第26話 落雷
文字数 2,201文字
見回した。
少なくとも前と左右合わせ150はウチルイの近衛兵がいる。
後ろを確かめる気力が失せた。
そこに騎士十数名が加わってアイリ・ライハラを睨 みつけていた。
すっとぼけて歩き去る。
笑わせて手を振りながら、剣 を抜かずに。
男らの顔がそれは無理だと言い表していた。
こいつらがすぐに襲いかからないのは、魔女キルシかもしれないと思っているからだろうか。あの魔女、見かけの歳は似てるから。
人垣の向こうに遠ざかる荷馬車の車輪の音が小さくなる。大声を出せば誰か戻り拾ってくれるなんてのはないだろう。
この群衆に関わらずに荷馬車で入るのは無理だと少女は思った。
「自分で切り開いて──逃げるしかないか」
呟 きアイリは左手に握った長剣 のハンドルに手をかけた。その刹那、周囲の男らが一斉に剣 を引き抜き一瞬で痛いほど緊張が高まった。
こいつらの中には家族持ちだっているだろうし、ウチルイの連中だからって悪人とは限らない。
北の国デアチに唆 されてあっちこっちの国にちょっかい出しているけれど、近衛兵らが企 んでやってるわけじゃないし。
考えてみると少女はよけいに剣 を抜き辛くなった。
「わっ!」
いきなりアイリは大声をだして一歩足を踏みだすと、取り囲んだ男らが動揺して後退 さった。
ほ──れみろ。こいつらびびってるじゃん。
もう手首切り落とすのは止めだ。でも剣 を叩 き落としてもすぐに拾い上げまた向かってくる。
アイリ・ライハラは両の脚を開き腰を下げると長剣 のハンドルを僅 かに引き上げ鞘 から刃 を指の幅引き抜いて呟 いた。
「──イレヴン・ステップ」
いきなり斜め後ろから落雷の音が聞こえ操馬台 に座るイルミ・ランタサルとイラ・ヤルヴァが振り向いた。
遠ざかった近衛兵らの群衆の中央で数十人の兵士らが空中に舞い上がり落ちてくるところだった。
イルミ王女は眼を寄せて2頭立ての馬の間に吊 す裏の魔女キルシへ視線を振り戻した。悪辣 な魔女は縛られぶら下げられたまま振り向いて王女と顔を合わすなりブンブンと頭 振った。
寸秒、また大きな落雷の音が聞こえイルミ王女がそちらへ顔を振り向けると先よりも大人数の近衛兵や騎士らが空高く舞い上がり、叫 び声を上げながら落ちているのを眼にした。
「魔女がもう1人いますねぇ」
横の女暗殺者 に言われ、イルミ王女はあんな事が出きるのは魔女キルシの他にアイリしかいないと、荷物の後方にいるはずの少女に声をかけた。
「アイリ────アイリ・ライハラ!」
返事をしたのは侍女 ヘリヤだった。
「王女様ぁ、アイリさん、さっき馬車から落っこちちゃいましたぁ」
なんでそれを早く言わないの、と王女は真っ青になりイラに命じた。
「馬をあちらの人だかりへ」
イラ・ヤルヴァが2頭の馬の片側の手綱 を引っ張った瞬間、この世のものとも思えぬ様な凄まじい落雷の音にイルミ王女は操馬台 で縮こまった。
馬が向きを変えつつある人だかりの中央で100人近くが土煙を曳 いて群衆の外へ空高く放り飛ばされていた。
イルミ・ランタサルはアイリ・ライハラがあの様な事もできるのだと、瞳を輝 かせ始めた。
馬の首陰から空中に弾き出された近衛兵数十人を目にした裏の魔女キルシは顔を強ばらせ唇を噛んだ。
誰か紛 い物の魔女がいる! 自分よりも大きな爆裂魔法を連発する輩 がいる!
対抗意識を燃え上がらせ長い詠唱 を口ずさみ始めた魔女の先でまた雷轟が聞こえてきて数十の兵士らが空中に弾き出され落ち始めた。
低いところから落ちた近衛兵や騎士らは地面に落とされた誰のものともわからぬ剣 を拾い上げ奇声をあげ向かってくるのがわかった。
アイリ・ライハラは片手で頭上の長剣 を振り回しそれが稲妻の輝きを放つと自分の前の地面に突き立てた。
刹那、突き立った刃 から耳を劈 く雷轟が響き、近い方の兵士らから数十人が空中に弾き上げられた。飛ばされなかった近衛兵らは電撃に痺 れ地面にのた打ち呻 き声を溢 していた。
これなら、まあ、落ち方が悪くても骨折するだけでひと月もすれば怪我は治るし、と少女は思いながら長剣 を地から引き抜きまた頭上で回し始めた。
寸秒、人垣 の外側で派手な爆轟と共に土砂が噴き上がり近衛兵や騎士がアイリのそれに競うように空高く弾き上げられた。
「おお、爪黒の魔女が戻って来たな」
アイリは呟 きいい加減に剣 を地面に叩 きつけた。
突き立ったのが自分のショートブーツの爪先ギリギリなのを眼にして顔を引き攣 らせた。
直後、起きた雷轟に弾き上げられアイリ・ライハラはひっくり返りながら高く飛ばされた。
少なくとも前と左右合わせ150はウチルイの近衛兵がいる。
後ろを確かめる気力が失せた。
そこに騎士十数名が加わってアイリ・ライハラを
すっとぼけて歩き去る。
笑わせて手を振りながら、
男らの顔がそれは無理だと言い表していた。
こいつらがすぐに襲いかからないのは、魔女キルシかもしれないと思っているからだろうか。あの魔女、見かけの歳は似てるから。
人垣の向こうに遠ざかる荷馬車の車輪の音が小さくなる。大声を出せば誰か戻り拾ってくれるなんてのはないだろう。
この群衆に関わらずに荷馬車で入るのは無理だと少女は思った。
「自分で切り開いて──逃げるしかないか」
こいつらの中には家族持ちだっているだろうし、ウチルイの連中だからって悪人とは限らない。
北の国デアチに
考えてみると少女はよけいに
「わっ!」
いきなりアイリは大声をだして一歩足を踏みだすと、取り囲んだ男らが動揺して
ほ──れみろ。こいつらびびってるじゃん。
もう手首切り落とすのは止めだ。でも
アイリ・ライハラは両の脚を開き腰を下げると
「──イレヴン・ステップ」
いきなり斜め後ろから落雷の音が聞こえ
遠ざかった近衛兵らの群衆の中央で数十人の兵士らが空中に舞い上がり落ちてくるところだった。
イルミ王女は眼を寄せて2頭立ての馬の間に
寸秒、また大きな落雷の音が聞こえイルミ王女がそちらへ顔を振り向けると先よりも大人数の近衛兵や騎士らが空高く舞い上がり、
「魔女がもう1人いますねぇ」
横の女
「アイリ────アイリ・ライハラ!」
返事をしたのは
「王女様ぁ、アイリさん、さっき馬車から落っこちちゃいましたぁ」
なんでそれを早く言わないの、と王女は真っ青になりイラに命じた。
「馬をあちらの人だかりへ」
イラ・ヤルヴァが2頭の馬の片側の
馬が向きを変えつつある人だかりの中央で100人近くが土煙を
イルミ・ランタサルはアイリ・ライハラがあの様な事もできるのだと、瞳を
馬の首陰から空中に弾き出された近衛兵数十人を目にした裏の魔女キルシは顔を強ばらせ唇を噛んだ。
誰か
対抗意識を燃え上がらせ長い
低いところから落ちた近衛兵や騎士らは地面に落とされた誰のものともわからぬ
アイリ・ライハラは片手で頭上の
刹那、突き立った
これなら、まあ、落ち方が悪くても骨折するだけでひと月もすれば怪我は治るし、と少女は思いながら
寸秒、
「おお、爪黒の魔女が戻って来たな」
アイリは
突き立ったのが自分のショートブーツの爪先ギリギリなのを眼にして顔を引き
直後、起きた雷轟に弾き上げられアイリ・ライハラはひっくり返りながら高く飛ばされた。