひそ話す王女らの態度がまったく理解できていない女騎士ヘルカ・ホスティラだけが一台後ろの荷馬車の操馬台 にどっしりと構えていた。
周囲は森に囲まれ、彼女の家よりも高いのは馬で1日もかかる遠くの山だけだ。
それでも敷地のずっと先から見える屋敷の大きさにアイリ・ライハラは驚いた。だけど豪華だとか、城のようだと決して口にしなかった。
横に座るイルミ・ランタサルがずっとぎりぎり歯ぎしりしてる。
大きさではディルシアクト城が勝るとも、造りではイラの実家がどう見ても豪勢。いや、お菓子の屋敷に見える不思議さ。決してイラに言わないが────。
なんかチャラいとアイリは思った。
正門前にアイリ達の荷馬車が止まり、次々に騎士達の荷馬車が並ぶとイラが荷台から飛び下りて閉じた鉄扉の方へ行き大声を上げた。
「お父上!
アイリは思わず腕を振り上げてしまった。コイツ自分を
「ようぞ戻ったなイラ」
突然、後ろから聞きなれぬ声がして、アイリとイルミ王女は驚いて
アイリ達の荷馬車の荷物の上に見知らぬおっさんが正座している! 小太りだが妙に小綺麗な格好をしている。
そうだ。イラは気配も感じさせずに後ろに回り込める。この娘にしてこの親!
「イラ、このものらは?」
おっさんが右手の小指を振り向け指さしアイリは鳥肌立ってしまった。隣のイルミ王女も唖然として一言も言えずにいる。
「あら、お父上。
いや、俺、騎士団に入った覚えねぇし!
アイリは唖然と口を開いたまま横へ振り向き荷馬車へ戻ってきたイラを見下ろした。
それにイルミ王女を勝手に王妃にしたら問題だろう!
「そうかそうか。お前のお友達なのね」
おっさんが小指を引き戻したが自分の逆の
いきなりアイリは服を引っ張られイルミ王女へ振り向くと少女に顔を寄せ王女が
「アイリ、何か言っておやりなさい──」
少女はぶんぶんと顔を振った。
「嫌だ────怖い」
いきなりおっさんが体格に似合わぬ敏捷さで荷物から飛び下りて両手をパンパンと打ち鳴らした。
「ユリウス! 門をお開け! イラのお友達を歓待いたしましょう!」
すぐに大きな門が開き合間から
「ようこそお越しなさいました。お客様。ささ、お入りくださりませ」
門を振り向きその執事を見下ろすイルミ王女が
ユリウスと呼ばれたユリアンッティラ
コイツ、顔や名と服装は男だがどう見ても女だぞ!?
婆さんに見えないことが少女の眼つきを魔物を見るようなものにさせていた。そのアイリ・ライハラのわき腹をイルミ王女が小突いた。
「あ、アイリ、なっ、中へ、はっ、入りましょう」
少女は呪われたような暗い顔をイルミ王女に振り向け
「あんたが来るって言い出しっぺだからな。ウチルイ国の兵士らの顔色と
見放す少女に王女は思わず食ってかかるが、先に敷地に入り歩く使用人よりも荷馬車の横を共に歩くイラと父親が気になり眼を離せないでいた。
「ばっ、馬鹿をお言いで、な、ないわよ」
ひそひそ話す王女らの態度がまったく理解できていない女騎士ヘルカ・ホスティラだけが一台後ろの荷馬車の